2024年1月26日にリリースされたミーガン・ザ・スタリオンの新曲“HISS”が話題になっている。大ヒット中かつ批評的に高い評価も得ているが、特に注目されているのが先輩ニッキー・ミナージュとのビーフだ。ニッキーがすぐさまアンサーソング“Big Foot”を29日にリリースしただけではなく、ファンダムの過激な行動が問題化、一大騒動に発展している。今、USヒップホップ界を牽引する女性ラッパー2人の間に何が起こっているのか? アメリカのポップカルチャーをウォッチしつづけている辰巳JUNKに解説してもらった。 *Mikiki編集部


 

気鋭ラッパーとヒップホップ女王が不仲になるまで

2024年2月、グラミー賞をよそに、アメリカの音楽ファンはラップビーフをめぐって大騒ぎになっていた。女性ラッパーのリード曲として初めて世界・全米両方のBillboardチャートで初登場首位を成し遂げたミーガン・ザ・スタリオン“HISS”をめぐり、ヒップホップ史に刻まれるであろう対決が勃発していたのだ。

標的となったのは、ラップの女王ニッキー・ミナージュ。男性優位なヒップホップ界でメガスターとなり、BTSからアリアナ・グランデ、ビヨンセまでとコラボしてきた現在41歳の彼女の功績を否定する者はほとんどいない。元々、現在28歳のミーガンもその一人だった。2019年、彼女の最初のビッグヒット“Hot Girl Summer”に客演することでブレイクスルーを支援したのは他ならぬニッキーだったのだから。

暗雲が漂っていったのは2020年代に入ってからだ。ミーガンへのSNSフォローをはずしたと報道されたニッキーに、悪口をほのめかすような言動が増えていった。彼女と不仲のカーディ・Bとミーガンが組んで“WAP”(2020年)を大ヒットさせたからだ、ともささやかれたが、原因は定かではない。ニッキーは妊娠を望んでいたとき無神経なかたちで飲酒を勧められたことがきっかけだと暗に主張しているが、ミーガンはこれを否定している。2023年には、ニッキーが“Red Ruby Da Sleeze”でサブリミナルディスを放った。

ニッキー・ミナージュの2023年作『Pink Friday 2』収録曲“Red Ruby Da Sleeze”。アルバムがリリースされたのは12月だが、同曲はシングルとして3月にリリースされた。ミーガンだけではなく、同じくビーフを繰り広げているラトーへのディスを仄めかすラインも含む

 

ミーガン覚醒、ニッキーもドレイクも葬る

そして2024年1月、アニメ「東京喰種 トーキョーグール」をなぞって〈覚醒〉を宣言したミーガンがディストラック“HISS”をリリースした。ただ、この曲のターゲットは一人ではない。まず、2020年、近しい関係にあったミーガンの足を銃撃したラッパーのトリー・レーンズが、刑事告訴を経た2023年、10年の懲役を課されていた。約3年にわたる刑事裁判劇中、問題視されたのは、一部の証言を変更したミーガンが〈銃撃被害をでっちあげた〉とする中傷が飛び交っていたことだ。有名ブロガーのみならず、50セントやドレイクら著名男性ラッパーすらバッシングに乗っていたのである(50セントは謝罪済み)。

ドレイク & 21サヴェージの2022年作『Her Loss』収録曲“Circo Loco”。ドレイクが〈ミーガンは「撃たれた」と嘘をついた〉と取れるラインをラップしている

だから“HISS”は〈注目のために言いがかりをつけてくる奴らを葬る〉宣言で始まるのだ。対ドレイクと思われるラインでは、マッチョ整形疑惑やアクセント偽装など痛いところを突いている。最後には、突然トリーの大ファンになったかのように彼を擁護して彼女をバッシングしていった人々に対し〈刑務所(の個室で受刑者と性的接触ができる)伴侶面会でもしな〉と勧めて終わる。

ただし、もっとも注目されたのはこのラインだ。〈あいつらが憤怒しているのはミーガン(私)じゃない/ミーガン法に怒ってるんだ〉。ミーガン法とは、性犯罪で有罪になった者に個人情報公開を課するアメリカの法律。ディスの対象と目されたのは、強姦未遂の前科を持ちながら性犯罪者としての情報登録を怠って軟禁を命じられた夫を持つニッキーその人だ。