タワーレコード新宿店~渋谷店の洋楽ロック/ポップス担当として、長年にわたり数々の企画やバイイングを行ってきた北爪啓之さんによる連載〈聴いたことのない旧譜は新譜〉。そのタイトル通り、本連載では旧譜と称されてしまった作品を現在の耳で新譜として紹介していきます。
第10回は、シャネルズ/ラッツ&スターを大特集。2025年はグループにとって2つのアニバーサリーイヤーであることから、今回はベスト盤などを除いた全アルバムレビューでお届けします。 *Mikiki編集部
シャネルズ/ラッツ&スターは想像以上に〈オルタナティブでクリエイティブなグループ〉
シャネルズ/ラッツ&スターは1975年に結成され、1980年にレコードデビューを飾った。つまり今年は結成50周年、デビュー45周年にあたるアニバーサリーイヤーである。
“ランナウェイ”や“め組のひと”など特大ヒット曲の印象が強いためか、世間一般では昭和歌謡のグループとしか認識されてないように思えるのだけれど、それは彼らの本質ではないのでどうにももどかしい。それゆえ今回はベスト盤や企画盤を除いた全アルバムを紹介することによって、ヒット曲だけでは見えてこない彼らの魅力を少しでも伝えられればと思う。
シャネルズは映画「アメリカン・グラフィティ」やUSのロックンロールリバイバルバンド、シャナナの影響を受けて活動を始めたグループで、そのスタンスは以前この連載でも取り上げたクールスにも似ている。
しかしクールスが50sのロックンロールをベースにしていたのに対して、シャネルズは同じ50sでもよりマイナーな黒人音楽のドゥーワップに傾倒していた。それはようするに歌謡曲とはまったく別の地平からスタートしているということでもある。だからこそ、今年4月にマーチンこと鈴木雅之のデビュー45周年を記念してリリースされた企画盤のタイトルが『All Time Doo Wop ! !』であることに改めて強い矜持と誇りを感じてグッときてしまうのだ(ドゥーワップについては過去の記事に詳しいので、そちらを参考にして頂きたい)。
そんなニッチな音楽を志向していたシャネルズに興味を持ったのが大滝詠一だった。1978年にリリースしたアルバム『LET’S ONDO AGAIN』収録の“ピンク・レディー”で、まだアマチュアだったシャネルズを起用。“禁煙音頭”でもマーチンと佐藤善雄をボーカルに据えている。後者には山下達郎もコーラスで参加していたが、彼はのちにマーチンのソロ楽曲のプロデュースを手掛けることになる。デビュー前に大滝、山下という当時のメインストリームとは一線を画す創作活動を行っていた先達と交流し、大きな影響を受けていたことは留意すべきだろう。ともあれ、シャネルズ/ラッツ&スターは世間の印象よりもずっとオルタナティブでクリエイティブなグループだったのだ。
シャネルズ『Mr.ブラック』(1980年)
記念すべきデビューアルバムはレコードでいうA面がオリジナル曲、B面がドゥーワップのカバーという構成。アナログのライナーノーツではドゥーワップの歴史や代表グループなどが事細かに解説されているが、それは当時の日本ではまだほとんど認知されていないジャンルだったことの裏付けでもある。先行シングル“ランナウェイ”の爆発的なヒットが追い風になったとはいえ、これほどマニアックな音楽性のアルバムがオリコンチャート首位を獲得したのだから痛快だ。
私的レコメンドはマーチン作曲の“月の渚−YOU’LL BE MINE−”。日本語でもドゥーワップが出来るという最良のサンプルケースだと思っている。また、B面の最後を飾るダブスのカバー曲“CHAPEL OF DREAMS”は、山下達郎もアカペラアルバム『ON THE STREET CORNER 2』(1986年)で取り上げているので聴き比べてみるのも一興だろう。
なお1980年は〈日本のドゥーワップ元年〉と呼ぶべき年でもあった。8月にはザ・キングトーンズが歌謡曲ではなくドゥーワップをメインにした初のアルバム『インディペンデンス・デー~アット・ベニー・カーター・シアター』を、12月には山下達郎が1人ドゥーワップカバー集『ON THE STREET CORNER』を発表している。その先陣を切ったのが5月にリリースされた本作だという歴史的事実は大きい。
シャネルズ『Heart & Soul』(1981年)
