天野龍太郎「Mikiki編集部の田中と天野が、海外シーンで発表された楽曲のなかから必聴のものを紹介する週刊連載〈Pop Style Now〉。今回は特別編として、年末恒例の年間ベストソングをランキング形式でお届けします!」
田中亮太「2021年、読者のみなさまはどんな音楽生活を送りましたか? 2020年以降の世界的なコロナ禍が続くなか、欧米ではノーマルな生活が戻りつつありましたが、オミクロン株の感染拡大によって以前の状況へ逆戻りしそう、というのが現状ですよね」
天野「一方、音楽シーンではいろいろなことがありました。10代の新たなスターが生まれ、英米以外から現れたバンドが脚光を浴び、あのK-Popグループやスペシャルなコラボユニットがヒットを飛ばし……。他にも女性アーティストの活躍やUKインディーロックシーンの活性化など、トピックは盛りだくさん。今回選んだ25曲は、そんな一年を象徴させたつもりです。僕としては、新作『Donda』のリリースにまつわるあれこれで、カニエ・ウェストに振り回されっぱなしだった一年、という印象なんですけどね(笑)」
田中「社会と政治の面でも、大きな動きがありました。昨年、〈PSN〉ではブラック・ライブズ・マターと音楽について話すことが多かったのですが、今年は欧米でアジア系へのヘイトクライムが増加し、音楽業界を巻き込んで〈ストップ・エイジアン・ヘイト(Stop Asian Hate)〉が大きなうねりに。また、アメリカでは大統領選挙がありましたよね。そういった世の中の動きが、このランキングには反映されていると思います」
天野「そうですね。それと、偉大な音楽家たちがこの世を去ったのも2021年でした。ローリング・ストーンズのチャーリー・ワッツ、リー・“スクラッチ”・ペリー、フィル・スペクター、ビズ・マーキー、チック・コリア、DMX、バニー・ウェイラー、スライ&ロビーのロビー・シェイクスピア、ソフィー、そして音楽の世界に深く関わっていたヴァージル・アブロー……。ヤング・ドルフとドレイコ・ザ・ルーラーという僕の好きなラッパーが命を奪われたことは、本当にショックでした」
田中「ダフト・パンクの突然の解散も大きなニュースでしたね。トラヴィス・スコットが主催する〈Astroworld Festival〉で将棋倒しが起こり、10名が亡くなった悲劇も忘れられない出来事です」
天野「さて。前置きはこれくらいにして、早速25位からいきましょう!」
25. Anz feat. George Riley “You Could Be”
田中「英マンチェスター出身のDJ/プロデューサー、アンツによる80年代風味のダンスポップでランキングをスタートさせましょう。ここ数年、アンダ―グラウンドなクラブシーンでフロアバンガーをドロップしてきたアンツだけに、チャーミングな魅力のあるこのポップソングには驚かされましたね」
天野「バウンシーなビート、そして西ロンドン出身のボーカリストであるジョージ・ライリーの伸びやかな歌声が混ざりあったこの曲を聴いていると、自然とウキウキしちゃいますね。UKではラジオヒットになっている、というのも納得です。この曲を収録したEP『All Hours』は、〈ある一日〉を舞台にした作品なのだとか。ジャングルやUKガラージ、レイヴといったジャンルを網羅していて、ダンスミュージックの歴史を6曲に詰め込んだかのような力作です。アンツは2021年、見事なステップアップを見せたアーティストでしたね!」
24. Rauw Alejandro “Todo De Ti”
天野「続いて、24位はラウ・アレハンドロの“Todo De Ti”。ラウ・アレハンドロはプエルトリコの新世代レゲトンシンガーですね。この曲は6月にリリースされたセカンドアルバム『Vice Versa』からのシングルで、TikTok史上3番目に多く再生された曲という記録を打ち立てたビッグヒット。アレハンドロはジェニファー・ロペスにフックアップされた“Cambia El Paso”も話題になりましたし、いまのラテンポップシーンにおける最注目株ですね」
田中「“Todo De Ti”はレゲトンではなくて、4つ打ちの80s風ダンスポップなんですよね。チープなシンセサイザーの音色とアレハンドロが歌う切ないメロディーが、なんとも癖になる。中毒性抜群のこの曲がラテンポップの枠を超えてヒットしたのは、一聴すれば納得できますね」
天野「初めて聴いたときは、〈チープすぎない?〉って思っちゃいました(笑)。世界に浸透しつつあるラテンポップの勢いを象徴しているのと同時に、レゲトンのスタイルに縛られていないところがラテンポップの変化を象徴している曲だと思います。ちなみに、〈todo de ti〉とはスペイン語で〈あなたのすべて〉という意味なんだとか」
