めぐるイクタス(発音)ふたたび。
今、ジャズ・ドラマーの本田珠也から目が離せない。現代的な立ちや重さを持つ逸材として大車輪してきた彼だが、昨年夏以降なんと高水準にあるリーダー作を3枚もものにしているのだ。アルト・サックス奏者の守谷美由貴を前に置いたピアノレスの自己トリオにて自らの音楽属性を括った重厚作『セカンド・カントリー』、トランペットの類家心平とギターの井上銘という意気に満ちた実力者を擁するTAMAXILLE名義のセルフ・タイトル作。さらには、純ピアノ・トリオ編成による『ICTUS』を、彼は今年早々に発表した。
最新作の本田珠也ICTUSトリオは、佐藤浩一と須川崇志からなる。須川は先に出したどの作品でも弾いている本田がもっとも信頼するダブル・ベース奏者。一方、2016年自己作『Melancholy of a Journey』では清新な情景音楽と言えるものを成就させたピアニストの佐藤の場合はあまり本田と結びつく印象がなかったが。「浩一君をよく知っている守谷美由貴に勧められて一度見に行ったら、プーさん(菊地雅章。もっともワールド・クラスなジャズを作り続けた在NYのピアニスト故人。晩年はECMと契約した)に対しての思いの強さが分かり、それでライヴをやってみたらお互いの気持ちが合致し、これは続けたいと思いました」
実は、2000年代前半にプーさんが日本人リズム・セクションとトリオを組んだ際に、本田は抜擢されたことがあった。「あの経験は大きいです。ずっと海外でやっていたプーさんに選ばれた時はうれしかったし、真のスウィング感を出す意味を教えられました」
『ICTUS』に収められた曲は、カーラ・ブレイが60年代に書いた曲を主に、二つのスタンダード、そして佐藤の自作曲も二つ。それらを括るキーワードはやはり、プーさんとなるか。カーラ・ブレイによるタイトル曲や“Vashkar”、さらにスタンダードの2曲は本田がプーさんと演奏していた曲だ。
「プーさんとやった自分の経験に則して、この4つの曲はオマージュとしてやりたかったんです。あと、浩一くんもポール・ブレイがやっていたカーラの曲を持ってきたりして、最終的にここに納められた曲を録りました。ライヴではプーさんの曲もやっていたけど、白々しくなるのでやらないほうがいいかな、と。でも、どこかプーさんの匂いは出ていると思う」
ここで繰り広げられているのは、剣の上をひたひたと進んでいくような、不条理や悪意と表裏一体のジャズの瑞々しくもパッショネイトな美学の発露、そのもの。これぞ、今のピアノ・トリオ表現の白眉と言わずして、なんと言う。カヴァー写真は本田撮影による、プーさんのNYのロフトの床の写真である。
LIVE INFORMATION
本田珠也・イクタス・トリオ
2018年3月1日(木)神奈川・横浜 ドルフィー
2018年4月7日(土) 東京・渋谷 ラトリエ l’atelier by apc
2018年5月19日(土)東京・新宿 ピットイン 昼の部
2018年5月25日(金)愛知・吉良 インテルサット
2018年5月26日(土)岐阜・高山 飛騨高山ジャズフェスティバル
2018年6月23日(土)東京・国立 No Trunks
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