内村イタルら個性豊かな音楽家たちの才気が爆発! 予想を超える化学反応で生まれた『MY CHEMICAL ROMANCE』を燃料に、5人の若者が舵を取る方角はいかに?
初期EPの段階では、それまでソロで活動していた内村イタル(ヴォーカル)を中心に、アーシーなサウンドを展開していた、5人組バンドのゆうらん船。当初はメンバー間の共通言語としてザ・バンドやヘロンが念頭にあったそうだが、ファースト・アルバム『MY GENERATION』(2020年)から、定型的なバンド・サウンドを壊しはじめる。そのポスト・プロダクションを駆使する姿勢は、次作『MY REVOLUTION』(2022年)で過激化、メンバーの個性が浮き彫りになってきた。そして新作『MY CHEMICAL ROMANCE』では、内村以外のメンバーも積極的に曲を提供。実験的でありながら踊れる、心身のバランスが絶妙な作品に仕上がっている。変化の契機は、2023年に予定していた新作のレコーディングに内村の曲作りが間に合わず、いったん白紙になったことだった。
「ライヴで新曲をやっていこうということになり、ドラムの砂井(慧)くんが持ってきた曲をやったのが、2023年8月の東京・渋谷WWWでした。その曲はアルバムに入ってないんですが、それを機に新作が始まったと言えるかも」(本村拓磨、ベースほか)。
その未発表曲とは別に、砂井は4曲を新作に提供。昨年リリースされたシングル“Carry Me to Heaven”も彼の作曲だが、アルバム・ヴァージョンは本村の執刀によって曲が途中で切り裂かれ、快活な“Carry Me to Heaven”を反転させたような曲“Thank God I’m in Heaven, or Transmission from Behind the Moon”へと続く。
「その2曲は裏表のイメージです。 シングルで出した“Carry Me to Heaven”は、最初に自分が考えていたものより明るくなりすぎて、それを反転させてみようと思いました。“Thank God I’m in Heaven, or Transmission from Behind the Moon”が出来たことで、そこに繋げる形に打ち壊せましたね」(砂井)。
後半のハイライトとして推したい内村の曲“How dare you?”は、アレンジの方向性に悩むなかで、砂井がPCでいったん雛形を組み、そこから生音に差し替え、みずから16声のコーラス(!)を重ねたという。
「ビリー・アイリッシュが念頭にあったんだけど、技術的にどうやってるのかわからなさすぎた(笑)。リヴァーブが凄いけど、歌は近い……みたいな感じで組んでみたけど、なかなか両立できずで。そういう状態で本村くんに渡してミックスしてもらって、いまの形に着地できました」(砂井)。
一方、個人では作編曲家としても活動している永井秀和(ピアノ)は、インストゥルメンタル“after nightfall”と共に、ポップな歌モノの“Departure”を提供している。
「“Departure”は自分でデモを作ったけど、最終的にリズムのイメージはガラッと変わりました。僕ひとりで作っていたら、ああいうビート感にはまずなっていないと思います」(永井)。
そうしたメンバー間の相互影響は、“Crack Up!”でも上手く作用している。
「イタルが書いた〈大切なものも/バラバラになってしまう〉という歌詞の一節に引っ張られて、後半に思いっきり歪ませるアイデアが湧いてきました」(本村)。
特筆すべきは、内村の歌詞の深化。音と言葉のハマり方には人一倍こだわってきた人だが、他のメンバーの曲に歌詞を付ける作業から、かなり刺激を受けたという。
「自分が詞だけを書くときは、オブラートに包むとか、ワードの使い方で煙に巻くみたいなことはあんまりやりたくないなと思って。そのぶん、いつもより歌詞に気持ちが乗ったし、いままでにない視点で書けたところもあると思う」(内村)。
本村も言っていたが、ファースト・アルバムのキャッチコピー〈素朴と前衛は矛盾しない〉の精神をふまえつつ、音楽的な拡張をまたも実現してしまった、ゆうらん船というバンドの末恐ろしさに唸らされる作品。「みんな個性的なメンバーなので、個性が混じり合う場所にしたい」という内村の理想がいよいよ遠慮なく具現化された、記念すべき一枚だ。
ゆうらん船の作品。
左から、2022年作『MY REVOLUTION』、2020年作『MY GENERATION』、2019年のEP『ゆうらん船』(すべてO.O.C)