映画を通じて見出せたシドの素顔
――本作ではシドの人生を題材にした幻想的なイメージ映像が挟み込まれます。あれはストームが作ったものなのでしょうか。
「そうです。90年代にピンク・フロイドのツアーで使うために制作されたもので、“Shine On You Crazy Diamond”を演奏する時にステージ上のスクリーンに映し出されていました。これはストームが思い描いたシドの姿なんです。とても美しいイメージなので映画の核になる素材として使いました。この映像はピンク・フロイドのボックスセットに入れられることが決まって、リマスターしたばかりだったので画質が良く、この映画のために制作したのではないかと思う人も多いみたいですね。
映画に使用するにあたって、若干、追加撮影をしています。この映像を初めて観た時、ドキュメンタリー全体をこの作風で撮って、インタビューは声だけ映像に乗せるというアイデアも浮かんだのですが、ストームの病状が悪化したので断念しました」
――シドは輝けるダイアモンドのような存在としてデビューしながら、闇の世界に呑み込まれていく。光と影、天才と狂気の両面を持っているところに人々は惹かれるのではないかと思うのですが、監督は映画を通じてシドに対して新たな発見はありました?
「シドがなぜ、ああなってしまったのかは誰にもわかりません。そもそも、シドが本当に精神を病んでいたのかどうかもわからないのです。結局、彼は正式な診断を受けていないのですから。
バンドを辞める前に彼は奇行が目立つようになったと言われています。例えば、演奏中にギターの弦を外して狂ったチューニングで演奏する。それは傍から見ればクレイジーかもしれませんが、シドの実験精神のあらわれだったのかもしれません。シドはバンドを脱退する前、AMM(イギリスの実験音楽集団)と交流がありましたからね。
ロンドンでプレミア上映をした際に、ソニック・ユースのサーストン・ムーアが観に来てくれたのですが、サーストンも狂ったチューニングで演奏します。そういう変わったことをするシドを見て、メンバーは〈シドがおかしくなった〉と言ってバンドを追い出す理由にしたのかもしれません。私も学生時代にバンドをやっていた時、そんな風に理由を作ってメンバーを追い出したことがありましたから」
――ファーストアルバム『夜明けの口笛吹き(The Piper At The Gates Of Dawn)』(67年)が注目を浴びて、シドも他のメンバーも何かとプレッシャーがかかっている時期でしたしね。
「シドは自分の道を進みたかった。でも、周りはそんなシドにどう対応したらいいのかわからなかった、という風にも考えられます。考えてみれば、当時ピンク・フロイドのメンバーは20代ですから、自分たちが抱えている問題にうまく対処できなくても仕方がない。そして、シドには自分が考えていることをあまり周りには言わない、ある意味、英国的ともいえる一面があったのではないでしょうか。今回、映画を通じてシドのそういった面を見出せたような気がしました」
MOVIE INFORMATION
シド・バレット 独りぼっちの狂気
監督:ロディ・ボガワ/ストーム・トーガソン
出演:ロジャー・ウォーターズ/デヴィッド・ギルモア/ニック・メイスン/ピート・タウンゼント/グレアム・コクソン/ミック・ロック/ダギー・フィールズ/ノエル・フィールディング/トム・ストッパード/アンドリュー・ヴァンウィンガーデン
2023年/イギリス/94分/16:9/原題:Have You Got It Yet? The Story Of Syd Barrett And Pink Floyd
配給:カルチャヴィル
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©Syd Barrett Music Ltd
©Aubrey Powell_Hipgnosis
2024年5月17日(金)渋谷シネクイント・ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国順次ロードショー
オフィシャルサイト:https://www.culture-ville.jp/sydbarrett
X(旧Twitter):@sydbarrett_mv
Facebook:https://www.facebook.com/sydbarrett.movie