23. Gang Of Youths “the angel of 8th ave.”
天野「オーストラリアの国民的ロックバンド、ギャング・オブ・ユーズ。彼らが4年ぶりの帰還を告げた“the angel of 8th ave.”を23位に選びました。カリズマティックなボーカルとダイナミックなバンドサウンドが胸を熱くさせるロックナンバーで、スタジアムで腕を突き上げながら合唱したいアンセムですね!」
田中「フロントマン、デヴィッド・ルオーペペ(David Le’aupepe)の節回しにはブルース・スプリングスティーン感がありますよね。思えば、ウォー・オン・ドラッグスやブリーチャーズ、サム・フェンダーなど、今年はスプリングスティーン感のあるロックが目立っていたような……。なお、この曲を収録したニューアルバム『angel in realtime』は、2022年2月25日(金)にリリース予定。アルバムタイトルにもちょっとボス感がありますね(笑)。ギャング・オブ・ユーズは最近アメリカのTV番組などに出演して精力的にパフォーマンスしていますし、来年、いよいよ世界的にブレイクしそうな気がします」
22. Tems “Crazy Tings”
天野「ラテンポップはもちろん、2021年はアフリカのポップミュージックも勢いが止まりませんでした。日本では南アフリカのハウス〈アマピアノ〉が流行りましたよね。僕が注目しているのはアフロビーツのシーンですが、印象的だったのはナイジェリア、ラゴス出身の新鋭シンガーであるテムズの活躍です。特に話題だったのは、ドレイクのアルバム『Certified Lover Boy』への参加ですよね。あれには驚かされました。それと、ウィズキッドとの共演曲“Essence”がグラミー賞にノミネートされたことも大きなトピックで、来年はさらに飛躍しそうですね」
田中「そんなテムズは2020年に『For Broken Ears』、そして今年9月に『If Orange Was A Place』とEPを2作リリースしています。この“Crazy Tings”は後者からのシングルで、アフロビーツのビートと艶めかしいベース&ギターが織りなす抑制されたグルーヴが実にドープ。それに、レゲエとR&B仕込みのテムズのディープなボーカルがとにかくセクシーです。愛情と裏切りの間で狂っていく感情を歌った歌詞もあいまって、聴いているとヒプノティックな渦に飲み込まれてしまいそうになる、すごく魅力的な曲ですよね」
21. Remi Wolf “Liquor Store”
田中「レミ・ウルフの今年の活躍は、痛快という言葉がぴったり。カリフォルニア出身のシンガー/プロデューサーである彼女は、ドミニク・ファイクとコラボレーションした“Photo ID”(2020年)を皮切りに、ゴキゲンなポップチューンをたくさん届けてくれました。彼女が新曲をリリースするたびに、天野くんとは〈今回もいいね〉とやりとりしていた気がします(笑)。10月にリリースしたファーストアルバム『Juno』も、期待を裏切らない良作でした」
天野「彼女の魅力は、90年代のグランド・ロイヤルなどをほうふつとさせるカラフルなストリート感を前面に出しつつ、プロダクションは現代的にアップデートされているところですよね。あと、見た目のポップさとは裏腹に、自身のメンタルヘルスの問題を率直に綴ったリリックには、この時代の若者ならではの切実さが覗いています。この曲は、アルコール依存症の苦しみとそこからの克服について歌われているんですよね」
20. Wet Leg “Chaise Longue”
田中「ポストパンク的というべきソリッドなギターサウンドがUKインディーの主流になってひさしいですが、今年もヤード・アクトやイングリッシュ・ティーチャーといったニューカマーがシーンを賑わせました。そのなかでも、ワイト島から現れたウェット・レッグは最注目の存在だと思います」
