天野龍太郎「Mikiki編集部の田中と天野が、海外シーンで発表された楽曲のなかから必聴のものを紹介する週刊連載〈Pop Style Now〉。今回は特別編として、年末恒例の年間ベストソングをランキング形式でお届けします!」
田中亮太「2021年、読者のみなさまはどんな音楽生活を送りましたか? 2020年以降の世界的なコロナ禍が続くなか、欧米ではノーマルな生活が戻りつつありましたが、オミクロン株の感染拡大によって以前の状況へ逆戻りしそう、というのが現状ですよね」
天野「一方、音楽シーンではいろいろなことがありました。10代の新たなスターが生まれ、英米以外から現れたバンドが脚光を浴び、あのK-Popグループやスペシャルなコラボユニットがヒットを飛ばし……。他にも女性アーティストの活躍やUKインディーロックシーンの活性化など、トピックは盛りだくさん。今回選んだ25曲は、そんな一年を象徴させたつもりです。僕としては、新作『Donda』のリリースにまつわるあれこれで、カニエ・ウェストに振り回されっぱなしだった一年、という印象なんですけどね(笑)」
田中「社会と政治の面でも、大きな動きがありました。昨年、〈PSN〉ではブラック・ライブズ・マターと音楽について話すことが多かったのですが、今年は欧米でアジア系へのヘイトクライムが増加し、音楽業界を巻き込んで〈ストップ・エイジアン・ヘイト(Stop Asian Hate)〉が大きなうねりに。また、アメリカでは大統領選挙がありましたよね。そういった世の中の動きが、このランキングには反映されていると思います」
天野「そうですね。それと、偉大な音楽家たちがこの世を去ったのも2021年でした。ローリング・ストーンズのチャーリー・ワッツ、リー・“スクラッチ”・ペリー、フィル・スペクター、ビズ・マーキー、チック・コリア、DMX、バニー・ウェイラー、スライ&ロビーのロビー・シェイクスピア、ソフィー、そして音楽の世界に深く関わっていたヴァージル・アブロー……。ヤング・ドルフとドレイコ・ザ・ルーラーという僕の好きなラッパーが命を奪われたことは、本当にショックでした」
田中「ダフト・パンクの突然の解散も大きなニュースでしたね。トラヴィス・スコットが主催する〈Astroworld Festival〉で将棋倒しが起こり、10名が亡くなった悲劇も忘れられない出来事です」
天野「さて。前置きはこれくらいにして、早速25位からいきましょう!」
25. Anz feat. George Riley “You Could Be”
田中「英マンチェスター出身のDJ/プロデューサー、アンツによる80年代風味のダンスポップでランキングをスタートさせましょう。ここ数年、アンダ―グラウンドなクラブシーンでフロアバンガーをドロップしてきたアンツだけに、チャーミングな魅力のあるこのポップソングには驚かされましたね」
天野「バウンシーなビート、そして西ロンドン出身のボーカリストであるジョージ・ライリーの伸びやかな歌声が混ざりあったこの曲を聴いていると、自然とウキウキしちゃいますね。UKではラジオヒットになっている、というのも納得です。この曲を収録したEP『All Hours』は、〈ある一日〉を舞台にした作品なのだとか。ジャングルやUKガラージ、レイヴといったジャンルを網羅していて、ダンスミュージックの歴史を6曲に詰め込んだかのような力作です。アンツは2021年、見事なステップアップを見せたアーティストでしたね!」
24. Rauw Alejandro “Todo De Ti”
天野「続いて、24位はラウ・アレハンドロの“Todo De Ti”。ラウ・アレハンドロはプエルトリコの新世代レゲトンシンガーですね。この曲は6月にリリースされたセカンドアルバム『Vice Versa』からのシングルで、TikTok史上3番目に多く再生された曲という記録を打ち立てたビッグヒット。アレハンドロはジェニファー・ロペスにフックアップされた“Cambia El Paso”も話題になりましたし、いまのラテンポップシーンにおける最注目株ですね」
田中「“Todo De Ti”はレゲトンではなくて、4つ打ちの80s風ダンスポップなんですよね。チープなシンセサイザーの音色とアレハンドロが歌う切ないメロディーが、なんとも癖になる。中毒性抜群のこの曲がラテンポップの枠を超えてヒットしたのは、一聴すれば納得できますね」
天野「初めて聴いたときは、〈チープすぎない?〉って思っちゃいました(笑)。世界に浸透しつつあるラテンポップの勢いを象徴しているのと同時に、レゲトンのスタイルに縛られていないところがラテンポップの変化を象徴している曲だと思います。ちなみに、〈todo de ti〉とはスペイン語で〈あなたのすべて〉という意味なんだとか」
23. Gang Of Youths “the angel of 8th ave.”
天野「オーストラリアの国民的ロックバンド、ギャング・オブ・ユーズ。彼らが4年ぶりの帰還を告げた“the angel of 8th ave.”を23位に選びました。カリズマティックなボーカルとダイナミックなバンドサウンドが胸を熱くさせるロックナンバーで、スタジアムで腕を突き上げながら合唱したいアンセムですね!」
田中「フロントマン、デヴィッド・ルオーペペ(David Le’aupepe)の節回しにはブルース・スプリングスティーン感がありますよね。思えば、ウォー・オン・ドラッグスやブリーチャーズ、サム・フェンダーなど、今年はスプリングスティーン感のあるロックが目立っていたような……。なお、この曲を収録したニューアルバム『angel in realtime』は、2022年2月25日(金)にリリース予定。アルバムタイトルにもちょっとボス感がありますね(笑)。ギャング・オブ・ユーズは最近アメリカのTV番組などに出演して精力的にパフォーマンスしていますし、来年、いよいよ世界的にブレイクしそうな気がします」
22. Tems “Crazy Tings”
天野「ラテンポップはもちろん、2021年はアフリカのポップミュージックも勢いが止まりませんでした。日本では南アフリカのハウス〈アマピアノ〉が流行りましたよね。僕が注目しているのはアフロビーツのシーンですが、印象的だったのはナイジェリア、ラゴス出身の新鋭シンガーであるテムズの活躍です。特に話題だったのは、ドレイクのアルバム『Certified Lover Boy』への参加ですよね。あれには驚かされました。それと、ウィズキッドとの共演曲“Essence”がグラミー賞にノミネートされたことも大きなトピックで、来年はさらに飛躍しそうですね」
田中「そんなテムズは2020年に『For Broken Ears』、そして今年9月に『If Orange Was A Place』とEPを2作リリースしています。この“Crazy Tings”は後者からのシングルで、アフロビーツのビートと艶めかしいベース&ギターが織りなす抑制されたグルーヴが実にドープ。それに、レゲエとR&B仕込みのテムズのディープなボーカルがとにかくセクシーです。愛情と裏切りの間で狂っていく感情を歌った歌詞もあいまって、聴いているとヒプノティックな渦に飲み込まれてしまいそうになる、すごく魅力的な曲ですよね」