(左から)藤井健司、磯野好孝、藤井智之

2011年に結成されたバンドEmeraldが、実に7年ぶりになるフルアルバム『Neo Oriented』を2024年8月28日にリリースした。〈ナイトアーバンポップス〉を掲げ、R&Bやソウル、ジャズ、AOR、ロック、そしてJ-POPなどを溶け合わせた独自のサウンドとグルーヴで独立独歩の活動を続けてきた彼らは、ここにきて、〈集大成的な作品を作る〉という安直な選択肢ではなく、旺盛な探究心によって前進し続けることを選んだ。

そんな挑戦作『Neo Oriented』について、文筆家つやちゃんがメンバーの藤井智之(ベース)、磯野好孝(ギター)、藤井健司(マニピュレーター)にインタビュー。全体を2つの記事に分けてお届けしよう。今回の前編では『Neo Oriented』の背景や各曲の制作について具体的に語ってもらった。 *Mikiki編集部

Emerald 『Neo Oriented』 Maypril(2024)

 

〈シティポップ〉で片づけられないサウンドを求めて

――アルバムの構想はいつ頃から練り始めたのでしょうか。

藤井智之「2022年の12月頃にアルバムのコンセプトが固まって、2023年6月頃からレコーディングを始めた流れです。さかのぼると、前作『Pavlov City』(2017年)は〈パブロフの犬〉から来たワードだった。当時、シティポップが――言葉を選ばずに言うと――蔓延していた状況で、そういう入口でたくさんの方に聴いてもらえたりもしたけど、その業況にちょっと疲れていた自分たちもいたんですね。

『Pavlov City』はそういったマインドで作り上げて、リリースパーティには〈Neo Oriented〉という公演タイトルをつけたんです。〈新しい志向〉と〈新しい東洋〉のダブルミーニングなんですけど。その時点で、今作のコンセプトはある程度定まっていました。

〈Neo Oriented〉=アジアのバンドとして自国の文脈の中で本当に好きなものを集めて音楽を作るんだ、という極東→欧米の回路を意識しつつ、〈ここに俺たちがいるぞ〉と旗を立てる意味もある。つまり、アジアと欧米の目線を交差させることで、シティポップという言葉だけでは片づけられないバンドサウンドを目指していこうという想いがあります」

――実際の制作過程においても変化はありましたか?

智之「ファースト(2014年作『Nostalgical Parade』)は、とにかくスタジオで曲をたくさん作って溜まったものを並べてアルバムにしていった感じだったんですよ。セカンド(『Pavlov City』)は、シティポップ全盛ではあるけどもう少しネオソウル寄りのことをやりたいねということで、その頃のコンポーザーだったキーボードの中村(龍人)のデモを元に歌モノにしていきました。つまり、2作ともスタジオワークだった。

でも、今作の場合それはほとんどなくて、とにかくコンセプトを決めてデモを起こしていったんです。なぜなら、コロナ禍でスタジオに入れずリモートで曲を作っていったから。今作は時間の制限もなく、それぞれが自宅でじっくり考えたフレーズが元になってるので、作り方としては全然違いますね」

磯野好孝「結果、ワンフレーズ作るのに何時間かけるんだっていう世界に入っていった」