すべての音楽好きに自信を持ってすすめたいベストアルバムをタワーレコードのスタッフが企画制作するタワレコ限定シリーズ〈TOWER RECORDS PREMIUM〉。その第5弾としてタワー・オブ・パワーの『Way Back To Oakland: Best Of Warner Years & More』が販売中だ。来日公演を控えた今こそ聴きたい本作は、SHM-CD 2枚組の大ボリューム、24bitデジタルリマスタリング音源を使用した高音質の特別仕様である。そんなアルバムとバンドの魅力について、文筆家の長谷川町蔵に解説してもらった。 *Mikiki編集部
オークランドが育んだ個性、混じり気なしのファンク
オークランド。米西海岸カリフォルニア州北部に位置するこの工業都市は、サンフランシスコ湾を挟んで位置するサンフランシスコ(以下、SF)とまとめて〈ベイエリア〉と呼ばれながらも、ひと味違う個性を放ち続けてきた。
この差異を生んだのは南部から移り住んできたアフリカ系住民の多さ。だから同じ反体制運動でも、SFでビートやヒッピーが華やかなりし1960年代、この街で勃興したのはブラック・パンサー党だった。音楽もまたしかり。同じ人種混合のR&Bバンドを志向していても、SFで下積み時代を送ったスライ&ザ・ファミリー・ストーンやカルロス・サンタナがサイケデリックロックの文脈でデビューしたのに対して、同時期にオークランドから登場したタワー・オブ・パワー(TOP)は、混じり気なしのファンクサウンドを奏でていたのだから。
日本へのファンクの伝道師
それまで精神的で曖昧なものと捉えられていたファンクサウンドを、幾何学的なアンサンブルをもって明示してみせたTOPは、本国でもヒューイ・ルイス&ザ・ニュースをはじめとする他のミュージシャンのサポート参加を通してファンクネスの何たるかを布教したほか、日本におけるファンクの伝道師的存在でもあった。1974年の初来日時には、かまやつひろし“ゴロワーズを吸ったことがあるかい”とRCサクセション『シングル・マン』というJ-POPの歴史に残る作品でバック演奏。爆風スランプや米米クラブといった1980年代の和製ファンクアクトのアンサンブルも明らかにTOPの影響下にある。
代表曲からセッション音源まで網羅、ビギナーもマニアも満足のベスト
そんな彼らの代表作『Back To Oakland』(1974年)のリリースから50周年を記念して2枚組ベストアルバムが5月にリリースされた。日本におけるTOPファンクラブ会長である音楽ライターの櫻井隆章氏が選曲と解説を手掛けた本作は、現在はそれぞれソロシンガー、「サタデー・ナイト・ライブ」の音楽監督として活躍中のレニー・ウィリアムズ(ボーカル)とレニー・ピケット(サックス/クラリネット/フルート)が在籍していた最盛期のワーナー時代(1970〜76年)の音源から36曲をチョイスしたものだ。
“What Is Hip?”や“つらい別れ(So Very Hard To Go)”といったライブで欠かせない代表曲はもちろん、鉄壁のリズムセクションだったデヴィッド・ガリバルディ(ドラムス)とフランシス“ロッコ”プレスティア(ベース)のコンビネーションの妙を堪能できるライブトラックまで網羅している。加えてセッションバンドとしてのTOPの功績を讃えるべく、元スライ&ザ・ファミリー・ストーンのラリー・グラハムが結成したグラハム・セントラル・ステイションから3曲、TOPのバッキングボーカルとして活躍したブルーアイドソウルシンガー、マリリン・スコットから1曲、そしてアメリカ進出をいち早く行なった日本のレジェンドシンガー、朱里エイコと1976年にレコーディングした“愛のめざめ”を収録するなど、ビギナーからマニアまで満足できる仕上がりとなっている。