天野「最注目というか、もはや一人勝ち状態! 今月、早くもアメリカの人気TV番組『Late Night With Seth Meyers』に出演していましたよね。英国のインディーバンドとしては、異例の出世ペースです。この“Chaise Longue”は、デビューシングルにして彼女たちが成功を掴んだ一曲。ミニマルなビートとノイジーなギターに不機嫌さの漂う歌声を乗せて……と、要素はどれも目新しくはないのですが、この2人が歌うと不思議な魔法がかけられます。ユニークな歌詞も魅力で、新鋭サイト〈ORM〉が彼女たちにいち早くインタビューするなど、日本のインディーコミュニティーではもはやスター。待望のファーストアルバム『Wet Leg』は来年4月8日(金)にリリースされます!」
19. PinkPantheress “Pain”
天野「ピンクパンサレスも、今年ブレイクしたニューカマーですね。彼女は、90~2000年代の楽曲をサンプリングしたビートに自作のメロディーを乗せた動画をTikTokに投稿したことで注目を集めました。彼女はドラムンベースやディスコポップの有名曲を使うことが多いんですけど、この“Pain”はスウィート・フィメール・アティテュードによる2ステップの名曲“Flowers”(2000年)を下敷きにしています」
田中「“Flowers”は当時大好きだった曲で、12インチシングルを持っていましたよ! そんなシニアホイホイなネタの選び方も、幅広い世代を魅了している理由のひとつなのでしょうね。その一方で、1~2分台という曲の短さには、新世代ならではのセンスを感じます。この曲なんて1分過ぎからスクリューされて、さらにフェードアウトして終わるという潔さ。ちなみに、歌詞に〈La-la-la〉が多用されているのは、制作時に深刻な作詞スランプだったからなのだとか。それを割り切って完成させてしまうところが、かっこいいです。彼女は2022年、さらにシーンを盛り上げてくれそうな気がします!」
18. Sharon Van Etten & Angel Olsen “Like I Used To”
天野「18位にはシャロン・ヴァン・エッテンとエンジェル・オルセンのコラボ曲“Like I Used To”を選びました。現在のUSインディーシーンの顔というべき2人の女性シンガーソングライターによる夢の共演曲で、女性アーティストの活躍や女性たちの連帯がキーワードだった2021年を象徴する曲ですね。じっくりと聴かせる曲でありながらも、なだらかに高揚していくメロディーが素晴らしい。プロデュースを担ったジョン・コングルトン(John Congleton)によるメリハリの利いたプロダクションも見事です」
田中「フィル・スペクター風のウォールオブサウンドを下敷きにしつつ、随所でキラキラとした音色のシンセやエレクトロニクスが差し込まれていて、モダンなサウンドに仕上がっていますよね。〈かつて私がしたように〉とアイデンティティーの再生を歌ったリリックもいいですし、先の見えない時代において、不安を抱えるリスナーにとっての光明になった曲ではないでしょうか」
17. Arlo Parks “Hope”
天野「〈PSN〉が以前から推していたサウスロンドンのシンガーソングライター、アーロ・パークス。彼女の“Hope”は、今年屈指の感動的な曲でした。〈あなたはあなたが考えるほど孤独じゃない/わたしたちはみんな傷を負っている、辛さはわかる〉と傷ついた者にそっと寄り添う、パークスのエンパシーが表現された、ただただ優しいソウルナンバーです」
田中「アーロ・パークスのデビュー・アルバム『Collapsed In Sunbeams』は高く評価されていて、海外メディアの年間ベストの多くで選ばれていますよね。バイセクシュアルである自身の性的指向について率直に歌い、LGBTQ+コミュニティーやメンタルヘルスに問題を抱える若者たちの支えになっているパークスは、音楽的にも社会的にも重要な存在だと思います」
16. Dry Cleaning “Scratchcard Lanyard”
天野「2021年の最大のトピックのひとつはUKロックシーンの盛り上がりですが、これは今年に限らず、ここ数年の潮流なので、説明不要かもしれません。今年もブラック・カントリー・ニュー・ロードやスクイッドのデビューアルバム、ブラック・ミディやゴート・ガールの2作目など、とにかく話題作が尽きませんでした。そのなかでも鮮烈だったのが、ドライ・クリーニングの登場ですよね」
