こんがらがったブルーをほどくように、一方通行な想いをスパークさせるように、音楽は鳴る! 市井のパーティー・バンドがニュー・アルバム『からまるおも』に込めた〈続ける理由〉とは?

 片想いのキャリアはいつの間にか20年を超えた。シングル“踊る理由”をKAKUBARHYTHMからリリースしたのが2012年。最新アルバム『からまるおも』は通算4作目、5年ぶりのオリジナル・アルバムになる。

 〈フジロック〉には今年を含めて計3回出演。MC.sirafuを中心に多彩な音楽活動を行うメンバーもいれば、毎日の生活の延長線上でバンドに参加し続けるメンバーもいる。その演奏は、永遠に続く学園祭のようにハチャメチャで、大縄跳びのように出入り自由な楽しさもあり、ときとして予期せぬゴスペルのように歌と言葉が心を打つ。2010年代のインディー・ポップ・アンセムといえる“踊る理由”や“party kills me(パーティーに殺される)”をどこかで聴いたというリスナーも少なくないだろう。

片想い 『からまるおも』 KAKUBARHYTHM(2024)

 新作『からまるおも』は7月に配信で発表されていたが、このたびCDの一般流通が実現。“バタ供のうた”“市井のディスコ”“チェイサーブルース”など配信リリースされていた楽曲も含んでおり、ヴァラエティーに富みながらも〈これぞ片想い!〉と快哉を叫びたくなるファンキー慕情ミュージックが満載だ。CDリリースを期に、MC.sirafu(ギター/ヴォーカル/トランペットなど)、片岡シン(ヴォーカル/三線)、オラリー(ヴォーカル)に本作について話を聞いた。

 「もともとはアルバムを前提にせず、配信シングルとして作った曲が半分くらいを占めているから、アルバムっぽくないというか、作った曲をライヴでどんどんやってた〈初期の片想いっぽさ〉が出たかも」(MC.sirafu)。

 3人に新作で好きな曲を挙げてもらうと、そこにはそれぞれの片想い像が見えた。

 「私は“カラマルユニオン”。ライヴでは長く演奏してるけど、すごく変な構成だし、音源にはならないと思ってた。たまに自分で聴いても、こんな曲をやれるなんてすごいバンドだなと思います」(オラリー)。

 「僕は“R・I・P”ですね。長年在籍していたメンバーが参加できなくなり、新しい編成で片想いを続けていくというsirafuの想いが詰まってる」(片岡シン)。

 「僕は“狂喜の山脈”。“カラマルユニオン”や“踊る理由”って循環コードで出来てるんですけど、要所要所でメンバーそれぞれのパーソナリティーが入ることでおもしろくなる。それがこの曲でまたできたし、片想いにしかできない真骨頂だと思う」(MC.sirafu)。

 コロナ禍での活動の制限あり、メンバー構成の変更もあり、ここ数年の片想いの状況は決して〈いつも通り〉ではなかった。でも、逆にそのことが、彼らに片想いというバンドを続けていく理由を考える時間を与えたというのも本当のことだろう。

 「脚本を書いてるつもりで曲を書いてるから、どのメンバーで何をやるという確信がないと曲が出来ないんですよ。メンバーの技術による制約もあるし、こういうことやらせてもおもしろくないからもっと工夫しようと考えるし」(MC.sirafu)。

 山岸聖太が監督したMVも話題の“トランスロマンティック”は、片想い流の映画「リコリス・ピザ」トリビュートを狙った疾走感のある名曲だが、同曲についてMC.sirafuが語ったことが、片想いの本質を言い当てている気がした。

 「ああいう8ビートで疾走する曲をずっと最初からやりたかったんですよ。でも、そういう曲が似合う年齢を過ぎてから結成したバンドだし、恥ずかしくてできなかった。いまになってそういうのを10年遅れでやれたって感じ。でも、みんなはその恥ずかしさをどんどん通り過ぎちゃうでしょ。〈気にせずもっとやればいいのに〉ってことを片想いはやってる気がします。世間から周回遅れでも別にいい」(MC.sirafu)。

 「〈ここ空いてるじゃん〉みたいなことを俺らはやってくのがいいんじゃない?と思いますね」(片岡)。

 「我々も年齢を重ねて、メンバーにも子どもを持つ人が増えたり、生活環境とかは変わってきてる。普段はバラバラでいいけど、誰かが欠けていいわけではないんです。苦悩はあったなか、ここからまたスタートできる感覚が生まれた。これは現段階の片想いの最高傑作だと思ってます」(MC.sirafu)。

片想いの作品。
左から、B面コンピレーション『B my baby』、2019年作『LIV TOWER』、2016年作『QUIERO V.I.P.』、2013年作『片想インダハウス』(すべてKAKUBARHYTHM)

メンバーの近年の参加作を一部紹介。
左から、GO TO HELLの2023年の7インチ“俺らの街が目をさます”、在日ファンクの2023年作『在ライフ』(共にKAKUBARHYTHM)、あだち麗三郎の2023年のライヴ映像作品『風のうたが聴こえるかい? 2021 完全再現LIVE』(MAGICAL DOUGHNUTS)、伴瀬朝彦の2022年作『浮浪便』(MY BEST!)