デビュー14年目に挑んだ、今が一番早いタイミングの山登り

 早いもので、今年でデビュー14年目。ギター界の才媛・朴葵姫が、日本コロムビアでは8枚目となる新譜を発表し、自身初のオール・J.S.バッハに挑んだ。 高校生の頃にグレン・グールドの“ゴルトベルク変奏曲”に出会い、以来J.S.バッハを敬愛してきた朴。その想いから、自分が録音するのはまだ先としてきたが、年齢を重ねたり、近年読むようになった聖書の様々な解釈を知ったりする中で、「正解がないから間違いもない。それはJ.S.バッハの解釈も同じこと」と考えるようになった。 また、コロナ禍を経て内向的だった性格が明るくなったこともあり、「今が一番早いタイミング」で行ったという今回の録音。収録曲には、前奏曲、フーガとアレグロ(BWV 998)、無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第3番、シャコンヌの3曲を選んだ。

 「自然から許された一瞬に頂点を垣間見るJ.S.バッハの音楽は山登りのよう。その中で最もドラマティックだと思うシャコンヌは15歳から演奏会で弾き続けていて、絶対に録音したいという想いから出発しました。ピアノのパルティータも入れたかったのですが、和声をギターの弦4本で表現するのは辛くて(笑)。そこで、ギターのオリジナリティを発揮できるリュートやヴァイオリンを原曲に持つ3曲を選びました」

朴葵姫 『BACH』 コロムビア(2024)

 2023年12月に香川県観音寺市のハイスタッフホールで、じっくりと4日間かけてセッション収録した当盤には、彼女の持ち味である美しく洗練された音色と、知的な構築力が最良の形で刻印されている。

 その聴きどころを尋ねると、次の答えが。

 「BWV 998は、平坦で地味になってもいいから、音色の美しさを最優先に。フーガは長い呼吸で、アレグロはチェンバロのようにスムーズな指使いを心がけました。ソナタ第3番とシャコンヌはどちらも物語のような構成なので、長さを感じさせないように、繰り返しを毎回違ったセリフのように弾いたり、切り替えを明確にしたりして。それは、感情の爆発や長い余韻が隅々まで制御された映画「ドライブ・マイ・カー」の世界観に通じると思います」

 5月8日からは当盤の発売を記念した全国ツアーを開催中で、5月12日の紀尾井ホール公演も大成功を収めた朴。音響の豊かなホールではテンポを緩めるなど、演奏はホールごとに異なるそうなので、それらの一期一会の名演にも接しながら、クラシックの醍醐味である聴き比べを存分に楽しもう!

 


LIVE INFORMATION
朴葵姫 ギター・リサイタル「BACH」ツアー 2024

2024年7月13日(土)茨城・ギター文化館
2024年9月13日(金)東京・ルネこだいら
https://www.columbiaclassics.jp/artist/kyuhee-park