田中「彼女たちの最大の魅力は、フロントウーマンのフローレンス・ショウ(Florence Shaw)の存在です。まるでポエトリーリーディングのような不遜で不機嫌なボーカル、そしてショウが書くイマジネーション豊かでシュールレアリスティックな歌詞は、他のどのバンドにもない個性ですよね」
天野「この“Scratchcard Lanyard”には〈すべてをやって、何も感じないで(Do everything and feel nothing)〉など、鋭いキラーフレーズがたくさんありますよね。また、ミニマルなバンドアンサンブルも聴きどころで、ジョイ・ディヴィジョンやソニック・ユースを思わせるソリッドでダークなポストパンク/オルタナティブロックサウンドがとにかくクール。そんなドライ・クリーニングのチャームが凝縮されているのが、この曲だと思います。彼女たちのデビューアルバム『New Long Leg』は、今年を象徴するロックレコードでしょう!」
15. Snail Mail “Valentine”
天野「ジュリアン・ベイカーやクレイロ、ルーシー・デイカス、ケイティ・カービー、フェイ・ウェブスターなどなど、インディーロックシーンでは女性シンガーソングライターたちが多数活躍して、充実した作品を発表したのが今年のトピックだと言えます。なかでも、スネイル・メイルのこの曲は光っていましたね。セカンドアルバム『Valentine』のタイトルソングです」
田中「以前よりも深みを増した歌声と分厚くリッチになったロックサウンドが、スネイル・メイルの変化を物語っていますね。〈さあ、2人きりになろう/誰にも知られない場所へ、ハニー〉という歌い出しから、愛の喪失を激しく歌い上げる〈どうして私を消し去ろうとするの、ダーリンバレンタイン?/心変わりをするまで、あなたは私がどこにいるのかをいつも知っていた〉というコーラス(サビ)へと急激に変化していく、告白的な歌詞が強烈です。身を削るような痛みを伴った表現で、シンガーソングライターとしての成熟を物語っている力強い曲ですね」
14. Baby Keem feat. Kendrick Lamar “family ties”
天野「14位は、ベイビー・キームの素晴らしいデビュー・アルバム『The Melodic Blue』からのシングル“family ties”です。ケンドリック・ラマーの従兄弟で、LAのカーソン出身のベイビー・キームは、弱冠21歳の才能あふれるラッパー。“family ties”は、ケンドリックとキームという2人のリリシストぶりと高いラップスキルが表れた、見事で鮮烈な曲だと思いますね」
田中「表舞台から姿を消していたケンドリック・ラマーが帰還を告げた曲としても重要ですよね。〈俺はパンデミックを避け、ソーシャルなからくりから逃れていた/にわかアクティビストとなんか付き合わない/俺はトレンドの話題じゃない〉と、ケンドリックは心情を吐露しています」
天野「コーラスがなくバースが延々と続く構成や、ビートスウィッチを繰り返すダークなトラップビート、そしてキームとケンドリックの〈家族の絆〉を感じさせるタイトルなど、あらゆるポイントが最高。2021年を語るうえで、すごく重要な曲です!」
13. Doja Cat feat. SZA “Kiss Me More”
天野「昨年“Say So”を大ヒットさせたドージャ・キャットが、SZAをフィーチャーした“Kiss Me More”。ドージャ・キャットのアルバム『Planet Her』に収録されています。SZAは、“Good Days”や“I Hate U”のヒットで今年を代表するR&Bシンガーでしたね。そんな2人の共演曲ということで話題になり、当然のようにヒットしました」
田中「キラキラとしたギターのカッティングとスムーズかつセクシーなディスコビートがたまりませんよね。オリビア・ニュートン・ジョンの名曲“Physical”(81年)を下敷きにしたところがまず最高で、かといって焼き直しになってはおらず、ちゃんとコンテンポラリーな曲になっている。ドージャ・キャットの甘い歌声とSZAの存在感のあるボーカルのコントラストも見事ですし、文句のつけようがないポップナンバーだと思います!」
12. BTS “Butter”
