天野龍太郎「Mikiki編集部の田中と天野が、海外シーンで発表された楽曲から必聴のものを紹介する週刊連載〈Pop Style Now〉。ちょっと遅くなってしまいましたが、今回お送りするのは2021年上半期のベスト・ソング20です。この半年間の音楽シーンでは、いろいろなことがありましたよね」

田中亮太「主にアメリカでのアジア系差別問題の深刻化と、それに対するミュージシャンたちのレスポンス。このランキングでは、その動きを象徴する楽曲も選んでいます。パンデミックが人々の分断を深刻化させる一方で、世界的にワクチン接種が進んでいて、特にアメリカではツアーやフェスティヴァルの開催予定がガンガン発表されていますね」

天野「そんな2021年のシーンを、20曲で幅広く見渡しました。インディー・ロックの楽曲、ポップスターの豪華なコラボレーション・ソング、英米外から現れた上半期を象徴するロック・バンドのヒット・ナンバー、MVPと呼びたいライジング・スターの決定的な一曲……。ヒップホップからあまり選べなかったことが悔やまれます。ただ、インディーもメジャーも、ロック・バンドの活躍が目立った半年間だったと感じていて、それはこのランキングにも表れていますね」

田中「そして、やっぱり女性アーティストたちが優れた作品をたくさん発表しました。2021年のムードが、この20曲から伝わればと思います」


 

20. Conway The Machine feat. JID & Ludacris “Scatter Brain”


田中「まずは20位です。コンウェイ・ザ・マシーンがリュダクリスとJIDをフィーチャーした“Scatter Brain”。コンウェイの兄弟であるウェストサイド・ガンが設立した米NYのコレクティヴ〈グリゼルダ(Griselda)〉は、最近ものすごく注目されていますよね。従弟のベニー・ザ・ブッチャーも活躍中。タイラー・ザ・クリエイターが新作『CALL ME IF YOU GET LOST』でラップしまくっているのも、ウェストサイド・ガンからインスパイアされたからだと明かしています。そんなグリゼルダの勢いを象徴するのが、この曲でしょう」

天野「コンウェイの新作『La Maquina』からのシングルで、キュービーツ(CuBeatz)とドン・カノン(Don Cannon)による怪しげでダークなビートがクールです。〈ラップ・ゲームの喉に手を回す/俺はボア・コンストリクター(大蛇)、俺には魂がない〉とおそろし気にラップするコンウェイの自信は、伊達じゃありません」

 

19. Self Esteem “I Do This All The Time”


天野「これは、連載では取り上げなかった楽曲ですね。セルフ・エスティームの“I Do This All The Time”。亮太さんが強く推した曲です。セルフ・エスティームことレベッカ・ルーシー・テイラー(Rebecca Lucy Taylor)は、2000年代半ばに人気を博したバンド、スロウ・クラブのメンバーなんですよね」

田中「そうなんです。彼女たちの“It Doesn‘t Have To Be Beautiful”(2009年)はインディー・クラブのヒット曲になりました。この“I Do This All The Time”は、セルフ・エスティームとしてリリースしたファースト・アルバム『Compliments  Please』(2019年)以来のシングル。ゆったりとしたリズムに語り口調のヴォーカルが乗るシンプルな序盤を経て、次第にゴスペル・コーラスやストリングスが重なっていきます。彼女は〈人間の複雑さや矛盾を音楽で表現したい〉と話していて、この曲も内省と高揚、端正さと荒々しさというような二面性を持っているのがすごくいいなと。セルフ・エスティームには今後も要注目です!」

 

18. Emma-Jean Thackray “Say Something”


天野「エマ・ジーン・サックレイは、UKジャズ・シーンで注目を集めるマルチ奏者/プロデューサー。シャバカ・ハッチングスやモーゼス・ボイドらサウス・ロンドンの新世代と共演しながら、宅録作家的なところがあって、彼らとは異なる文脈を出自に持つおもしろい才能です。スクイッドのファースト・アルバム『Bright Green Field』にも参加していましたね。そんなサックレイは、7月にデビュー・アルバム『Yellow』をリリースしました。この曲は、同作からのリード・シングルです」

