1994年4月19日にリリースされたナズのデビューアルバム『Illmatic』。発表から30年が経った今も、ヒップホップ史における金字塔として圧倒的な存在感を放ちつづけている。本作の30周年を記念するライブが日本でも開催されることや再発盤のリリースが話題だが、このアルバムの真価、特にリリックの意味や高度なライミングを理解するのは、英語ネイティブではない日本語話者にはなかなか難しい。そこで、YouTubeでラップのリリックを解読する動画を日々アップし、noteで本作の解説を執筆しているShotGunDandyに、『Illmatic』はなぜ名盤なのか?という質問をぶつけてみた。

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NAS 『Illmatic』 Columbia(1994)

 

リリックを理解しないと『Illmatic』のよさはわからない

――ナズや『Illmatic』との出会いからお伺いさせてください。

「高校1年生の頃です。リリースからちょっと遅れて1997年、CD屋さんで見て、気になって聴いてみた、というのが出会いです」

――初めて聴いた時のご感想は?

「めちゃめちゃかっこよかったですね。まず、雰囲気が危ない感じというか、自分がニューヨークにいるかのような錯覚に陥るような音にやられました」

――当時魅了されたのは、やはりリリックでしたか?

「まだ10代でしたし、最初は音なんです。〈何これ? めちゃくちゃかっこいい音だ!〉と思って聴いていくうちにリリックも入ってきて、すごい!と改めて思ったんです」

――noteで全曲のリリックの解説を進めていらっしゃいますが、執筆しようと思った理由や目指しているところを教えていただけますか?

「日本のリスナーにリリックの重さやすごさを届けたいんです。それをやるにあたってナズの解説から始めたのは、やはり彼のリリックがすごいからなんですね。ナズや『Illmatic』が好きと言っている方は日本にもたくさんいらっしゃるんですけど、失礼な話、リリックを理解していないと本当のよさはわからないと思います。そこをわかっていただきたい一心で、解説を始めた次第です。

あと、私は普段、YouTube動画でヒップホップのリリックを解説していますが、コメント欄で〈2024年は『Illmatic』のリリースから30周年なので、ぜひ解説本を出してください〉と言っていただいたんです。それはぜひやってみたい!と思って、そのコメントがきっかけにもなりました」

――動画では、20代前半で『Illmatic』の解説を書きたいと思っていた、ともおっしゃっていましたよね。

「そうなんです。ただ、当時は、今のようにインターネットのサービスや情報が充実していなくて。ブログは書けたので、解説というよりはレビュー寄りの文章、〈こんなにすごいアルバムがあるから、みんな聴こうぜ!〉という内容の文章を書こうと思っていました。今はリリックに重きを置いて、ナズのラップを紐解いていく内容を届けています」

――ご自身の活動を通じて、日本のヒップホップリスナーとラッパーのレベルを向上させたい、と常々発信されているのも印象的です。

「それがいちばんの思いですね。ナズは、リリックに思いやメッセージを乗せているだけじゃなくて、高度な単語やスラングを使って、巧みなライミングをしながら、ダブルミーニング、トリプルミーニングのラップをしているんです。本当に奥が深いので、そこを理解してもらいたいし、理解したラッパーとリスナーが増えれば、日本のヒップホップシーン全体のレベルも必然的に上がっていくんじゃないかな、という勝手な思いと希望があります」