天野「今年もBTSの勢いは止まりませんでしたね! “Dynamite”(2020年)に続いてリリースされた、彼らにとって2曲目の英語詞のシングル“Butter”が12位です。このあたりになってくると、実質的にはトップ10入りしているようなものですね(笑)」
田中「問答無用に最高、最強のポップソングですよね。パワフルなビートとファットなベースラインを中心に据えたトラックがまずかっこよすぎますし、2つのバースとコーラスはすべてにおいて無駄がない。あと、僕はこの曲を聴いて、7人のボーカリストとしてのさらなる成長を感じたんですよ。各パートはすごく短いんだけど、どこを切り取ってもメンバーの個性や魅力が詰まっているので」
天野「〈バターのように君の心に染み込んでいく〉というリリックに、彼らの〈僕たちこそがいまのシーンにおけるポップスターだ〉という自信や自負が窺えますよね。政治的な観点からは、黄色人種のメタファーとしてバターを使ったことが巧みだと感じますし、含みがありますよね。現在は長期休暇中のBTSですが、復帰後の活動が楽しみです」
11. aespa 에스파 “Savage”
天野「11位は次世代K-Popグループ、aespaの“Savage”です」
田中「5月にリリースしたシングル“Next Level”が話題になり、10月にファーストミニアルバム『Savage』を発表。アバターなどを使った独特のサイバーな世界と洗練された音楽性、歌・ラップ・ダンスの確かな実力で人々を魅了している4人組ですね」
天野「BLACK PINKやRed Velvetなどに続いて人気になりそうな、いまノリにノっているグループです。ミニアルバムの表題曲であるこの曲は、鋭く尖った金属的なヒップホップサウンドと4人の変幻自在なボーカルワークが最高。そして、何度も繰り返される〈Gimme gimme now〉〈Zu zu zu zu〉というフレーズが中毒性抜群! 今年はaespaと出会えてよかったな~」
10. Måneskin “ZITTI E BUONI”
天野「イタリア、ローマの4人組マネスキンは、問答無用で今年を代表するバンドの一組でしょう! 5月に〈ユーロビジョン・ソング・コンテスト〉で優勝してスターになった彼らと出会ってからというもの、僕は夢中になっていますよ。イギー・ポップとの共演を果たし、ローリング・ストーンズのツアーの前座を務めるなど、今年世界的なロックバンドにのぼり詰めたのがマネスキンです」
田中「“I WANNA BE YOUR SLAVE”や、リバイバルヒットした“Beggin’”(2017年)など、複数のヒットソングを放ったマネスキンですが、やっぱり彼らが脚光を浴びたこの“ZITTI E BUONI”こそが今年を代表する曲ですよね。2000年代のロックンロールを思い出させるギターリフ中心のロックアンサンブル、ファットでヘビーなビート、そしてダミアーノ・デイヴィッド(Damiano David)のセクシーなイタリア語の歌と、どれを取ってもかっこいい、文句なしのアンセムです! それと、このマネスキンや24位のギャング・オブ・ユーズのように、英米以外のロックバンドの活躍も今年のトピックのひとつでしたね」
9. Cassandra Jenkins “Hard Drive”
天野「15位のスネイル・メイル“Valentine”についても言いましたが、2021年は女性アーティストが大活躍した年だったと思いますし、ここまでのランキングにはそれが表れていますよね。アメリカ/カナダのインディーロックシーンのなかでも、上半期のベストソングに選んだウェザー・ステーションと並んで僕が好きだったのが、このカサンドラ・ジェンキンズです。彼女の“Hard Drive”は、2021年屈指の名曲だと思います」
田中「NYCのシンガーソングライターであるカサンドラ・ジェンキンズは、2月にリリースしたアルバム『An Overview On Phenomenal Nature』が高く評価されましたね。“Hard Drive”は同作からのシングルで、生々しいボイスメモの引用から始まり、ジェンキンズのスポークンワードとささやくような歌、さらにサックスやギターが鳴らされる、ジョシュ・カウフマン(Josh Kaufman)によるドリーミーなプロダクションが素晴らしい曲です」
