ジャズピアニストにしてメタラーの西山瞳さんによるメタル連載〈西山瞳の鋼鉄のジャズ女〉。第78回は、メタルと管楽器という異色の組み合わせについて。メタル × 管楽器の具体例を挙げながら、ジャズを本業とする西山さんならではの視点から綴ってくれました。 *Mikiki編集部

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少し前、X(旧Twitter)に、こんなことを書いたんですよ。

ということで、今回は〈メタルと管楽器〉。

イングヴェイ・マルムスティーンを入り口にメタルのギターを聴くのに熱中する一方で、中学1年から音大の副科の授業までずっとサックスを吹いており、現在はクラリネットとフルートも多少嗜んでおります。ギターも管楽器も、両方大好きです。

〈メタルに管楽器を入れるなら、生の奏者を入れたら格好良いのになー〉と思いながら、〈メタルにピアノを入れたらいいのに〉とは1ミリも思わない自分の感覚についてもいずれ掘り下げてみたいと思うのですが、記憶に残るメタルと管楽器の素晴らしい作品を集めてみました。

 

サックスの入ったメタルといえば、90年代メタラーとしてまず思い出すのがこれ。

ドリーム・シアターの“Another Day”(1992年)。

DREAM THEATER 『Images And Words』 ATCO(1992)

当時、何気なく聴いておりましたが、こちらのソプラノサックスは、スパイロ・ジャイラのジェイ・ベッケンスタイン。

スパイロ・ジャイラといえば、こんな音楽ですよ。

ハッピーでリラックスしたサウンド、メタルと程遠いです。

けれど、“Another Day”は、サックスが入ることによりとても情感的で、しかし強さを失わず、芯の太い艶やかなバラードになっています。通常のバンド編成の表現だけでは見えてこなかったジェイムズ・ラブリエの色気が増幅していますね。改めて素晴らしいシンガーだと思います。

 

ライオット『The Privilege Of Power』(1990年)。

RIOT 『The Privilege Of Power』 Epic(1990)

私は発売当時聴いていないので知らないのですが、当初このアルバムにホーンセクションが入っていることは賛否両論だったんですってね。

1曲目の“On Your Knees”からホーンセクションが入っていますが、バンドの疾走感を全く邪魔せずサウンドを広げていますし、アレンジも特にメタルに合わせているわけでもない、一般的なホーンセクションアレンジ。これが、まさかこのスピードメタルに合うと思わなかったですね。この曲はスクラッチみたいな音も入っていますし、結構実験的なことをしていたんですね。

このアルバムからもう一曲、“Killer”はタワー・オブ・パワーがホーンセクションです。

タワー・オブ・パワーといえば、こんなサウンド。

『Back To Oakland』より“Oakland Stroke”。

“On Your Knees”も“Killer”も、もうちょっとホーンセクションの音量が大きくてもいいのでは、と思うのは、私がジャズ耳だからでしょうか。

また、“Storming The Gates Of Hell”では、冒頭からトランペットが効果的に使われています。

 

エクストリーム『Pornograffitti』(1990年)より“Get The Funk Out”。

EXTREME 『Extreme II: Pornograffitti』 A&M(1990)

ファンク系のメタルなので、ホーンセクションが入っても全く違和感がありません。わりと盛り盛りでホーンが入っているので、パーティ感が強い。そう、ホーンセクションは華やかなので、メタルでもイエーーイ!ってサウンドにしたい時は、躊躇わず入れてみてもいいんじゃないかと思います。こちらのホーンセクションは、リル・ジャック・ホーン・セクションと書いてありますね。

 

アングラ『Holy Land』(1996年)。

ANGRA 『Holy Land』 CNR Music/LMP/Rock Brigade(1996)

こちらは、フルートが入っています。

ブラジルのバンド、アングラが、ブラジル音楽をメタルに取り入れたアルバムでもあるので、リズムも楽器編成も大変面白く、サンバで必須の笛の音が、要所要所に入ってきます。

大曲“Carolina IV”は、途中にフルートでソロになるところで、エルメート・パスコアールの“Bebê”を引用しています。

 

メタル曲に入っている管楽器を色々並べた後で、ジャズの管楽器ミュージシャンの演奏するメタルサウンドをご紹介しましょう。

梅津和時 KIKI BAND『Coyote』(2015年)より“Coyote”。

梅津和時 KIKI BAND 『Coyote』 ZOTT(2015)

ギターの鬼怒無月さんのイントロだけで痺れるんですが、殺気満点のサックスが入ってきます。これが殺気だ! うひょー。

梅津さんは、一度山梨のジャズフェスでご挨拶をさせてもらったことがあるのですが、その時、全員参加のオープニングセッションがあったんです。ジャズフェスの出演者が順番に出たり入ったりしてジャムセッションをしたのですが、あまり音が響かない会場の中、梅津さんだけがぶっちぎりで鳴っており、それがちょっとありえないぐらい鳴っていて、今でも忘れられません。それって、音量がでかいのではなくて、殺気の量だったような気がしています。

