シド・バレット
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©Aubrey Powell_Hipgnosis

スウィンギングロンドンと呼ばれ、ロンドンがカルチャーの発信地だった60年代後半に登場したピンク・フロイド。その中心メンバーで、新たなポップスターとして注目を浴びたのがシド・バレットだった。彼の独創的な音楽性と歌詞の世界は、同時代にデヴィッド・ボウイやマーク・ボラン(T・レックス)にも大きな影響を与えた。ところが、デビューしてすぐにバンドを突然脱退。ピンク・フロイドとは打って変わってアシッドフォーク的な2枚のソロアルバムを発表した後、2006年に亡くなるまで故郷で隠遁生活を送った。ドラッグによって精神を病んだとも噂されたが、何が起こったのかは誰にもわからない。今ではロック界の伝説となったシドの人生を、彼を知る者の証言を中心に振り返るドキュメンタリー映画「シド・バレット 独りぼっちの狂気」 が公開される。

監督と聞き手を務めたのは、ピンク・フロイドのアートワークを数多く手がけたアート集団、ヒプノシスのストーム・トーガソンと、彼が信頼する映像作家のロディ・ボガワ。インタビューには、ロジャー・ウォーターズ、デヴィッド・ギルモア、ニック・メイスンといったピンク・フロイドのメンバーをはじめ、シドの妹や同級生、恋人などシドの素顔をよく知る者たちや、ピート・タウンゼント(ザ・フー)、ジャーヴィス・コッカー、グレアム・コクソン(ブラー)、写真家のミック・ロックなど多彩な面々が出演。様々な視線を通してシド・バレットという謎めいた人物を浮かび上がらせていく。撮影中にストームが亡くなるという悲しみを乗り越えて、映画を作り上げたロディ・ボガワに話を訊いた。


 

ロディ・ボガワ
(左から)ストーム・トーガソン、ロディ・ボガワ

ヒプノシスのストーム・トーガソンと共に歩んで作った

――本作はストーム・トーガソンとあなたの共同監督で制作されたそうですが、どういう経緯でストームとシド・バレットのドキュメンタリーを制作することになったのですか?

「2011年にストームについてのドキュメンタリー映画『Taken By Storm: The Art Of Storm Thorgerson And Hipgnosis』を撮ったんです。その撮影を通じて彼と親しくなりました。

そして、ロサンゼルスで試写会をやった翌日、ストームに〈君はシドについてどんなことを知っているんだ?〉と訊かれました。私は大学時代にバンドをやっていたのですが、ベーシストがシドの大ファンでシドのカバーをバンドでやろうとしたんです。でも、シドの曲は奇妙なものが多くてカバーするのがとても難しかった。そんなことをストームに話すと、〈君はシドのドキュメンタリーを撮るのにピッタリかもしれない。僕がプロデュースをするから君が監督しないか?〉と言ってくれたんです。

でも、その後、ストームの癌が進行してしまって。1年後に突然ストームから電話がかかってきたんです。〈前に話をしたシドのドキュメンタリーを撮ろう!〉って。そして、〈インタビューは自分がする〉と申し出てくれました。ストームは癌で余命わずかだということを知って、できるだけ映画に参加したいと思ったんでしょうね。

そこで私は撮影に入るまで3ヶ月待ってほしいと彼に伝えたんです。そして、その3ヶ月の間にシドに関するドキュメンタリー映画や書籍に目を通してシドについて調べ上げました」

――ストームと協力体制のもとで撮影に挑んだわけですね。

「どちらかが主導していたわけではなく、2人で共に歩んで作った作品なんです。ベルリンで初めて会って、そこでこの作品のアウトラインを書いたんですけれども、誰にインタビューをするのか、どういう物語を伝えるのか、何を証明するのか、ストームと2人で一から考えました。でも、ストームは制作途中で亡くなってしまって、その後、10年かけて映画を完成させたんです」