天野「ジェンキンズの実体験を元にしたであろうリリックが、また最高なんですよね。警備員やドライビングインストラクターといった市井の人々がたくさん登場する、リアルなストーリーテリングに魅了されました」
8. Self Esteem “I Do This All The Time”
田中「セルフ・エスティームは、このランキングで選んだアーティストのなかでも、日本と海外での知名度にもっとも差のあるミュージシャンかもしれません。スロウ・クラブの元メンバー、レベッカ・ルーシー・テイラー(Rebecca Lucy Taylor)によるソロプロジェクトは、本国イギリスにおいて今年最大のブレイクを果たしたアーティストでした。この“I Do This All The Time”は、彼女のセカンドアルバム『Prioritise Pleasure』からのリードシングルです。発表当初からBBCなどのラジオ局でかかりまくっていたし、UKにおける〈今年の一曲〉はこれだと思いますね」
天野「そして、年間ベストを選ぶにあたって、亮太さんが激推しした曲です(笑)。たしかにいい曲だと思うのですが、どのあたりが英国の人々の心に刺さったのでしょうか?」
田中「基本的な構造としては、簡素なブレイクビーツの上で、日々考えている〈私ってこういう人間だからさ……〉という独白を徒然なるままにポエトリーリーディング調で歌っていくだけの曲なのですが、ゴスペルコーラスや流麗なストリングスが徐々に重ねられていくことで、ものすごくエモーショナルに昂っていくんですよ。なので、終盤になると、この曲が、〈私はこう生きていく〉というすごくポジティブなメッセージとして響く。ウィットに富んでいて、でも最後には聴き手をめちゃくちゃ感動させる……。これはイギリス人が好きだろうなと思います。イギリスの音楽が好きな人であれば、今年聴き逃してはいけない曲です!」
7. The Linda Lindas “Racist, Sexist Boy (Live At LA Public Library)”
天野「10代半ばの4人が鳴らした、レイシズムとセクシズムにノーを突き付けるパンクソング! リンダ・リンダズの“Racist, Sexist Boy”は、今年の話題をかっさらった曲です。このLA公共図書館でのパフォーマンスを初めて観たときの興奮は、まだ冷めませんね」
田中「Rolling Stoneのインタビューで、ギタリスト/ボーカリストのルシア・デ・ラ・ガルザ(Lucia De La Garza)は『どんなことでも曲にしていい、曲に出来るんだとパンクが教えてくれた』と語っていました。その言葉のとおり、この曲は、彼女たちが実際に体験したアジア系差別への怒りがテーマ。ヘビーなパンクサウンドに乗せて、人種差別主義者で性差別主義者の男子に向けて〈頭が悪くて最悪なやつ!〉と吐き捨てています」
天野「この曲が話題になったのは5月ですが、それ以降も、米国での人種差別に基づくヘイトクライムは減っていないようです。ここ日本でも、レイシズムは長らく大きな問題ですよね。それを乗り越えるために僕たちは考え方を変えていかなければいけないし、法律やアーキテクチャーを変えていくことは喫緊の政治的な課題です。世の中から差別や排除が少しでもなくなるように、僕たちは自分たちの言葉でそれを語っていかないといけない――そんなことを、改めて教えてくれた曲でした」
6. Silk Sonic “Leave The Door Open”
天野「2021年を象徴するポップアクトといえば、彼らしかいないと思うんですよね。ブルーノ・マーズとアンダーソン・パークという現代のソウル/R&Bシーンを代表する2人がタッグを組んだシルク・ソニックです。彼らのデビュー・シングル“Leave The Door Open”は今年を代表するヒットソングですし、説明不要でしょう! この曲を聴くと、スウィートなメロディーに思わず涙腺が緩んじゃいます」
田中「60~70年代のスウィートソウルを思わせる、アナログでヴィンテージな激甘ソウルナンバーですよね。きっと、アメリカ人の琴線に触れる旋律とサウンドなのでしょう。それに、2人の伸びやかな歌が本当に素晴らしい。また、愛しい恋人に歌いかける〈ドアを開けておくよ〉と歌うリリックは、分断と対立の時代において特別な意味を帯びています。待ちに待ったアルバム『An Evening With Silk Sonic』もついにリリースされましたし、シルク・ソニックは2021年を通して話題を提供しつづけたデュオだったと思います」
