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1冊の本みたいなバラードをずっと作りたかった

――英語のセクションも、綺麗なストリングスなどではなくノイジーな音像になっているのが印象的です。

「頑張って、いわゆるバラードで使われる音色を使わないようにしました(笑)。思い出にどんどん落ちていくような感じは、オルタナっぽい歪んでる音色を集めたことによってできました。しかも、今回初めてアナログミックスに挑戦したんです。テープの温かみも感じるし、ノイジーな部分がより際立って面白かったです」

――なるほど。eillさんの世代からすると、アナログのミックス作業はかなり新鮮だったんじゃないですか。

「はい。超楽しかったです! いつも一緒にアレンジをやっている方が〈アナログでやったらいいんじゃない?〉と提案してくださって。私にはそんなアイデアまったくなかったので、〈それはなんですか?〉っていうところから始まりました(笑)。ミックス作業を見せていただいたんですけど、卓を人の手で操作するので、指先のさじ加減ひとつで音が変わるんですよね。つまみを動かすたびに、〈ここで音がこんなに変わるんだ! 魔法みたい!〉って。最後まで曲が変化し続けて、アナログならではの音像になったと思います」

――アナログはその場で生み出される特別感がありますよね。完成した音源を聴いたときの印象はいかがでしたか。

「理想のバラードが作れたな、と思いました。作ってきた曲の中でバラードは少ないんですけど、まさに〈こういう曲が作りたかったんだよ!〉という感じになって嬉しかったですね。古い時計の音から始まって、歌が入って、だんだん物語のクライマックスが訪れて、最後にページをめくるようなセクションがあって終わる。1冊の本みたいなバラードをずっと作りたかったんですけど、それが実現できたかなと思います」

――歌詞はどんなイメージで書いていったんですか。

「『ラブ トランジット』は、一度終止符を打った恋から始まるので。過去を思い出して〈好き〉という方向にいくのも、〈やっぱり無理かも〉と思って新しい方向にいくのも、どちらも正解だと思うから、ちょっと余白を残すことを意識しました。本みたいなバラードと言ったように、それぞれの恋が1冊の本になって、ずっと自分のメモリーの中にあるような、そういう歌詞にしたかったんです」

――シーズン1を経たことも反映されています?

「そうですね。最初、私は相手の嫌な部分ばっかり目についちゃう性格だから、元カレと恋はできないなと思ってたんですよ(笑)。でも、出演されているみなさんがピュアに言葉を交わしているのを見て、すごく感動しちゃって。やっぱり一度自分の心をさらけ出した相手だからこそわかり合えることもあるんだなって思いました。なので、“happy ever after”の歌詞はシーズン1を見て価値観が変わったからこそ書けましたね」

――シーズン1では、結果的に復縁するカップルが多かったですもんね。

「そうそう。あと、シーズン1の方々が私のライブに来てくださったんですけど、なんかもう青春って感じで! みなさん仲良くて、輝いていて……すごいことを一緒に乗り越えたんだなって。一緒に写真を撮らせていただいたんですけど、アイドルと写真を撮ってもらったような気持ちでした(笑)」

――改めて「ラブ トランジット」の魅力をどういうところに感じますか?

「そもそも、なかなかないシチュエーションでありながら、身近なテーマでもあるところが面白いです。普通の恋愛リアリティ番組だと出会ってから恋が始まるけど、元恋人のもとに戻るのか、違う誰かにいくのか、それとも誰も選ばないのかって何通りもの恋の行方があるじゃないですか。さらに過去の話があるから、それぞれ傷ついているポイントに深さがあって、自分の経験にも重ねてグッときちゃいますよね。

一度別れているからこそ、もう一度同じ相手を選ばなかったとしても別にネガティブじゃないし、〈私は私の道を選ぶ、僕は僕の道を選ぶ〉という展開に〈頑張れ!〉って応援したくなります。本人が気づいていないことも視聴者目線では〈本当はこう思ってるのに〉ってわかる葛藤も面白くて、すごい番組だなと思います」

――シーズン2では、そうした番組の魅力がさらに感じられますよね。ちなみに、eillさんにとってラブソングとはどういう存在ですか?

「ラブソングにはずっと苦手意識があったんです。そんなに恋もしてないし、曲を書くときは自分のことについての気持ちが出てくることのほうが多いので。でも、『ラブ トランジット』のお話しをいただいてから、恋してる相手に歌うラブソングだけがラブソングじゃないんだなと思えて、向き合い方が変わりました。

それこそシーズン1で私の過去の曲が流れたとき、自分が書いたシチュエーションと違う場所で使われてもすごく楽曲が映えることに気づけたし。変なこだわりやしがらみみたいなものが払拭された感覚がありました」