天野龍太郎「Mikiki編集部の田中と天野が、海外シーンで発表された楽曲から必聴のものを紹介する週刊連載〈Pop Style Now〉。ちょっと遅くなってしまいましたが、今回お送りするのは2021年上半期のベスト・ソング20です。この半年間の音楽シーンでは、いろいろなことがありましたよね」

田中亮太「主にアメリカでのアジア系差別問題の深刻化と、それに対するミュージシャンたちのレスポンス。このランキングでは、その動きを象徴する楽曲も選んでいます。パンデミックが人々の分断を深刻化させる一方で、世界的にワクチン接種が進んでいて、特にアメリカではツアーやフェスティヴァルの開催予定がガンガン発表されていますね」

天野「そんな2021年のシーンを、20曲で幅広く見渡しました。インディー・ロックの楽曲、ポップスターの豪華なコラボレーション・ソング、英米外から現れた上半期を象徴するロック・バンドのヒット・ナンバー、MVPと呼びたいライジング・スターの決定的な一曲……。ヒップホップからあまり選べなかったことが悔やまれます。ただ、インディーもメジャーも、ロック・バンドの活躍が目立った半年間だったと感じていて、それはこのランキングにも表れていますね」

田中「そして、やっぱり女性アーティストたちが優れた作品をたくさん発表しました。2021年のムードが、この20曲から伝わればと思います」


 

20. Conway The Machine feat. JID & Ludacris “Scatter Brain”


田中「まずは20位です。コンウェイ・ザ・マシーンがリュダクリスとJIDをフィーチャーした“Scatter Brain”。コンウェイの兄弟であるウェストサイド・ガンが設立した米NYのコレクティヴ〈グリゼルダ(Griselda)〉は、最近ものすごく注目されていますよね。従弟のベニー・ザ・ブッチャーも活躍中。タイラー・ザ・クリエイターが新作『CALL ME IF YOU GET LOST』でラップしまくっているのも、ウェストサイド・ガンからインスパイアされたからだと明かしています。そんなグリゼルダの勢いを象徴するのが、この曲でしょう」

天野コンウェイの新作『La Maquina』からのシングルで、キュービーツ(CuBeatz)とドン・カノン(Don Cannon)による怪しげでダークなビートがクールです。〈ラップ・ゲームの喉に手を回す/俺はボア・コンストリクター(大蛇)、俺には魂がない〉とおそろし気にラップするコンウェイの自信は、伊達じゃありません」

 

19. Self Esteem “I Do This All The Time”


天野「これは、連載では取り上げなかった楽曲ですね。セルフ・エスティームの“I Do This All The Time”。亮太さんが強く推した曲です。セルフ・エスティームことレベッカ・ルーシー・テイラー(Rebecca Lucy Taylor)は、2000年代半ばに人気を博したバンド、スロウ・クラブのメンバーなんですよね」

田中「そうなんです。彼女たちの“It Doesn‘t Have To Be Beautiful”(2009年)はインディー・クラブのヒット曲になりました。この“I Do This All The Time”は、セルフ・エスティームとしてリリースしたファースト・アルバム『Compliments  Please』(2019年)以来のシングル。ゆったりとしたリズムに語り口調のヴォーカルが乗るシンプルな序盤を経て、次第にゴスペル・コーラスやストリングスが重なっていきます。彼女は〈人間の複雑さや矛盾を音楽で表現したい〉と話していて、この曲も内省と高揚、端正さと荒々しさというような二面性を持っているのがすごくいいなと。セルフ・エスティームには今後も要注目です!」

 

18. Emma-Jean Thackray “Say Something”


天野「エマ・ジーン・サックレイは、UKジャズ・シーンで注目を集めるマルチ奏者/プロデューサー。シャバカ・ハッチングスやモーゼス・ボイドらサウス・ロンドンの新世代と共演しながら、宅録作家的なところがあって、彼らとは異なる文脈を出自に持つおもしろい才能です。スクイッドのファースト・アルバム『Bright Green Field』にも参加していましたね。そんなサックレイは、7月にデビュー・アルバム『Yellow』をリリースしました。この曲は、同作からのリード・シングルです」

田中「跳ねたビート、管楽器を絡めたアレンジが、心地よい高揚感を聴き手に喚起するグッド・ナンバーですね! 『Yellow』のレビューでbounce編集長の出嶌孝次さんが〈ユビキティ的〉と書いていて、〈まさに!〉と思いました。洒脱だけど独特の濃さを持つサウンドは、たしかに90~2000年代前半のジャジー・グルーヴやディープ・ハウスっぽい。そういったサウンドのルーツのひとつでもあるブリット・ファンクを想起させるところもあります。STR4TAの登場もありましたし、いま90年代のジャジー・グルーヴが再評価されているのかも」

 

17. Fred again.. feat. The Blessed Madonna “Marea (We’ve Lost Dancing)”


天野「17位はフレッド・アゲインとブレスド・マドンナによる“Marea (We’ve Lost Dancing)”。英米ダンス・ミュージック・シーンにおける最注目の若手DJ/プロデューサーがタッグを組んだ、めちゃくちゃアツい曲ですね。この曲を収録したフレッド・アゲインのアルバム『Actual Life (April 14 – December 17 2020)』も最高でした」

田中「この曲は、タイトルからもわかるとおり、パンデミックによってダンスする機会を失ったことへの嘆きや、ダンスフロアへの思慕を表したハウス・トラックです。まさに、2021年の空気を反映した楽曲ですね。なお、イギリスでは、7月19日から長く閉鎖を余儀なくされていたナイト・クラブが再オープンしました。多くのダンス・ラヴァーが喜びの声を上げている一方で、新型コロナウイルスのデルタ株への感染者数が増すなかでの営業については議論が巻き起こっている模様。まだ先行きは見えませんが、クラブ・カルチャーの明るい未来を願っています!」