5. Olivia Rodrigo “good 4 u”
田中「ついに5位です。2021年を象徴するポップアイコンであり最大のライジングスター、オリヴィア・ロドリゴの“good 4 u”! って、〈上半期のベストソングで1位にした“drivers license”はどこへいったんだ!?〉というツッコミがきそうですけど……」
天野「もちろん“drivers license”は今年を代表する曲ですし、失恋を歌ったバラードとしては名曲と言っていいと思います。でも、その後の受容のされ方やサウンドを踏まえて検討したときに、この“good 4 u”のほうが2021年のポップシーンを象徴していると思うんですね。やっぱり、今年の潮流として、ポップパンク/メロディックパンクリバイバルは見逃せないわけです」
田中「なるほど。エモラップ勢がポップパンク的なサウンドやファッションを取り入れたり、ヤングブラッドやマシン・ガン・ケリーが人気を博したりと、近年、その気運は高まっていましたが、今年はいよいよメインストリームで爆発しましたよね。ウィローがブリンク182のトラヴィス・バーカーとコラボした“t r a n s p a r e n t s o u l”がヒットしたことも重要でした」
天野「トラヴィス・バーカーは、確実に今年のキーパーソンですね。あと、アヴリル・ラヴィーンがひさしぶりにパンキッシュなシングル“Bite Me”をリリースしたことも記憶に新しい。“good 4 u”はそういうトレンドの象徴だと言えますし、その意味で超重要曲なんです。ただ、ちゃんと聴くと、そんなにポップパンクっぽい音色やプロダクションじゃないですけどね(笑)。それはさておき、パラモアのヘイリー・ウィリアムズ(Hayley Williams)がソングライティングに関わっていることもあって、シンプルにロックナンバーとして最高です!」
4. Tyler, The Creator “LUMBERJACK”
天野「タイラー・ザ・クリエイターのアルバム『CALL ME IF YOU GET LOST』は、今年のベストアルバムのひとつですよね」
田中「タイラーがラップに立ち返り、DJドラマのプロデューサータグが全編に配され、ミックステープ仕立てでまとめられた、めくるめくヒップホップアルバムでした。同作からのシングルとしてこの“LUMBERJACK”が突然リリースされたときは、びっくりしたことを覚えています。前作『IGOR』(2019年)のポップ路線から打って変わって、〈クラシック・タイラー〉な初期の作風を思わせるスタイルになっていたので」
天野「アルバムが素晴らしかっただけに一曲を選ぶのが難しかったのですが、2021年を語るうえでタイラーを無視するわけにはいかず、そうなるとやっぱりこの曲かなと思ったんです。リリックは、グラミー賞を勝ち得たことなどセルフボースティングを中心にしたものですが、いまのタイラーがラップすると説得力がありますよね。バックスピンやダーティーなブレイクビーツでまとめ上げたダークなヒップホップサウンドは、まさにタイラーらしさとヒップホップらしさの融合。ドープで強烈だけど、1分ちょっとで終わってしまう鮮烈さも印象的でした」
3. Japanese Breakfast “Be Sweet”
天野「いよいよトップ3! 〈PSN〉は、ジャパニーズ・ブレックファストの“Be Sweet”を3位に選びました。もともとインディーシーンでは確固たる支持を得ていたジャパニーズ・ブレックファストですが、今年のアルバム『Jubilee』でポップな才能を開花させ、より高い強度の作品を作り上げて、大きなフィールドの上に立った印象です」
田中「アルバムのなかでもこの“Be Sweet”は、とびきりキャッチーでポップ。きらびやかなギターのカッティングにクールなディスコビートが魅力的なダンスポップです。ワイルド・ナッシングのジャック・テイタム(Jack Tatum)と一緒に制作された曲ですが、テイタムのいい仕事っぷりも際立っています。サウンドはいつものワイルド・ナッシング節を磨き上げたものですが、ミシェル・ザウナー(Michelle Zauner)のコケティッシュな歌声と合わさることで、すごく中毒性の高い曲になっていると思います」