ライブ映像もどうぞ。

 

最初に貼ったXのポストに続いて、書いたのがこちら。

Plastic Dogsの今年発売の3rdアルバム『THE THIRD』も凄まじいです。

Plastic Dogs 『THE THIRD』 R-records(2024)

以前この連載で、〈メタル出身ジャズミュージシャン〉ということでインタビューしたギタリスト、武藤祐志さんが参加している超アバンギャルドなバンドですが、サックス、ギター、ギター、ドラムという変わった編成のバンドで、ジャズのようにフリーで、メタルのように重く、プログレのように格好良い仕掛けが沢山あって、パンクのように気持ち良い、切り口が多いとてもスリリングなバンドです。

このバンド、サックスはフロントとしてだけではなく、意外とバックで刻みもやってるんですね。それが、ギターで刻むよりも、生身の人間が控えている感じ、〈いつでも斬りに行くぞ!〉という気迫と、なんだか妙な存在感があって、ヒリヒリするんですよ。

 

普段はジャズを演奏しているので、日常的に管楽器の音に触れています。

ジャズは、語法、イントネーションが管楽器をベースにできているので、私はピアニストですが管楽器の練習はとても楽しい。

人間が生きる〈呼吸〉という運動そのものが音に変換されるので、他の楽器とは比べ物にならない、リアルな生命力があります。

特にサックスは、生々しく、ギラついた荒っぽい音も、咽び泣く様な音も、心に寄り添う様なささやく音も、揺らぐピッチも、とにかく色んな音が出せるし、何より音量がでかい。

しかし、メタルで管楽器を聴くこと、ほとんどないですよね……?

たまに録音で入っていることがありますが、打ち込みのホーンセクション、サックスソロが多く、いくらクオリティが高い打ち込みでも呼吸がなく不自然になりますから、当然殺気もなく、ギターやドラムの殺気と全く釣り合わなくなるんですよね。

絶対、生音がいいと思います。

クオリティの高い打ち込みは、実在感は出せても、人間の殺気は出せない。

そして、録音までにアレンジを固めて、普段ホーンセクションとして固まりで動いているプロを呼べば、録音時間も早いんですよ。

NHORHMの2枚目『New Heritage Of Real Heavy Metal II』は、2曲でホーンセクションに入ってもらっていますが、〈木原健太郎 with ベリーメリーオーケストラ〉のホーンセクションにお願いしました。1曲のホーンセクションの録音にかけた時間は、1時間弱。録音はあっという間でした。

NHORHM 『New Heritage Of Real Heavy Metal II』 APOLLO SOUNDS(2016)

木原健太郎 with ベリーメリーオーケストラは、超プロ集団でとっても親しみやすく楽しい音楽を奏でるので、私も時々ライブに伺っていました。彼らの作品はサブスクにありますので、ぜひ聴いて下さい。

木原健太郎 with ベリーメリーオーケストラ 『Take a Chance!』 SORA Music(2010)

 

最後に、よく尋ねられるので、一緒に書いておきますね。

実は、これまでメタルファンから時々聞かれるのが、「ジャズに〈ヘヴィメタルビバップ〉っていうアルバムがあるらしいんですが、メタルなんですか?!」。

ヘヴィメタルと付いているので、気になりますよね(笑)。

ブレッカー・ブラザーズ『Heavy Metal Be-Bop』はメタルじゃないですが、ブレッカー・ブラザーズは前述のライオット『Privilege Of Power』にも参加しているトランペット奏者のランディ・ブレッカーと、サックス奏者マイケル・ブレッカーのバンド。ジャズとPファンクとロックが交差し、管楽器にワウやハーモナイザー、ディストーションを多用して、吹きまくっています。とっても格好良いので、こちらもぜひ聴いて下さいね。

THE BRECKER BROTHERS 『Heavy Metal Be-Bop』 Arista(1978)

 


LIVE INFORMATION
2024年7月24日(水)YouTube配信
開演:19:00
出演:西山瞳(ピアノ)
https://www.youtube.com/@hitominishiyamapf

2024年7月27日(土)東京・池袋 Apple Jump
開場/開演/終演:13:30/14:00/16:30(予定) ※60分、2ステージ
出演:西山瞳(ピアノ)/馬場孝喜(ギター)
Music Charge:3,300円(+1 Drink)

2024年8月3日(土)神奈川・横浜 上町63
開場/開演:13:30/15:00(1st)/16:30(2nd)
出演:西山瞳(ピアノ)/市野元彦(ギター)
チャージ/学生:3,300円(要1 Drink Order)/2,750円(1 Drink付き/要学生証提示)