田中「跳ねたビート、管楽器を絡めたアレンジが、心地よい高揚感を聴き手に喚起するグッド・ナンバーですね! 『Yellow』のレビューでbounce編集長の出嶌孝次さんが〈ユビキティ的〉と書いていて、〈まさに!〉と思いました。洒脱だけど独特の濃さを持つサウンドは、たしかに90~2000年代前半のジャジー・グルーヴやディープ・ハウスっぽい。そういったサウンドのルーツのひとつでもあるブリット・ファンクを想起させるところもあります。STR4TAの登場もありましたし、いま90年代のジャジー・グルーヴが再評価されているのかも」

 

17. Fred again.. feat. The Blessed Madonna “Marea (We’ve Lost Dancing)”


天野「17位はフレッド・アゲインとブレスド・マドンナによる“Marea (We’ve Lost Dancing)”。英米ダンス・ミュージック・シーンにおける最注目の若手DJ/プロデューサーがタッグを組んだ、めちゃくちゃアツい曲ですね。この曲を収録したフレッド・アゲインのアルバム『Actual Life (April 14 – December 17 2020)』も最高でした」

田中「この曲は、タイトルからもわかるとおり、パンデミックによってダンスする機会を失ったことへの嘆きや、ダンスフロアへの思慕を表したハウス・トラックです。まさに、2021年の空気を反映した楽曲ですね。なお、イギリスでは、7月19日から長く閉鎖を余儀なくされていたナイト・クラブが再オープンしました。多くのダンス・ラヴァーが喜びの声を上げている一方で、新型コロナウイルスのデルタ株への感染者数が増すなかでの営業については議論が巻き起こっている模様。まだ先行きは見えませんが、クラブ・カルチャーの明るい未来を願っています!」

 

16. illuminati hotties “MMMOOOAAAAAYAYA”


田中「サラ・タディン(Sarah Tudzin)を中心としたカリフォルニアのパンク・バンド、イルミナティ・ホティーズ。彼女たちの“MMMOOOAAAAAYAY”は、切れ味の鋭いギターと弾んだビート、さらにキャッチーなコーラスが最高なパンク・ソングです。この曲は、タディンがホープレス・レコーズ傘下に立ち上げた新レーベル、スナック・シャック・トラックス(Snack Shack Tracks)からリリースされています。彼女は、以前契約していたレーベルのタイニー・エンジン(Tiny Engines)との間にトラブルがあったのですが、その詳細については、この次にリリースされた“Pool Hopping”を取り上げた2011年6月11日の〈PSN〉をご覧ください」

天野「この曲、ディアンジェロの“Untitled (How Does It Feel)”(2000年)のミュージック・ビデオへのオマージュを思いっきりやっているMVもいいんですよね。半裸のディアンジェロを艶めかしく映した“Untitled (How Does It Feel)”はもともとかなり議論を呼んだビデオで、“MMMOOOAAAAAYAY”のビデオではそれを逆手に取って、女性であるがタディンが普段向けられているセクシャルな眼差しを茶化したものになっている。切れ味の鋭いユーモアは、まさに彼女が掲げる〈Tender Punk〉!」

 

15. Lucy Dacus “Hot & Heavy”


田中「15位は、リッチモンド出身のシンガー・ソングライターであるルーシー・デイカスの“Hot & Heavy”。フィービー・ブリジャーズ、ジュリアン・ベイカーとのボーイジーニアスでの活動でも知られています。彼女が6月末にリリースしばかりの傑作『Home Video』からのシングルのなかでも、突き抜けてポップなのがこの曲です」

天野「まるでブルース・スプリングスティーンのようなバンド・サウンドが力強いですよね。ルーシーの最大の魅力のひとつである歌詞も素晴らしくて、〈あなたの両親の家の地下でのホット&ヘヴィー〉とセンシュアルなイメージを喚起しつつ、〈あなたはスウィートだった/いまは群衆のなかの爆竹のよう/目を逸らそうとしてもできない/離れようとしてもスタートに戻ってくる〉と痛みに満ちた過去に囚われていることを歌い上げる。ビターだけど、胸に迫るナンバーです」

 

14. Måneskin “ZITTI E BUONI”


田中「彼らのブレイクは、2021年最大の番狂わせでしたね。イタリア、ローマ出身のロック・バンド、マネスキン。5月に〈ユーロ・ヴィジョン・ソング・コンテスト〉で優勝、この“ZITTI E BUONI(黙っていい子にしていな)”のパフォーマンスが話題を呼び、現在も複数の楽曲が各国のチャートを席巻中です。シーンをひっくり返したと言っても過言ではないでしょう」

