3度目の来日で、日本のオーケストラとの初共演を果たす
3度目の来日公演で、フランス出身のクラシック・ギタリスト、ティボー・ガルシアは、初めて日本のオーケストラと共演した。
「群馬交響楽団との共演は指揮者も素晴らしく、会ってすぐにお互いの声を聞き合える人達と思えたし、ホールの音響も良かったよ」
演奏したのは名曲“アランフエス協奏曲”。2020年のアルバム『アランフエス』でも高く評価された楽曲だ。
「すでに多くの録音が存在する“アランフエス協奏曲”のようなクラシカルな曲を録音するには、何か新しい言葉を足さなくてはいけない。とは言っても、むやみに足し算やデフォルメをすればいいわけではなく、テンポ、雰囲気、色合いなどが複合的に混ざり合うことで僕独自のヴァージョンが出来上がってくるんだと思う」
彼の演奏は、〈繊細〉と評される。“アランフエス協奏曲”も優美な音が粒立つ極めて丹念な演奏で、彼の言葉を実感できるものだ。
さて、今回の来日公演、ソロコンサートではセルジオ・アサドが邦画「夏の庭」のために作曲した“別れ”が演奏された。配信でも聴けない貴重な楽曲なのだが……。
「この曲はアサドの奥様が亡くなられた時に書かれたもの。濃密な人間関係、家族の絆、愛の強さが感じられる美しく、モダンでもある曲なので、ぜひ演奏したいと思った。でも、そんな貴重な曲なの? 楽譜がウチにあったんだ」
さらに聞くと、アサドと親交があり、いま新曲を書き下ろしてもらっているという。その新曲は、盟友であるアコーディオン奏者、フェリシアン・ブリュとのデュオのためのものだそうだ。
「アサドは、ギターはもちろん、アコーディオンにも精通している。そうじゃないと、このデュオのための曲は作曲できない。つい先日楽譜の一部が送られてきたけれど、間違いなくいい曲。まずはどこかの公演で演奏するつもりだ」
30歳を迎えて、頭には無限のアイディアが詰まっているという。なかには発明(!?)もあるらしいが、新作の企画も進行しているそうだ。
「3年前からバッハの準備を重ねている。バッハは僕にとって大切な課題。まだ時間はかかるけれど、僕の人生において最も重要なプロジェクトになると思う」
繊細な演奏は、綿密な準備と豊富な知識、緻密な計算から生まれるもの。その確信を強めつつ、最後に語った木製の手触りが心地好く、弦も柔らかなクラシック・ギターは、「官能的な楽器」という言葉が印象的だった。ティボー・ガルシアの30代に期待したい。