“トゥナイト”、“街角トワイライト”というビッグヒットを収録したセカンドアルバムで、全編がオリジナル曲。シングルは“ランナウェイ”と同じく作詞・湯川れい子、作曲・井上忠夫のチームだが、それ以外のほとんどの楽曲をマーチンが作曲し、半数近くの作詞を田代マサシが手掛けている。
前作でもシングルとカバー以外は全てマーチン作だし、本作以降のアルバムでも基本はそうである。つまりオリジナル曲の大半は自作自演なのだ。これはすごく大事なポイントだろう。
その田代&鈴木コンビによる冒頭の“ストリート・シンフォニー”は、図太く粘っこいファンクビートから突如華やかなソウルレビュー風に突入する華やかなナンバー。2人は他にもサム・クック調のコーラスが映える“夜明けのワーク・ソング”、センチなロッカバラード“涙のテレフォン”、シングルでもおかしくないほどポップな“あの娘はミステリー”など佳曲を書いている。ロマンティックなバラード“星くずのダンス・ホール”の作詞をした麻生麗二は、のちにチェッカーズをスターダムに押し上げる売野雅勇の変名。これが彼の作詞家としてのデビュー曲でもある。
シャネルズ『LIVE AT WHISKY A GO GO』(1981年)
LAの老舗ライブハウスでのステージを収録した、キャリア唯一のライブアルバム。デビューからわずか1年ほどのグループが海外でコンサートを行えたことも驚きだが、英語で歌われた“ランナウェイ”と新曲の“ハリケーン”以外はすべてブラックミュージックのカバーで占められたライブ盤が、前2作同様オリコンチャート1位を記録したことは快挙という以外にない。
ドゥーワップを主軸にしつつも、サザンソウルからフィリー、モータウンにまで目配せした黒い選曲もさることながら、本場のオーディエンスに臆することなく繰り広げられる圧巻のパフォーマンスが素晴らしい。観客の熱狂が伝わってくる“LET’S TWIST AGAIN”や敬慕するコースターズと共演した“POISON IVY"もたまらないが、なによりも桑野信義が一世一代の名唱で魅了する“FOOLS FALLIN’ LOVE”が絶品。これぞエンターテインメントの鑑と言っていい、邦楽ロック/ポップス史上に残る名ライブ盤だ。
シャネルズ『Hey!ブラザー』(1981年)
通算4作目。おなじみ湯川&井上コンビによるシングル曲“涙のスウィート・チェリー”、“ハリケーン”と、ビッグバンド調の“TAKE THE A TRAIN~ハーレム・エクスプレス”以外の編曲をすべてシャネルズと村松邦男が手掛けていることは注目に値する。元シュガー・ベイブのメンバーであり大滝詠一のナイアガラサウンドには欠かせないギタリストでもある村松は、じつはデビュー作の『Mr.ブラック』からラッツ&スター時代に至るまでグループのサウンド面に大きく携わってきた重要人物でもあるのだ。
その村松が間奏でエモーショナルなギターを披露するパーティーロックンロール“DANCE! DANCE! DANCE!”がアルバムの白眉だが、軽やかなラテン風味と下ネタ交じりな歌詞の相性がいい“愛しのアンナ”や、桑野のトランペットと甘美なストリングスが涙を誘う失恋バラード“ラスト・ワーズ”も捨て難い。
シャネルズ『SOUL SHADOWS』(1982年)
グループ名の英語表記の頭文字をCからSにマイナーチェンジして臨んだ通算5作目。しかしそれ以上に大きな変化は、シングル曲のクレジットから湯川&井上の職業作家チームが外れたことだろう。いっぽう村松は前作以上の貢献ぶりで、アカペラの表題曲を除く全ての編曲を担当しているばかりか、タイトルからしてシュガー・ベイブを想起させる“マイ・シュガー・ベイビー”と、シングルカットされた“もしかして、I love you”の2曲を提供している。後者は鈴木の姉で当時まだアマチュアだった鈴木聖美との姉弟デュオによるモータウン調ナンバーで最高に胸キュン。田代&鈴木コンビによる初めてのシングル曲“憧れのスレンダー・ガール”、続く“サマー・ホリデー”は共にポップに弾けた好曲でヒットを記録している。
シャネルズ『ダンス!ダンス!ダンス!』(1982年)
シャネルズ名義では最後のオリジナルアルバム。新曲が4曲に既発曲の再録が3曲、残りは洋楽オールディーズのカバーという変則的な内容のため消化試合のような印象を持つかもしれないが、それは大間違い。私的にはむしろ彼らの最高傑作だと思ってはばからない。
