2枚目のジンクスなんて関係ないよ! 勢いや衝動だけでなく豊かなアイデアと好奇心をダイナミックに注ぎ込んだセカンド・アルバムは期待以上の大傑作に仕上がった!
〈義務なんてない〉〈すべての期待を払いのけるだけ〉と威勢よく叫ぶタイトル曲で始まる、リンダ・リンダズのセカンド・アルバム『No Obligation』。その猛々しいオープニングは期待を裏切り、常識を覆していくことを勇ましく歌い放っているが、そのパンキッシュなファイティングポーズこそが彼女たちの期待される振る舞いそのものだ。ルシア・デ・ラ・ガーザ(ギター/ヴォーカル)とミラ・デ・ラ・ガーザ(ドラムス/ヴォーカル)の姉妹に、その従姉妹のエロイーズ・ウォン(ベース/ヴォーカル)、そして親友のベラ・サラザール(ギター/ヴォーカル)から成るこの4人組バンドは、2021年5月のLA公共図書館における“Racist, Sexist Boy”のパフォーマンスで世界に名を知らしめて以降、そのシンプルで懐かしくも新鮮な存在感によって支持を拡大し続けている。ファースト・アルバム『Growing Up』をリリースした2022年には〈SUMMER SONIC〉で初来日を果たし、今年の3月には〈PUNKSPRING 2024〉出演と繋げる格好で東京/大阪での単独公演も実現。アジア系/ラテン系で、女性で、ティーンで……という特性もあって、音楽メディア以外からの注目も集めてきた。
そういったマイノリティ性のみにいつまでもフォーカスされるのは彼女たちの本意ではないとして、少なくともその若さが現時点でバンドの活動ペースを規定しているのは確かだ。ルシアとエロイーズはまだ高校生、ミラは14歳になったばかりとあって、ライヴや楽曲制作は週末や学生たちの春休みなどの休暇を活かしてマイペースに進められてきた。そうして完成したのが今回の新作『No Obligation』というわけである。
前作からの2年間でバンドも個々も文字通り〈Growing Up〉し、全員が作曲に関わってヴォーカルも分け合う関係上、それぞれの色や嗜好が多面的に反映されたアルバムは、一聴して前作以上に多彩なスタイルが束ねられている印象だ。昨年4月に発表の“Too Many Things”はポップ・パンクで、同7月の“Resolution/Revolution”は往年のライオット・ガール風味も不敵に漂わせたパワー・ポップ。それら先行カットはリンダ・リンダズの新しい挑戦を示唆するものだったが、アルバム全体で楽曲の幅はさらに広がっている。
その幅の象徴となるのが「これまででもっともインディーな雰囲気を持っている曲だと思う。アコースティック・ギターで書かれたから」(ルシア)というメロディアスな“All In My Head”だろう。また、「いつもストレスを感じていて、いつも不安で、人々が自分に怒っているんじゃないかと考えてしまうことについての曲」(ベラ)だという“Yo Me Estreso”はロック・エン・エスパニョールの影響下にある曲で、ここではあの“ウィアード・アル”ヤンコビックがアコーディオン演奏でしているのもおもしろい。他にも、疾走感のあるポスト・パンク調の“Once Upon A Time”やポップなコーラスが効いたガレージの“Cartographers”や“Don’t Think”、ニューウェイヴ風味の“Nothing Would Change”、重心を落としてラップで捲し立てるハードな“Excuse Me”など、飽きさせないアレンジの多様さを備えたダイナミックで抜群にキャッチーな楽曲が並び、吸収力のある4人がそれぞれの瑞々しい衝動と相応の成熟、多彩なアイデアを刻んだ傑作に仕上げている。
去る7月13日にはローリング・ストーンズ〈Hackney Diamonds Tour〉の前座としてスタジアムを経験し、7月末から9月にかけてはグリーン・デイ〈The Saviors Tour〉にランシドやスマッシング・パンプキンズと並んで帯同しているリンダ・リンダズ。この新作が彼女たちをまた大きくすることは疑いないだろう。
リンダ・リンダズの参加作品。
左から、スリーター・キニーのトリビュート盤『Dig Me In: A Dig Me Out Covers Album』(Many Hats)、パラモアの2023年作『Re: This Is Why』(Atlantic)、エリカ・ドーン・ライル&ヴァイス・クーパーの2024年作『Land Trust: Benefit For North East Farmers Of Color』(Get Better)、2024年のトリビュート盤『Everyone’s Getting Involved: A Tribute To Talking Heads’ Stop Making Sense』(A24)
左から、リンダ・リンダズの2022年作『Growing Up』(Epitaph)、ウィアード・アル・ヤンコヴィックの2023年のサントラ『Weird: The Al Yankovic Story』(Legacy)