目を閉じ、内なる声に耳を傾けて~フランス、想い出の地へのオマージュ
歌うようにギターを奏でるラヴェルの歌曲《天の三羽の美しい鳥》から始まる大萩康司の新作。初めて全編でフランス音楽に取り組んでいる。高校卒業後、6年間留学した想い出の地へのオマージュなのだろうか。
「デビューから長く中南米の音楽を録音してきたけれど、そろそろヨーロッパにシフトしていきたいと考えるようになり、その中でフランス生まれの音楽をギター1本で表現したい思いが強くなっていきました」
収録曲は、クラシックがある一方で、《枯葉》や《バラ色の人生》といったシャンソンの代表的な歌もある。
「曲を探すなかで偶然ジョルジュ・オーリックが書いた《ムーラン・ルージュ》を見つけました。映画音楽、バレエ音楽で知られる彼のこの曲がアルバムにおいて、クラシックとポピュラーをつなぐ役割を果たしてくれるだろう。同じ時代に生きた作曲家の楽曲なのだから、違和感なく同居できるだろうと。でも、実際に演奏してみると、金子仁美さんの編曲が難しかった」
名曲の誰もが知る有名な主旋律を生かしつつ、もうひとつの風景が浮かぶような美しい曲になっている。
「超絶技巧の曲ばかり。頑張っていると聴こえないように頑張りました(笑)。そのなかで発見もあって、たとえば、《枯葉》では冒頭のメロディをトレモロで弾いているけれど、どうしても爪の音が入ってしまう。でも、演奏するなかでその音が枯葉を踏んだ時のカサカサッという音に聴こえてきて。録音では枯葉の音なんだという気持ちで、トレモロを演奏しました」
一方で、クラシックでは20世紀前半に活躍したフランス6人組と称される作曲家の中から前述のオーリック以外にミヨー、プーランクの作品を選び、また、ピエール・プティの《トッカータ》では朴葵姫と共演。アルバムで唯一ゲストを迎えた曲になっている。
「プティは留学したパリの学校の学長だった人で、彼の曲も入れたいと思い、最近デュオのリサイタルで共演している朴葵姫さんと《トッカータ》を演奏しました。彼女はこちらが勝負をしかけると、それに乗ってきてくれる、会話がしやすい優れたギタリストです」
その丁々発止が聴き手にほどよい緊張感をもたらしてくれる。ドビュッシーの《亜麻色の髪の乙女》のような印象派の淡い曲調のものもあるが、アルバムのタイトルにもなったラヴェルの曲をはじめ、ストーリーテリングな演奏に感情の旅が出来る作品でもある。
「《天の三羽の美しい鳥》は、あまり歌われていない曲。美しい曲なので、どうにかギターで弾けないかと試すなかでアレンジが出来た。最後の不協和音は、ラヴェルの心の震えを表現したいと音を半音でぶつけています。3分間に感情が濃厚に凝縮された曲だと思います」
LIVE INFORMATION
大萩康司ギターリサイタル
○5/14(土)14:00開演
兵庫県立芸術文化センター 神戸女学院小ホール(兵庫県)
大萩康司 プロデュース ギターと声 vol.2 Guitar & Voice ~プラテーロとわたし 全曲~
○5/27(金)19:00開演
会場:Hakuju Hall(東京都)
www.jvcmusic.co.jp/-/Artist/A015120.html