河村尚子の〈これまで〉と〈これから〉が詰まった、珠玉の20(+2)曲
精緻な技術と多彩な音色、深い作品理解とスケールの大きな音楽づくりを兼ね備えたピアニストの河村尚子。幅広いレパートリーで世界を駆け抜け活躍する彼女は、2022年にはその功績が認められ〈第51回サントリー音楽賞〉も受賞。今年デビュー20周年を迎え、記念アルバム『20 -Twenty-』が発売される。
「20周年なので20曲レコーディングする、というのは早い段階で決めていました。ただ、なかなか曲を絞り切ることができず、最終的にプロローグとエピローグを含めた22曲となりました。楽曲同士の共通性があるもの、またはキーワードでつながるように、など配置も色々と考えています」
オープニングにはシューマンの“献呈”が置かれた。ロベルトの妻、クララによる編曲版だ。
「リスト編曲のものよりも献身的でピュアな印象です。今回のアルバムの世界観につなげていく役割をもたせる意味で、あえて親密なクララの編曲を選びました」
シューマンからR. シュトラウス、シューベルトにバルトーク……と様々な楽曲が自然と並び、ライナーノーツに記された河村自身の物語とリンクしていく。
「物語を読む感覚でお聴きいただけるように曲を選び、並べていきました。録音の際も、文章に書いたことをイメージしながら弾いていた部分は大いにあります。そしてアルバムのコンセプトとして、〈夢〉というのは一つのキーワードになっています。近年、若い学生さんたちと接する機会が多いことから、この言葉を意識する機会が多くなったこともありますし、日常の慌ただしいなかで、ほっとできる夢想の時間を持っていただきたい、という想いを込めています。皆さんのかけがえのないひとときに寄り添うことができたら嬉しいですね」
邦人作曲家の作品が多く取り入れられているのも特徴の一つだ。近年、河村は様々なかたちで積極的に邦人の楽曲に取り組んでいる。今回のアルバムは今後の河村の活動を示唆するものともいえる。
「邦人作曲家はもちろん、現代作曲家や女性作曲家の作品を積極的に演奏する、というのはこれからの目標です。ヨーロッパでも邦人作曲家の作品は高く評価されていますし、あまり知られていない女性作曲家の作品にも本当に素晴らしいものがたくさんあります。そして現代作曲家のみなさんが何を考え、想いを込めて楽曲を書いているのかを考えることの大切さにも気が付いたところです。ぜひこれは後世につなげていきたいと思っています」