〈キング・オブ・MC〉の異名を持ち、米NY、そして世界を代表するレジェンドリリシスト、ナズ。彼のデビューアルバムにして1990年代のヒップホップにおける歴史的名盤『Illmatic』のリリースから30周年を記念して、2024年9月18日にZepp Namba (OSAKA)で、9月20日にKT Zepp Yokohamaで単独公演が開催された。即ソールドアウトした昨日の横浜公演は、約2,000人のファンが集結し、大熱狂のまま幕を閉じた。また神がかったパフォーマンスの終了後には、新旧の楽曲を織り交ぜたセットリストも即時公開されている。そんな特別なライブの最速レポートをお届けしよう。

なお『Illmatic』の30周年を祝って、同作のカセットが奇跡的に復刻された。さらに、全曲の歌詞の新たな翻訳と解説が付属したアナログレコードも数量限定で販売中。来日公演の日程や会場名が帯に印刷されたアナログ盤は、完売してしまう前に今回の来日記念アイテムとしてぜひ手に入れたい。 *Mikiki編集部


 

This is practice this is magic
History Havoc instant classic (30)
This is madness in all fairness

これが実践なんだ これは魔法
歴史 ハヴォック 出来た瞬間からクラシック(30年)
まったく狂ってるよ どう考えても

『Illmatic』から30年。2024年9月20日、まだ猛暑の横浜。チケットが即完したKT  Zepp Yokohamaに居合わせたラッキーなファンは、生まれたときにすでに『Illmatic』が存在していた世代から、ナズと一緒に年齢を重ねてきた人たちまで。その全員がこの歴史的アルバムのリリックを知っていた。それが、美しかった。

冒頭に取り出したリリックは、3部作『King’s Disease』シリーズ3枚目からの“30”だ。2023年にリリースされたとき、〈まだ29年だからフライング〉とレビューで書いた私は浅はかだった。今年の30周年ツアーを見越して用意した曲なのだ。ライヴ終盤、この曲をしみじみ、しかし力強くラップするナシーア・ジョーンズを見て、ふっと目の奥が熱くなった。30年続けて第一線のステージに立ち、歴史を作り、新たな名曲を作る。それがどれくらい稀有で〈狂ってる〉のか、ナズ本人が一番よくわかっている。同郷クイーンズの盟友、モブ・ディープのハヴォックの名を入れているのは、韻を踏むためだけでなく、2017年に片割れのプロディジーが亡くなっても、プロデューサーとして活躍している彼へのエールだろう。

20時ぴったり、背景に巨大なダブルカセットデッキが浮かび上がる。“Get Down”のイントロから始まり、“The Message”へ。バックを固めるのは、MCからハイプマンまで務める器用なDJグリーン・ランターンと凄腕のドラマーふたり。プロジェクターは、テレビ番組「ソウル・トレイン」の映像から、クイーンズ・ブリッジや低所得者層向け団地のプロジェクト、煌びやかなタイムズ・スクエアまで映し出した。視覚的にもナズの思い出の小径(メモリーレーン)を一緒にたどる構成だ。

代表曲が多いため、フックを強調してシュッと短く披露する曲と、頭から最後まで丁寧にラップする曲を配して緩急をつける。“It Ain’t Hard To Tell”や、“N.Y. State Of Mind”といった1990年代から聴かれ続けてきた曲で、観客席はひときわ盛り上がった。渦中のP・ディディとの“Hate Me Now”を我関せず、とばかりにそのままパフォーマンスしたのも、彼の人となりが伝わっておもしろい。