天野「ぶっとばされましたね! ロック不遇の時代と言われることも多い現在のシーンに、こんなにヘヴィーでパワフルでシンプルなロックンロールで殴り込みをかけたことが痛快でした。とにかく、クイーンのフレディ・マーキュリーをほうふつとさせるヴォーカリストのダミアーノ・デイヴィッド(Damiano David)のカリズマティックでセクシーでグラマラスなアイコンっぷりが最高。僕はすっかりマネスキンのファンになっちゃいました」

 

13. The Weather Station “Parking Lot”


天野「ウェザー・ステーションは、昨年から続く北米インディー・ロック・シーンの勢いを象徴していますよね。カナダ、トロント出身のタマラ・ホープ(Tamara Hope)によるバンドです」

田中「13位は、彼女たちの“Parking Lot”です。〈気候変動がもたらす精神的な負荷や不安〉をテーマにした新作『Ignorance』からのシングルで、フリートウッド・マックを想起させるマチュアで洗練されたロック・サウンドと室内楽的なストリングスのアレンジが印象的ですね」

天野「〈クラブの外、駐車場で待っていた/鳥が数羽、羽ばたいて屋上に降りるのを見た〉というラインから始まるリリックは、まるで小説か映画のよう。サウンドだけでなく、ホープのストーリーテリングとアクチュアルなテーマ性にぜひ注目してください」

 

12. Arlo Parks “Hope”


天野「〈PSN〉が以前から注目していた才能が、アーロ・パークスです。僕が今年もっともたくさん聴いた作品のひとつは、彼女のデビュー・アルバム『Collapsed In Sunbeams』なんですよね。12位に選んだ“Hope”は、同作のなかでも特に感動的な曲です」

田中「〈あなたはあなたが考えるほど孤独じゃない/わたしたちはみんな傷を負っている、辛さはわかる〉と傷ついた者にそっと寄り添う、パークスのエンパシーが表現された優しいソウル・チューンですよね」

天野「何回聴いても泣けます……。バイセクシュアルである自身の性的指向について率直に歌い、音楽と社会的な活動によってLGBTQ+コミュニティーやメンタル・ヘルスに問題を抱える若者たちの支えになっているパークスは、英サウス・ロンドンのシーンを超えて国際的に重要な存在になっていると思います」

 

11. SZA “Good Days”


田中「昨年に続いて、TikTok発のヒット・ソングが生まれた2021年。SZAが昨年末にリリースしたこの“Good Days”も、TikTokやストリーミング・サービスでヴァイラル・ヒットした曲でした」

天野「そんな背景を抜きにしても、聴き手を夢見心地にさせる幻想的な音像と、とろけるようなメロウネスに聴き惚れちゃう曲ですよね。特に、ディレイがかかったギターの音色といったら! メロディ―を自由自在に歌うSZAのヴォーカリゼーションも、ドリーミーで美しい。超絶技巧のマルチ・プレイヤー、ジェイコブ・コリアー(Jacob Collier)によるコーラスも最高です。過去の恋愛の痛みと共に、希望も滲んだこの曲。コロナ禍による閉塞感が高まっているいま、SZAの歌が広く受け入れられたのは納得です」

 

10. Wolf Alice “The Last Man On Earth”

天野「いよいよトップ10に突入。10位に選んだのは、ウルフ・アリスの“The Last Man On Earth”。6月にリリースされた新作『Blue Weekend』からのファースト・シングルでした。アルバムがとにかく素晴らしくて、今年を代表するロックの名盤だと思います。なので、同作の曲は絶対に上半期ベスト・ソングに選びたいと思っていて、この曲と“Smile”のどちらにするかで悩みましたね」

田中「個人的な好みはパンキッシュなバンガー“Smile”のほうなのですが、ミッド・テンポのシネマティックなサウンド、さらに中盤の展開の鮮やかさなど、王道のブリティッシュ・ロックをほうふつとさせる“The Last Man On Earth”は、バンドの新境地を伝える曲だなと思い、合議のうえでこちらを選びました。シンプルに生きられない人間の傲慢さ、悲哀がテーマだという歌詞もいいですし。UKロックの伝統に根ざしつつ、〈その最先端に自分たちがいるんだ〉という決意を感じさせる曲でした。名曲!」

 

9. Squid feat. Martha Skye Murphy “Narrator”

田中「〈PSN〉は、UKロック・シーンの動向にはずっと注目してきました。2021年はブラック・ミディ、ブラック・カントリー・ニュー・ロード、ドライ・クリーニングなどが傑作を発表して、同地のシーンはいよいよ勢いづいている印象です」

