音楽家同士の固い絆が創り出す、サイケ&ドラマティックな1曲1時間

 サイケデリックな香りを振りまきながら奔放なフレイジングで駆け回るジミヘン的エレキ・ギター、それを煽り立てるようなハードコアな(時にジャズ・テイストもある)ドラムと大蛇のごとくうねる野太いミニ・モーグ。そして、随所で地鳴りのようにビートを刻む強烈にダビーなベイス。起伏に富んだ、なんともドラマティックな1曲1時間である。ギターの酒井泰三、ドラムの本田珠也、キーボードのホッピー神山といういずれもキャリア十分な猛者たちによる即興トリオ、バクロスのライヴ音源(2023年8月、新宿ピットイン)を元に、ニューヨークのビル・ラズウェルが手を加えたのが、〈聖域〉と名付けられた本作だ。元の音源は10分程度の即興演奏が8曲だったが、ビルがそれらを編集してつなげ、更に自分のベイス・プレイもダビングしたのだという。ビルがリトリートしたマイルズ・デイヴィス『Panthalassa: The Music Of Miles Davis 1969-1974』(98年)を思い出させたりもする。

BAkUroSu, BILL LASWELL 『Sanctum』 God Mountain(2024)

 ビルは一昨年から重い病に伏し、音楽活動を休止してきた。彼の生活の困窮状態を救おうと、日本ではホッピーの提案でドネイションも立ち上げられた。実はこのライヴも、最初からビル救済を念頭に企画されたものだ。「ビルを巻き込んだアルバムを作り、少しでも彼にペイしたいと思ったからだけど、それ以上に、自分で演奏することによって気力を取り戻してもらいたかった。楽器を手にすれば生き返るのがミュージシャンのサガだからね」と語るホッピー。そんな友情に全力で応えたのだろう、ビルのここでのベイスは、本当に寝たきりなのか?と思うほど、力強い。ビルが提案したという〈聖域〉なるタイトルが指し示しているのは、音楽家同士の固い絆と思いやりの神聖さである。

 全体を通して、とにかくギターの痛快な無法者ぶりが際立っているが、個人的にはミニ・モーグの活躍ぶりに特に惹かれたりも。単音という制限があるからこそ生まれた、野性的で生々しい世界である。