天野「ミシェルは今年、韓国系アメリカ人の視点から母との関係性やその死を綴った初の著書『Crying In H Mart』を刊行したんですよね。この本はアメリカで絶賛されていて、映画化が決定、さらにバラク・オバマが選ぶ2021年のお気に入りリストにも選出されました。邦訳されるのを待っています!」
2. Little Simz “Introvert”
田中「リトル・シムズが今年リリースした4作目『Sometimes I Might Be Introvert』は、このラッパーの評価をさらに高めた傑作でした。タイトルからもわかるとおり〈introvert=内向的〉な自身の内面を掘り下げつつ、人種差別や女性の貧困といった現代のイシューに言及したポリティカルな側面も持ったアルバムです。プロデュースを担ったインフロー(Inflo)による、オーガニックな生楽器の音を活かしながらも、緊張感を持続させたサウンドも聴き応え十分ですよね」
天野「インフローは自身のバンド、ソー(Sault)でも注目を集めました。リトル・シムズ以外にクレオ・ソルやアデルの新作にも貢献していて、一年を通して大活躍したプロデューサーです。そんな彼が手がけたこの“Introvert”は、勇壮なファンファーレとストリングス、マーチングドラムを重ねたイントロにまず耳を奪われます」
田中「一曲を通して勇猛なムードを保っていますが、ギターのアルペジオやピアノの音はメランコリアを醸し出していますよね。黒人女性が置かれている状況への怒り、同胞に向けた慈しみ、さらに人種を越えた連帯への願い……と、さまざまなエモーションを組み込んだリリックと、しっかりと並走している見事なアレンジだと思います。6分と長めの曲ですが、じっくりと歌詞を読みながら聴いてほしいです」
1. Lil Nas X “MONTERO (Call Me By Your Name)”
Song Of The Year
天野「〈Song Of The Year〉はリル・ナズ・X“MONTERO (Call Me By Your Name)”です! 実は、リル・ナズ・Xの曲は、上半期のベストソングでスルーしてしまっていました。ただ、大きな話題になった“INDUSTRY BABY”のミュージックビデオを含めて、2021年を代表するポップスターは彼しかいないし、そんな彼のもっともパワフルな曲はこれしかないなって思ったんですね」
田中「2019年、TikTokなどを介して大ヒットしたカントリーラップナンバー“Old Town Road”で成功を掴んだリル・ナズ・Xは、同年にゲイであることをカミングアウトしました。その後、コロナ禍における内省を経て、自身のセクシュアリティー、クィアネスを前面に出した表現をするようになり、アーティストとして大きな変化を迎えたのが今年のリル・ナズ・Xでしたね」
天野「そうやってクィアネスを肯定してめちゃくちゃポップに打ち出してたことこそが、リル・ナズ・Xを〈2021年の顔〉と呼ぶのにふさわしい理由だと思っているんです。この曲の副題〈Call Me By Your Name〉は、少年と青年の一夏限りの恋を描いた映画『君の名前で僕を呼んで』(2017年)に由来していますしね。“MONTERO”はすごくセクシュアルなラブソングですが、もちろん同時にキャッチーでもあって、Billboard Hot 100ですぐさま1位を獲得しました」
田中「相棒のテイク・ア・デイ・トリップ(Take A Daytrip)と作り上げたラテンポップっぽいベースヘビーなビートや独特のメロディーが癖になりますよね。ちょっと笑っちゃうような神話的なイメージを用いたビジュアルの面でも〈リル・ナズ・Xの世界〉を築き上げていて、非の打ち所がないと思います」
天野「黒人でありゲイである、という二重のマイノリティー性をポップソングに昇華させて、シーンを塗り替えた今年のリル・ナズ・Xは、本当に素晴らしかったと思います。〈今年の一曲〉は、彼の“MONTERO”をおいて他にないでしょう!」