天野「なかでもブライトン出身のスクイッドがワープから発表したデビュー・アルバム『Bright Green Field』は、快作でしたね。ポスト・パンク的なやぶれかぶれのパワー、ジャーマン・ロックからの影響が表れたビート、そしてポスト・ロック的な構築性が彼らの魅力ですが、アルバムからのファースト・シングル“Narrator”には以前と比べものにならないくらい進化したバンドの姿が刻まれていて驚きました。ビルドアップしていく強烈なバンドの演奏、そしてマーサ・スカイ・マーフィーの叫びが忘れられない一曲です。UKインディーの勢いを象徴していると言っていいでしょう」

 

8. BTS “Butter”

田中「今年の上半期における最大のポップ・ヒットのひとつですね。8位はBTSの“Butter”です。昨年の“Dynamite”と同様に、コロナ禍の時代において、まばゆいまでのポジティヴィティーを示してくれた曲だと言えるのではないでしょうか」

天野「BTSはK-Popという領域を越え出た存在になりましたね。“Butter”は、ディスコ・ポップだった“Dynamite”よりもベースやキックが前に出ていて、エレクトロ・ポップ色が強い派手なプロダクションが最高。メンバーそれぞれのヴォーカル・パートは短いけれど、7人の個性がしっかりと刻まれた歌もチャーミング。あとはやっぱり、リズミカルでキャッチーなメロディーが見事です」

田中「BTSの曲って、彼らが愛するブラック・ミュージックにリリックやアレンジで敬意を払いつつ、仕上がりとしては絶妙にルーツ性が希薄なんですよね。先日リリースされた“Permission To Dance”を聴いたときにも感じたのは、ここ最近のBTSの魅力は、〈『ダンスできない人』も排除せずに仲間に入れる『ダンス・ポップ』〉というところにあるのかなと。この7人組は、いまポップを誰よりも引き受けている存在だと思いますね」

 

7. Lorde “Solar Power”

天野「ロードの4年ぶりの新曲“Solar Power”が7位です。軽やかなギターのコード・ストロークとロー・テンポのブレイクビーツに、なんだかバレアリックなムードが漂っています。プロデュースは、いまや当代随一の売れっ子となったジャック・アントノフ(Jack Antonoff)。コーラスにフィービー・ブリジャーズとクレイロが参加しているっていうのもいいな~。この曲は、発表直後からプライマル・スクリームの“Loaded”(90年)やジョージ・マイケルの“Faith”(87年)、“Freedom! ’90”(90年)が引き合いに出されていましたね。実際、めちゃくちゃ似ている(笑)」

田中「ただ、ロードは“Loaded”を聴いたことがなくて、ロビー・ウィリアムズの“Rock DJ”(2000年)を意識していたらしいのですが、ボビー・ギレスピーはこの曲を聴いて賛辞を贈ったそうです。〈大好きだよ。僕たちが何年も前に捉えたフィーリングを、君がまた捕まえてくれたね〉とコメントしています。さすがボビー、かっこいい!」

天野「故ジョージ・マイケルの遺産管理団体も応援しています。ロードは、8月20日(金)にこの曲と同名のニュー・アルバムをリリース。彼女は新作について〈みんなの夏の一作になってほしい〉と語っていて、これまでの2作とは異なるムードのアルバムになっていそうですね。どんなアルバムなのか、とても楽しみです」

 

6. Japanese Breakfast “Be Sweet”

天野「6位はジャパニーズ・ブレックファストの“Be Sweet”。なんと、〈PSN〉はこの名曲を取り上げていませんでした。この後に出た“Posing In Bondage”は紹介していましたが、不覚……。そう思うくらい、“Be Sweet”は今年を代表する最高の一曲だと考えています」

田中「以前はメランコリックでローファイなインディー・ロックという印象が強かった彼女の作風ですが、“Be Sweet”はうきうきするエレクトロ・ポップです。ワイルド・ナッシングのジャック・テイタム(Jack Tatum)と共作した楽曲で、クールな音の質感や乾いたドラムの響きは、たしかにワイルド・ナッシングっぽい。パートナーに向けて〈私に優しくして!〉と呼びかける歌詞も微笑ましい」

天野「過去2作は彼女のお母さんが癌で亡くなったことが影を落としていましたが、“Be Sweet”を収録した『Jubilee』では〈喜びを歌いたかった〉と語っています。Mikikiは傑作『Jubilee』についてのインタビューを掲載していますので、“Be Sweet”の制作背景などについては、そちらをぜひご覧ください!」

