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歴史の転換期におけるワールドワイドな感覚と実験性

国民的ヒット曲、デビュー曲となった“BE MY BABY”(1989年4月8日)は、構造的にはグラムロックの新解釈だ。イントロから迫力あるコーラスのリフレインに重なり合うサイレン音。シンプルかつ没入感が高いキャッチーなサウンドメイクと歌声は大衆の気持ちを鷲掴みにし、チャート初登場1位を記録。ミュージックビデオでは、白ホリ(※スタジオの白壁のみ)をバックにカメラ1台で一発撮りし、圧巻の人間力を誇るパフォーマンスが衝撃を与えた。

ユニットを結成した1989年とは、まさに昭和的歌謡曲から洋楽の影響を取り入れたJ-POPカルチャーへとパラダイムシフトが起きた時代だ。1stアルバムのレコーディングはカリブ、モントセラト島、ジョージ・マーティン所有のエアー・スタジオ・モンセラットで行われた。ちょうど昭和から平成に変わり、ベルリンの壁が崩壊し、アメリカとソ連の冷戦が終結し、六四天安門事件が起きたという歴史的にも大きなタイミングであった。

その影響は大きく、結果、2ndアルバム『ROMANTIC 1990』(1990年4月18日)には、世界が動いていたリアリティーがリリック、サウンドともにワールドワイドなセンスであらわれている。まさに、先行してリリースされたヒットシングル“1990”(1990年3月14日)のタイトルのとおり、世紀末や90年代の幕開けをあらわしたコンセプトアルバムという側面を持つ。

COMPLEX 『ROMANTIC 1990』 東芝EMI/イーストワールド(1990)

吉川による作詞作曲ナンバー“MODERN VISION”にもその影響は強く、デジタライズされたサウンドとともにエッジーなメッセージ性が強く強烈なインパクトを残す。COMPLEXとはヒットチューンによるキラキラしたイメージが強いが、実は“PROPAGANDA”や“DRAGON CRIME (East & West)”など、プログレッシブロックなサウンドがヘヴィかつ硬質なのだ。

さらに、ライブ映えするハードなロックチューン“GOOD SAVAGE”での布袋と吉川のギターの掛け合いも聴きどころだ。ガットギターを差し込んだり、さまざまなシーンをSEのサウンドでイメージとして可視化させていく様も聴きどころである。なかでも、ブレイクビーツを用いた“THE WALL”は、アルバムで異彩を放っていた。ベルリンの壁崩壊がモチーフとなった歌唱パートに続き、後半はインストゥルメンタルが展開される実験的サウンドなのだ。

 

わずか2枚のアルバムで活動休止

当時、音楽シーンにとって主力であり両極だったメディア「ROCKIN’ON JAPAN」、「PATi・PATi」という二大巨頭な音楽雑誌で表紙を飾っていたCOMPLEXは、インタビューで3枚目までアルバムを作りたいと話していた。しかし、吉川晃司と布袋寅泰という、自我の強い強烈なる個性をコントロールする術はなかった。

結果、2枚のフルアルバムを残し、1990年11月8日、東京ドーム公演〈ROMANTIC EXTRA〉をもってCOMPLEXは、無期限の活動休止となった。

その後、吉川晃司も布袋寅泰も、時代を代表する表現者として更なる成長を遂げ大成したことは言うまでもないだろう。