ジャズピアニストにしてメタラーの西山瞳さんによるメタル連載〈西山瞳の鋼鉄のジャズ女〉。第78回は、メタルと管楽器という異色の組み合わせについて。メタル × 管楽器の具体例を挙げながら、ジャズを本業とする西山さんならではの視点から綴ってくれました。 *Mikiki編集部
少し前、X(旧Twitter)に、こんなことを書いたんですよ。
近年よく思っていること。
— Hitomi Nishiyama 西山瞳 (@hitominishiyama) May 9, 2024
ジャンルがミックスしてきて、広義のメタル系の録音にもホーンセクションやサックスを入れるのが以前より多くなっていると思うんですが、生楽器で入れることをぜひ検討してほしいです…!
レベルの高い打ち込みで実在感は出せるけど、殺気は人間しか出せない…!
ということで、今回は〈メタルと管楽器〉。
イングヴェイ・マルムスティーンを入り口にメタルのギターを聴くのに熱中する一方で、中学1年から音大の副科の授業までずっとサックスを吹いており、現在はクラリネットとフルートも多少嗜んでおります。ギターも管楽器も、両方大好きです。
〈メタルに管楽器を入れるなら、生の奏者を入れたら格好良いのになー〉と思いながら、〈メタルにピアノを入れたらいいのに〉とは1ミリも思わない自分の感覚についてもいずれ掘り下げてみたいと思うのですが、記憶に残るメタルと管楽器の素晴らしい作品を集めてみました。
サックスの入ったメタルといえば、90年代メタラーとしてまず思い出すのがこれ。
ドリーム・シアターの“Another Day”(1992年)。
当時、何気なく聴いておりましたが、こちらのソプラノサックスは、スパイロ・ジャイラのジェイ・ベッケンスタイン。
スパイロ・ジャイラといえば、こんな音楽ですよ。
ハッピーでリラックスしたサウンド、メタルと程遠いです。
けれど、“Another Day”は、サックスが入ることによりとても情感的で、しかし強さを失わず、芯の太い艶やかなバラードになっています。通常のバンド編成の表現だけでは見えてこなかったジェイムズ・ラブリエの色気が増幅していますね。改めて素晴らしいシンガーだと思います。
ライオット『The Privilege Of Power』(1990年)。
私は発売当時聴いていないので知らないのですが、当初このアルバムにホーンセクションが入っていることは賛否両論だったんですってね。
1曲目の“On Your Knees”からホーンセクションが入っていますが、バンドの疾走感を全く邪魔せずサウンドを広げていますし、アレンジも特にメタルに合わせているわけでもない、一般的なホーンセクションアレンジ。これが、まさかこのスピードメタルに合うと思わなかったですね。この曲はスクラッチみたいな音も入っていますし、結構実験的なことをしていたんですね。
このアルバムからもう一曲、“Killer”はタワー・オブ・パワーがホーンセクションです。
タワー・オブ・パワーといえば、こんなサウンド。
『Back To Oakland』より“Oakland Stroke”。
“On Your Knees”も“Killer”も、もうちょっとホーンセクションの音量が大きくてもいいのでは、と思うのは、私がジャズ耳だからでしょうか。
また、“Storming The Gates Of Hell”では、冒頭からトランペットが効果的に使われています。