
きっと刺さる楽曲
荒々しい音の奔流が初期衝動的に流れ込むバンドの始まりの歌“名もなき何もかも”、A~Bメロの気怠げな歌声とサビのハイトーンとの対比が鮮烈な高速ロック“極私的極彩色アンサー”、歌謡曲のテイストも交えつつさらに加速した“サヨナラサヨナラサヨナラ”などいずれの楽曲も、激しさを特徴としながらそのテイストはさまざま。プロデューサーの玉井健二も〈意識した〉と明言しているボカロカルチャー以降のスピード感や言語感覚、アニソンなどにも通じる転調の多用、目まぐるしく変化する曲調やフックを満載した楽曲構成といった要素の複合によって、トゲトゲの楽曲は次に何が飛び出すかわからない突然変異的な聴き心地を獲得している。一方で、どの楽曲にも共通するシリアスな世界観を醸成しているのが、歌詞で描かれている〈切迫した感情〉だ。
理名「歌詞には葛藤や悩みがすごく出ていて。一貫してダークではあるんですけど、“爆ぜて咲く”のように主人公が成長していく曲もあれば、彷徨ったまま終わる曲もあって。同じ悩みや苦しみを抱えている人に寄り添えるようなところがあるんじゃないかなって」
凪都「自分の中にある〈吐き出したい想い〉を代弁してくれている部分が多いので、聴く人は共感できるところが絶対にあると思う」
朱李「私は音楽系の学校に通っていたんですが、学校の先生に〈音楽の仕事をめざしたい〉と話しても反対されたり、ベースをやっていても誰かにバカにされることが多くて。そんなときにオーディションで課題曲“黎明を穿つ”に出会って、〈誰かにとっては ゴミになるようなモノだとしても 私の世界の全てで〉という歌詞が、まさに自分の気持ちを代弁してくれているようですごく刺さったんです。トゲトゲの楽曲は人生で嫌な経験をしたことがある人にはきっと刺さるはず」
夕莉「私も“運命に賭けたい論理”の〈誰とも分かり合えない 誰かに必要とされることも知らない… 要らない私だったんだ〉という歌詞は、初めて聴いたときから心がウッとなって。この曲ではそんなふうに思っている〈私〉に希望を与えてくれる〈君〉という存在がいるので、自分がモヤモヤしているときに聴くと勇気や希望を与えてもらえます」
美怜「抽象的なんですが、何かに囲まれて窮屈な想いをしている人たちが、それに抵抗するために歌っている楽曲が多い印象があるんですよね。私は“傷つき傷つけ痛くて辛い”の〈誰かのために生きることなど 限られた命を削っている〉という歌詞が、自分たちのバンドの曲にあることがすごく嬉しかったです。私も誰かのためではなくて、自分のために限られた一生を思い切り楽しみたい気持ちで音楽をやっているので」
凪都「アルバムではすごく激しい曲からバラード、歌詞が刺さる曲から演奏でねじ伏せる曲まで幅広い曲がありますが、世界観は統一されているので、この10曲を聴いてもらえればトゲナシトゲアリがどんなバンドなのか知ってもらえる、最強の一枚です」


メンバーが自信を持って語る今回のアルバム『棘アリ』に続いて、早くも次の展開が控えている。現在放送中のTVアニメ「ガールズバンドクライ」から、オープニング主題歌“雑踏、僕らの街”とエンディング主題歌“誰にもなれない私だから”が、それぞれシングルとして5月22日に2作同時リリース。今秋のセカンド・ワンマン開催も発表され、バンドとしての強度を一気に高めていくなか、ここからその刺激的なトゲをどのように伸ばしていくのか、今後の活躍が楽しみでならない。


夕莉「それまでは趣味として一人でギターを弾いていたのが、いまはみんなと毎日のように練習するなかで、人と一緒に演奏する楽しさを感じています。ライヴで実際にお客さんの反応を見るのも幸せだし、〈この人たちのために演奏したい〉と思えるようになりました」
朱李「学校やバイト先では自分の素を隠して生きていたのですが、この活動では素を出すと喜んでもらえて(笑)、自分を出しやすくなったし、生きやすくなって。応援してくれる人の力ってすごく大きいんだなって実感しています」
美怜「以前、プロデューサーの玉井さんから、〈みんな音楽を始める時に憧れのアーティストがいたと思うけど、今度はあなたたちがそれになる番だよ〉と言っていただいたのがすごく印象に残っていて。私がKing Gnuの曲を聴いて音楽に興味を持ったように、私たちの楽曲やパフォーマンスを通じて音楽に興味を持ってくれる人が増えたらいいなと思うし、それが〈音楽を仕事にすること〉なんだと、向き合い方が変わってきました」
凪都「もともとバンドのライヴに行くのが好きだったのですが、いざ自分たちがライヴをやるようになったら、ライヴに来てくださることが当たり前じゃないことをすごく感じるようになって。だからこそもっとパフォーマンスでお返しできることがたくさんあると思うし、いまの私たちの目標は〈5秒もらったら勝てるバンド〉になること。私たちの演奏を5秒観ていただけたら確実に虜にする、沼にハマらせるだけの演奏力や表現力を持ったバンドをめざしています」
理名「目標は、ズバリ〈めざせ、武道館!〉。アニメで(井芹)仁菜がそう叫ぶシーンがあるんですけど、リアルの私たち5人もアニメの仁菜たちと一緒に成長しながら武道館をめざしていければと思います!」
トゲナシトゲアリのシングル。
左から、2023年7月の“名もなき何もかも”、同8月の“気鬱、白濁す”、同10月の“爆ぜて咲く”、同12月の“極私的極彩色アンサー”、2024年2月の“運命に賭けたい論理”(すべてユニバーサル)。いずれも楽曲とドラマ3話ずつが収録!