鈴木雅之の全国ツアー〈鈴木雅之 taste of martini tour 2024 ~Step123 season2 “Snazzy”~〉のNHKホール公演の模様が、2024年9月24日(火)にWOWOWにて放送・配信されることが決定した。
3月にリリースした最新アルバム『Snazzy』を引っ提げ、4月から8月にかけて全27公演におよんだ同ツアーより、7月14日に開催されたNHKホール公演のライブレポートが到着した。 *Mikiki編集部
あふれ出る思いを歌った全22曲
再来年9月に迎える70歳に向けて〈古稀ソウル〉を目指し、次なるステップに臨んでいる鈴木雅之。かつて60歳に向けて〈還暦ソウル〉へと一歩ずつ階段を上っていったように、また新たな高みを目指している。2024年3月に最新アルバム『Snazzy』を発表した鈴木は〈鈴木雅之 taste of martini tour 2024 ~Step123 season2 “Snazzy”~〉と題し、4月から8月にかけて全国25か所で合計27公演のツアーを展開。7月14日に開催されたNHKホール公演はWOWOWで生中継された。前作『SOUL NAVIGATION』がダンス、ファンクミュージックを軸としていたのに対して、今作で届けられたのはブルース。それは音楽ジャンルとしてのブルースだけを指すのではなく、〈心の内面からあふれ出る思いを歌う〉という本質的な姿勢を示すものだった。
アルバムと連動した今回のツアーのステージコンセプトは、ニューオーリンズのバーボンストリートにたたずむジュークジョイント〈House of Snazzy〉。マーチン(鈴木の愛称)は店のオーナーでありラブソングを届け続ける専属ボーカリストという設定だ。開演時間を過ぎると観客が店と心のドアを開き、ソファーに座り足を組んだ彼が迎え入れる。粋なセットと演出でコンサートの幕が開けた。
1曲目は最新アルバムのオープニングを飾る“Hey you?, Hey sup?”。ニューソウルのマナーに乗せて、今日という一日のはじまり、新たな人生のはじまりを祝福する。続く“Ultra Snazzy Blues”はアルバムの核となる骨太なブルース。B’zの松本孝弘とGReeeeN(現GRe4N BOYZ)とのコラボレーションにより生まれた奇跡のナンバーが胸を打つ。代表曲“違う、そうじゃない”をはさみ、つのだ☆ひろ提供の王道ソウルとも呼ぶべき“君は魔法使い”へ。新鋭バンドBillyrromをフィーチャーし新境地を開いた“Magic Hour”、自身の作詞作曲による“Psychedelic City”と最新曲を続け、冒頭から新たな一面を見せた。
松田優作の魂にリスペクトを捧げた“YOKOHAMA HONKY TONK BLUES”、上田正樹の代表曲“悲しい色やね”と続けた邦楽カバーでは音楽史に残る名曲に心を尽くし、“さよならいとしのBaby Blues”では盟友・有賀啓雄へ追悼の意を込めて歌いあげた。誰もが彼の思いを真っ直ぐに受け止め、ホール全体が厳かな空気に包まれた。
圧巻は、初の洋楽カバーアルバム『Soul Legend』に収録され、23年ぶりにボーカルが再録音された“Me and Mrs. Jones (2024 Ver.)”だった。露崎春女との極上のデュエットが、聴衆を1970年代のめくるめくフィラデルフィアサウンドの世界へと誘った。若い頃ダンスパーティーでのチークタイムの定番だったというこの曲を今回改めて取り上げたのは、〈魂の里帰り〉をするような気持ちがあったからだという。その一方で、歌い継がれることで楽曲に新たな息吹や時代を超える普遍性が宿されるような、神聖な儀式のようにも感じられる名演だった。
レーベルメイトである石崎ひゅーい作詞作曲、トオミヨウ編曲による“ベイビー・レイニー・ブルース”も素晴らしかった。グルーヴィーかつアップテンポに思いが加速していく疾走感あふれるブルースは、鈴木の歌に新たな彩りと色気を加えていた。
“DUNK”、“DRY・DRY”、“恋人”と、マーチンクラシックスとも呼ぶべき3曲を続けた後に披露されたのは、本編最後の曲となる“Beautiful”。鈴木が主題歌を務めたアニメ「かぐや様は告らせたい」シリーズでのセッションも印象深い、水野良樹(いきものがかり/HIROBA)と本間昭光が手掛けた名バラードだ。人が育む愛、人が失う愛、それでも、人を信じる愛。尊さと切なさが聴き手の人生に寄り添い、胸に沁む。彼は、ひとりひとりの心の傷みを癒さんとばかりに、声の限りに歌う。スモーキーな歌声に五感を委ねたオーディエンスの陶酔した姿もとても印象的だった。