まず、タイトル通りダンスに特化した選曲のためアルバム全体が熱気と高揚感に溢れているのがいい。また新曲のクオリティーも高く、ごきげんなロッキンドゥーワップの“週末ダイナマイト”と、切ないポップダンサー“涙でハッピーバースデー”はとくに出色。そして、カバー曲の合間に自分たちのナンバーを挟むような構成とその曲順がじつに周到で、オリジナル曲もまるでオールディーズを聴いているような錯覚に陥るのだ。ここではもはや洋楽と邦楽、英語と日本語などという区分けは必要ないのである。村松の助力もあるとはいえ、マーチンの巧みなバランス感覚と音楽センスが垣間見える名盤。
ラッツ&スター『SOUL VACATION』(1983年)
ラッツ&スターに改名して初のアルバムで、恩師・大瀧詠一のプロデュースでアートワークはアンディ・ウォーホルという再出発に相応しい豪華な布陣。大瀧は盟友の松本隆を相方に2曲を作曲しているが、先行シングルの“Tシャツに口紅”は編曲に井上鑑を配したナイアガラサウンドの王道を行く名曲。大瀧本人が編曲を務めた“星空のサーカス”は、ファイブ・ディスクスの“Never Let You Go”をアップデートしたようなモダンドゥーワップの逸品だ。
アルバムに先駆けて“め組のひと”という特大ヒットをプレゼントした井上大輔(忠夫)も2曲提供しているが、シングルカットされた“今夜はフィジカル”よりも、洗練されたメロウネス漂う“真夜中のダイヤモンド”に惹かれる。田代&鈴木コンビではオーティス・レディング風の“楽しき街角”と、蕩けるようなソウルバラードの“Miss You”がじつにいい。シャネルズ時代よりも幅広く豊潤な音楽性を打ち出した意欲的な充実作。
ラッツ&スター『SEE THROUGH』(1984年)
前作発表後にキーボードの山崎廣明とベースの高橋進が脱退して8人体制となった、通算8枚目のアルバム。サウンドプロデュースと編曲に後藤次利を迎えたことで従来とは音楽性も変化し、全体的にコンテンポラリーな作りになっている。正直なところ派手なデジタルサウンドとグループの相性はいいとは言えないし、得意のコーラスワークを活かしきれていないアレンジにも首を傾げざるを得ない。しかし、ラッツであることを抜きにモダンな〈和製ブラコン〉として捉えると結構面白く聴けるアルバムでもある。たとえば“グラマーGuy”には途中でスクラッチが挿入されているが、日本では相当早い果敢な取り組みだったに違いない。そして徹底してアーバンなメロウグルーヴ“サマーナイト・トレイン”は、シティポップ視点からも見直されてほしい良曲。
ラッツ&スター『SING! SING! SING!』(1985年)
現時点におけるグループ最後のオリジナルアルバム。プロデュースにマーチンが名を連ね、アレンジャーには再び村松を起用、しかも久々に湯川も作詞で参加と、前作から軌道を修正して原点回帰ともいうべきスタンスで臨んでいる。
これぞラッツというコーラス主体の“You’ll Be Mine”に始まり、大滝詠一“さらばシベリア鉄道”へのオマージュでもあるマーチン流ナイアガラソング“熱帯夜/真夏のエクスタシー”。マーサ&ザ・ヴァンデラスの“Heatwave”をモチーフにした“夕日と拳銃”に、田代が艶めくファルセットで歌い上げるスタイリスティックスマナーの“夏の光と影”など、洒落っ気と遊び心溢れる佳曲が詰まっている。もっと再評価されて然るべきアルバムだと思う。
本作以降メンバーはそれぞれの道を歩んでいくことになるが、1996年に再集結して大瀧詠一プロデュースによるシングル“夢で逢えたら”をリリース。これが大ヒットとなって同年の「NHK紅白歌合戦」に初出場を果たした。以後はグループとしての活動は行われていないが、〈解散をしたわけではない〉という桑野の言葉を信じて、また彼らならではの抜群のコーラスワークが聴けることを心待ちにしたい。
PROFILE: 北爪啓之
1972年生まれ。1999年にタワーレコード入社、2020年に退社するまで洋楽バイヤーとして、主にリイシューやはじっこの方のロックを担当。2016年、渋谷店内にオープンしたショップインショップ〈パイドパイパーハウス〉の立ち上げ時から運営スタッフとして従事。またbounce誌ではレビュー執筆のほか、〈ロック!年の差なんて〉〈ろっくおん!〉などの長期連載に携わった。現在は地元の群馬と東京を行ったり来たりしつつ、音楽ライターとして活動している。NHKラジオ第一「ふんわり」木曜日の構成スタッフ。








