唯一無二のリズム&ブラス――TOPの偉大なる歩み

タワー・オブ・パワー(以下TOP)が2018年に結成50周年を迎えてから早6年が経つ。その間の来日公演は『Soul Side Of Town』(2018年)を携えたツアーが2019年11月に行われたのみ。コロナ禍の影響でライブ自体が一時期ストップしていたわけだが、アルバムとしては『Soul Side Of Town』と同時期に録音していた音源からなる『Step Up』を2020年に発表。結果的にこれは、同年に他界した古参ベーシスト、フランシス“ロッコ”プレスティア(享年69)にとってグループで演奏した最後のスタジオアルバムとなった。とはいえ、創設メンバーであるエミリオ・カスティーヨ(テナーサックス)とステファン“ドク”クプカ(バリトンサックス)のふたりは健在で、グループの活動は続行中だ。

2023年にはホリデー企画のEP『It’s Christmas』をオフィシャルサイトとライブ会場で限定販売。日本では今年5月にタワーレコード限定となる国内企画の2枚組CDベスト『Way Back To Oakland: Best Of Warner Years & More』がリリースされ、TOPのホーン隊が参加したマリリン・スコットの“Dreams Of Tomorrow”(79年)やグループを丸ごと従えた朱里エイコの“愛のめざめ”(76年)などが収録されて話題を呼んでいる。こうして過去の作品も再注目される中、この8月に5年ぶりとなるビルボードライブツアー(横浜が8月4日、東京が8月6日・7日・8日、大阪が8月10日・11日)を行う。

R&B(リズム&ブルース)をベースにした人種混合のバンドであるTOPといえば、オークランドファンクの代名詞的な存在だ。スライ&ザ・ファミリー・ストーンが“Dance To The Music”のヒットで全国区の人気者となった1968年に、サンフランシスコ近郊のベイエリアはオークランドで結成。ヒッピームーブメントの空気も吸いながらナイトクラブの活気を伝えるようなモダンでヒップなファンクを叩き出し、鉄壁のリズムセクションとホーンセクションによって奏でられるサウンドは〈リズム&ブルース〉ならぬ〈リズム&ブラス〉と呼ばれた。ホーン隊を抱えたファンク系のグループとしてはJBズやクール&ザ・ギャング、アース・ウィンド&ファイア、またブラスロック系のブラッド・スウェット&ティアーズやシカゴといったバンドと比較されることも多い。1997年には『Rhythm & Business』というタイトルの快作を出したように、もちろん(広義での)〈ビジネス〉も忘れてはいない。

フランシス“ロッコ”プレスティアのベースとデヴィッド・ガリバルディのドラムスが踊るようにリズムを奏でる“What Is Hip?”などのタイトでダンサブルなファンク。オーケストラをバックにした“So Very Hard To Go”に代表されるスケールの大きいバラード。ざっくりと言えばグループの魅力はその2点に大別される。ヒットチャート的な意味での黄金期は、〈ふたりのレニー〉、つまり後にソロで活躍するレニー・ウィリアムズがリードシンガー、レニー・ピケットがサックス奏者として録音に参加し始めた1973年のセルフタイトル作からの数年間。だが、現在に至るまでメンバーチェンジを繰り返しながら黄金期の美点を失わず、時代の空気に流されることなくTOP流儀の音楽をやり続けてきた。

ホーン隊を中心に数々の外部セッションに参加してきたことも忘れ難い。リトル・フィートやヒューイ・ルイス&ザ・ニュース、そして日本のアーティストでも、RCサクセション、かまやつひろし、朱里エイコらの楽曲に参加したことはファンの間で語り草だ。中村あゆみやスガシカオとのコラボレーションを知る人もいるだろう。かまやつひろしの“サンフランシスコ”(1975年)は、憧れのサンフランシスコで日本を想うホームシック的な感情をTOPホーンズの演奏が見事に表現していた。

本国のアーティストでは、地元の後輩にあたるフォスター&マッケルロイやトニ・トニ・トニらがTOPのサウンドやスピリットを継承し、新世代のオークランドファンクを作り上げた。トニ・トニ・トニは1996年作『House Of Music』収録のバラード“Wild Child”にTOP一派のグレッグ・アダムズ(トランペット)やミック・ジレット(トロンボーン)らを招き、直球なオマージュを行なっていたことも、この機会に改めて触れておきたい。