 

5. Cassandra Jenkins “Hard Drive”

田中「ついにトップ5です。カサンドラ・ジェンキンズの“Hard Drive”。カサンドラ・ジェンキンズはNYCのシーンで才能が認められているシンガー・ソングライターで、故デイヴィッド・バーマンのパープル・マウンテンズのツアーに参加する予定もあったのだとか。2月にリリースした『An Overview On Phenomenal Nature』が高く評価され、国際的な知名度が一気に上がりました」

天野「バンドメイトの死を受けて作られた、とても感動的なアルバムでしたね。“Hard Drive”は同作からのシングルで、すでにインスタント・クラシックと名高い一曲。本当に素晴らしくて、僕はこの半年間、この曲を繰り返し聴いていました。冒頭の生々しいヴォイス・メモの引用、ジェンキンズのスポークン・ワードとささやくような歌、そしてサックスやギターが演出するジョシュ・カウフマン(Josh Kaufman)によるドリーミーな甘いプロダクション……。特に魅力的なのがジェンキンズの実体験を元にしたと思われるリリックで、警備員やドライヴィング・インストラクターといった市井の人々がたくさん登場するんですね。なので、歌詞を読みながら聴くのがベスト! ぜひこのリアルなストーリーテリングと幻想的なサウンドに、じっくりと浸ってほしいです」

 

4. Sharon Van Etten & Angel Olsen “Like I Used To”

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天野「いまのUSインディー・シーンを代表する女性シンガー・ソングライター2人によるコラボレーション・ソング“Like I Used To”。2人の組み合わせはもちろんですが、楽曲そのもののの力強さに心を打たれました」

田中「ジョン・コングルトン(John Congleton)のプロダクションは、50年代のオールディーズや60年代のフィル・スペクターのウォール・オブ・サウンドを思わせますね。さらに、70年代のブルース・スプリングスティーンもほうふつとさせます。2人の歌声の個性が際立つデュエットや〈泣き〉のメロディーも含めて、とても感動的です」

天野「〈かつて私がそうしていたように〉と繰り返し歌われるこの共演曲について、オルセンは〈ピュアな原点に立ち返れる曲〉と表現しているんです。そして、それを振り返ることが今後の人生を歩んでいくうえで重要だった、とも言います。混迷を極め、日々の対応に追われるコロナ禍において見失ってしまう大事なこと、自分自身を愛してあげるためのヒントがここにあるんじゃないかと、僕はこの曲を聴いて思いました。アニエス・ヴァルダへのオマージュを感じるMVもいい!」

 

3. Silk Sonic “Leave The Door Open”

天野「いよいよトップ3! ブルーノ・マーズとアンダーソン・パークという、現代のソウル/R&Bシーンを代表する2人。2017年にブルーノ・マーズのツアーで出会ったという彼らが、スペシャル・バンドのシルク・ソニックを結成。満を持して届けられたのが、このデビュー・シングル“Leave The Door Open”です。説明不要の、2021年を代表するヒット・ソングでしょう! 僕、この曲を聴くと涙腺が緩んじゃうんですよね……」

田中「アナログでヴィンテージな激甘ソウル・ナンバーですよね。スモーキー・ロビンソンとミラクルズ、アイズレー・ブラザーズ、スタイリスティックスなどなど、60~70年代のスウィート・ソウルを思い起こさせるというか、当時の音楽をシミュレートしたと言っていいソングライティングと音作りです」

天野「初めて聴いたときは、あまりにも懐古的すぎて、正直なんとも言えない気持ちになったんです。でも、そのうち虚心坦懐に聴けるようになって、楽曲のピュアな魅力に気づきました。とても美しい曲だと思います。そして、なによりも2人の歌が素晴らしいですよね。その後のヒットを受けて、これはアメリカ人の琴線に触れる旋律とサウンドなんだなと気づきました。それに、〈ドアを開けておくよ〉と歌うリリックは、愛しい恋人に歌いかけたものですが、分断の時代に特別な意味を持つように感じます。2021年の曲には聴こえないけれど、今年を象徴する重要な曲だと思いました」

 

2. The Linda Lindas “Racist, Sexist Boy (Live At LA Public Library)”

田中「いよいよ2位です。リンダ・リンダズの“Racist, Sexist Boy”を選出しました。10代前半~半ばの4人組が、人種差別と性差別にノーを叩きつける最高のパンク・ソング。LA公共図書館でのパフォーマンス映像がたいへん話題になりましたね」