2024年8月12日(月・祝)京都 NAM HALL
開場/開演:12:30/13:00 ※間に休憩を挟む二部制で、15:00頃には終演予定
出演:西山瞳(ピアノ)/鈴木孝紀(クラリネット)
一般/大学生以下:3,500円/1,500円

2024年8月17日(土)東京・三鷹 Natural
開演:14:30
出演:西山瞳(ピアノ)
ミュージックチャージ:3,000円

★詳細やその他のライブについては西山瞳のオフィシャルサイトへ

 

RELEASE INFORMATION
■西山瞳

西山瞳 『Dot』 MEANTONE(2023)

リリース日:2023年11月22日(水)
品番:MT-12
価格:3,190円(税込)

TRACKLIST
1. Turtledove タートルダブ
2. Dot ドット
3. The Rider ザ・ライダー
4. To Return トゥ・リターン
5. Tidal タイダル
6. Red and Yellow レッド・アンド・イエロー
7. Pigeons ピジョンズ
8. Baroness バロネス
9. Lighthouse ライトハウス
(全曲 西山瞳作曲)

■メンバー
西山瞳 ピアノ、作曲 Hitomi Nishiyama piano,compose
西嶋徹 ベース Toru Nishijima bass
則武諒 ドラムス Ryo Noritake drums
鈴木孝紀 クラリネット Takanori Suzuki clarinet (on 2, 3, 5, 6, 9)
橋爪亮督 テナーサックス、フルート Ryosuke Hashizume tenor sax, flute (on 2, 3, 5, 6, 9)
maiko バイオリン maiko violin (on 2, 3, 5, 6, 9)

2023年7月12-14日 群馬県高崎市 TAGO STUDIO TAKASAKIにて録音
録音、ミックス、マスタリング:松下真也(Piccolo Audio Works)
FAZIOLI F278使用
ピアノ技術:越智晃(Fazioli Japan Co., Ltd.)
アートディレクション:平岡直樹(yuu)

 


PROFILE: 西山 瞳 

1979年11月17日生まれ。6歳よりクラシックピアノを学び、18歳でジャズに転向。大阪音楽大学短期大学部音楽科音楽専攻ピアノコース・ジャズクラス在学中より、演奏活動を開始する。卒業後、エンリコ・ピエラヌンツィに傾倒。2004年、自主制作アルバム『I’m Missing You』を発表。ヨーロッパジャズファンを中心に話題を呼び、5か月後には全国発売となる。2005年、〈横濱JAZZ PROMENADE ジャズ・コンペティション〉において、自身のトリオでグランプリを受賞。2006年、スウェーデンにて現地ミュージシャンとのトリオでレコーディング、『Cubium』をSpice Of Life(アミューズ)よりリリースし、デビューする。2007年には、日本人リーダーとして初めて〈ストックホルム・ジャズ・フェスティバル〉に招聘され、そのパフォーマンスが翌日現地メディアに取り上げられるなど大好評を得る。以降2枚のスウェーデン録音作品をリリース。2008年に自己のバンドで録音したアルバム『Parallax』では、スイングジャーナル誌日本ジャズ賞にノミネートされる。2010年、〈インターナショナル・ソングライティング・コンペティション〉(アメリカ)で、全世界約15,000のエントリーのなかから自作曲“Unfolding Universe”がジャズ部門で3位を受賞。コンポーザーとして世界的な評価を得た。2011年発表『Music In You』では、タワーレコードのジャズ総合チャートで1位、HMVの総合2位にランクイン。CDジャーナル誌2011年のベストディスクに選出されるなど、芸術作品として重厚な力作であると高い評価を得る。2014年には自身のレギュラートリオ、西山瞳トリオ・パララックス名義での2作目『Shift』を発表。好評を受け、アナログでもリリースする。2015年には、ヘヴィメタルの名曲をカバーしたアルバム『New Heritage Of Real Heavy Metal』をリリース。マーティ・フリードマン(ギター)、キコ・ルーレイロ(ギター)、ヤング・ギター誌などから絶賛コメントを得て、発売前よりメタル・ジャズの両面から話題になり、すべての主要CDショップでランキング1位を獲得。ジャンルを超えたベストセラーとなっている。同作は『II』(2016年)、『III』(2019年)と3部作としてシリーズ化。2019年4月には『extra edition』(2019年)もリリース。自身のプロジェクトの他に、東かおる(ボーカル)とのボーカルプロジェクト、安ヵ川大樹(ベース)とのユニット、ビッグバンドへの作品提供など、幅広く活動。〈横濱JAZZ PROMENADE〉をはじめ、全国のジャズフェスティバルやイベント、ライブハウスなどで演奏。オリジナル曲は、高い作曲能力による緻密な構成とポップさが共存した、ジャンルを超えた独自の音楽を形成し、幅広い音楽ファンから支持されている。