50年の歴史を重ねて現在も揺るぎない威信を誇る、オークランド・ファンクの巨塔にして最強の〈リズム&ブラス〉集団がタワー・オブ・パワーだ。指折りの演奏陣だけで語られがちなその凄さや醍醐味を、今回はヴォーカリストたちのソウルフルな魅力から振り返ってみよう!

 ベイエリアと呼ばれるカリフォルニア州サンフランシスコ及びオークランド一帯は、オハイオ州と並ぶファンクのメッカとして知られている。多人種が入り混じり、自由な気風が漂う同地からはスライ&ザ・ファミリー・ストーンという革命的なバンドが登場したが、彼らを目標としながらナイトクラブの活気を伝えるアーバンな粋を備えたファンクをヒップに叩き出したのがタワー・オブ・パワー(以下TOP)だった。キャリアを通してR&Bのフィーリングが色濃かった彼らは地元の後輩トニ・トニ・トニなどにも影響を与え、メンバーの出入りを繰り返しながら、病気や事故などの危機も乗り越えて、この2018年で結成50年を迎えた。15年ぶりとなるスタジオ録音のオリジナル・アルバム『Soul Side Of Town』もベイエリアの空気を伝えるゴキゲンな快作に仕上がっている。

TOWER OF POWER Soul Side Of Town TOP/Artistry(2018)

 68年に結成されたTOPは、70年にジミ・ヘンドリックスの前座としてフィルモア・オーディトリアムに出演したところフィルモアを運営していたビル・グラハムに見初められ、同年にグラハム主宰のサンフランシスコから『East Bay Grease』でデビュー。直後にワーナーに目をつけられた彼らは72年作『Bump City』以降〈オークランド・ファンク〉の顔となっていくのだが、TOPのスタイルは大きく分けて3つの柱から成り立っていた。

 ひとつはブラス。何しろバンドを結成したのはテナー・サックスのエミリオ・カスティーヨとバリトン・サックスのスティーヴン“ドクター”クプカなのだ。そこにトランペットのグレッグ・アダムスらが加わったホーン隊がバンドの核となり、同時期に登場したブラッド・スウェット&ティアーズやシカゴ、アース・ウィンド&ファイアをも凌ぐ強烈なブロウを放った。日本人アーティストの作品を含む課外セッションも行ったこのホーン隊は、80年代にはヒューイ・ルイス&ザ・ニュースに起用されており、それによって不遇期を脱したTOPにとっては、何よりもブラスがトレードマークだったのだ。そして、ふたつ目がドラムスのデヴィッド・ガリバルディとベースのフランシス“ロッコ”プレスティアを中心とするリズム隊。“What Is Hip?”のような16ビートで畳み掛けるリズムはグルーヴ感に溢れ、とことんタイトに決め込む演奏で独自のファンク道を突き進んでいった。

 そんな〈リズム&ブラス〉に加えて、TOPがR&Bバンドとしての訴求力を持ち得たのは、ソウルフルな歌を聴かせた歴代のリード・シンガー(とメンバーのコール&レスポンス的なコーラス)によるところが大きい。白人やラテン系が中心となるバンドにおいて、初代のルーファス・ミラーを筆頭にリード・シンガーは多くが黒人。そうしたシンガーの本領が発揮されたのが“You're Still A Young Man”や“So Very Hard To Go”といった初期の名バラードで、前者はモータウンの裏方アイヴィー・ジョー・ハンターの甥とされるリック・スティーヴンス、後者ではレニー・ウィリアムスが歌っていた。特にレニーは73~75年と短期間の在籍ながらこの間に数々の名曲が誕生したこともあり、歴代のシンガーでは最も人気が高い。ソロとして放った“Cause I Love You”などでの〈オッオッオッオ~〉というスキャット風の泣き節もTOP時代から披露しているもので、ファルセットを交えたテナー・ヴォイスにエモーションを注ぎ込んで歌うスタイルは後任のシンガーにも継承されていく。

 そのレニーの後釜として75年に加わったヒューバート・タブスはゴスペルで鍛え上げた喉で逞しく歌い込み、コロンビア移籍時に加入したエドワード・マッギーは高い声でメロディアスな曲を歌ったが、いずれも2年足らずで脱退。70年代後半に加わったマイケル・ジェフリーズは加入前からソロ・キャリアがあり、脱退後はジェフ・ローバーとの共演を経てタイム一派も関与したソロ作を89年に発表するなどレニーに次ぐ活躍ぶりを見せた人で、TOPではメンフィス出身らしくサザン・ソウル的なフィーリングでバンドのブルージーな持ち味も引き出した。

 当初86年に『T.O.P.』として発表した『Power』(87年)からはギターや鍵盤も弾く盲目のエリス・ホールが参加し、エピックに籍を置いた90年代は前半でメタル・バンド出身のトム・ボウズ、後半でブレント・カーターがリードを取り、それぞれ若々しい歌声を披露。この3人の歌唱は〈マイケル・ジェフリーズ以降〉とも言える軽やかさが特徴だろう。99年には現テンプテーションズのラリー・ブラッグスが加入。14年という在籍期間の長さに反してTOPでのスタジオ録音アルバムはカヴァー企画を含む2作のみとなったが、彼は同時にソロとしても活動していた。

 その後レイ・グリーンが加わり、今回の新作『Soul Side Of Town』ではメンフィス出身でバーケイズにも絡んでいたマーカス・スコットがリードを務めている。シンガーは上記の限りではないが、いずれもリズムとブラスに負けない強靭な喉の持ち主で、バラディアーとしても滋味深い味わいを発揮。常にフレッシュな歌い手をフロントに据えてきたことが50年に渡って活動することができた要因のひとつだったと、いま改めて思う次第だ。 *林 剛

 

タワー・オブ・パワーの発掘ライヴ盤を紹介。

 

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