天野「〈Stop Asian Hate〉に呼応した若い世代の痛快なアクションとして心強かったですし、なによりパフォーマンスのかっこよさにめちゃくちゃ興奮させられました。“Racist, Sexist Boy”は、演奏前に語られているとおり、彼女たちが実際に体験したアジア系差別が元になっています。ドラマーのミラ・デ・ラ・ガルザ(Mila De La Garza)がクラスメイトの男の子に〈中国人には近づくなと親に言われた〉と言われて〈私はチャイニーズだよ〉と返すと、彼は彼女のことを避けるようになったと。そんな〈人種差別主義者で性差別主義者の男ども〉に中指を立てているのが、この曲です」

田中「演奏が上手くて、サウンドからヘヴィネスをしっかり感じさせるところもいいですよね。エロイーズ・ウォン(Eloise Wong)のうなるようなヴォーカルも迫力があります。実は、ミラとお姉ちゃんのルシアのお父さんはパラモアなどの作品に関わってきたエンジニアで、そのためかハイプ呼ばわりされることもあるそうですが、うがった見方では……と個人的には思います」

天野「まあ、エリートであることはたしかです。この動画がバズった後にパンクの名門エピタフ(Epitaph)と契約したというのも、わくわくするストーリーですよね。とはいえ、エピタフとは映像が公開される数か月前から話し合っていたんだとか。気になるバンド名は、映画『リンダ リンダ リンダ』(2005年)で知ったTHE BLUE HEARTSの曲名から取ったといいます。浅沼優子さんがTURNで書いていたように、〈少女たちに代弁させていないで、自分も声を上げないと!〉と奮い立たせられた一曲です」

 

1. Olivia Rodrigo “drivers license”
Song Of The Year (So Far)

天野「〈Song Of The Year (So Far)〉はオリヴィア・ロドリゴの“drivers license”! この曲の素晴らしさについては、数千字を費やしてRolling Stone Japanで書きました。そちらを読んでください。以上です」

田中「いやいや。〈PSN〉の上半期ベスト・ソングの、しかも1位の曲なんですから、ちゃんと紹介してください! オリヴィア・ロドリゴは、2021年を代表するポップ・アイコンにのぼり詰めたアーティストですよね。もともとはTVシリーズ『ハイスクール・ミュージカル:ザ・ミュージカル』(2019年~)などに出演していたディズニー・アイドルですが、年頭に発表したこのデビュー・シングルで新時代を象徴するシンガー・ソングライターになりました。Billboard Hot 100で初登場1位を獲得したもっとも若いアーティストであること、デビュー・シングルとして最長の8週連続で1位の座を保持したことなど数々の記録を打ち立て、TikTokでのヴァラル・ヒットも大きな話題になりましたね」

天野「どうしてここまでヒットしたのか不思議だと思う人もいるかもしれませんが、僕は初めて聴いたときからすごい曲だなと思っています。オリヴィアの伸びやかな歌唱や表現力、ダン・ニグロ(Dan Nigro)による演出や構成が見事なアレンジとプロダクション、切ないメロディー、そして失恋を痛ましく綴ったリリック……。素晴らしい要素ばかりです」

田中「歌詞については、オリヴィア、彼女の元カレのジョシュア・バセット、彼がいま付き合っているサブリナ・カーペンターの三角関係のゴシップが話題になりました。そこから興味を持ったリスナーも少なくないんじゃないかなと」

天野「でも、オリヴィアが歌ったのが、適度に具体性を持った、けれどもよくある失恋だったからこそ、誰もが共感できる曲になったのだと思います。だからこそ、TikTokなどで多くのファンが自分の体験を重ねてリップ・シンクする曲になった。このささやかな普遍性は、ポップソングの本質なんじゃないかなと思うんです。ただ、オリヴィアは元カレへの恨みつらみが主題の曲を書きすぎているので、そろそろ新しいテーマを見つけてほしいな、とは思っています(笑)。デビュー・アルバム『SOUR』には、〈その後〉へのヒントも感じたのですが」

田中「なるほど。サード・シングル“good 4 u”と『SOUR』が大ヒット中のオリヴィアは、2021年のポップ・カルチャーを語るうえで避けて通れないアーティストになりましたね。そういうわけで、彼女の代表曲である“drivers license”は、文句なしに2021年上半期のベスト・ソングでしょう!」