ausがポスト・クラシカルに接近、優美なニュー・アルバムを語る!

 2008年作『After All』~2010年の編集盤『Light In August, Later』で、グリッチ・ノイズをスパイスにしたメランコリックなアンビエント・ミュージックを奏で、2000年代以降のエレクトロニカ・シーンの旗手として活躍していたYasuhiko Fukuzonoのソロ・ユニット、aus。自身がレーベル・オーナーを務めるFLAUの運営もあって、しばらく休止していたが、2023年のシングル“Until Then”と続く同年のアルバム『Everis』で活動を再開。オリジナル・アルバムとしては15年ぶりの復帰作となった前作は、自身の持ち味だったエレクトロニカの要素を保持しつつ、そこにストリングスやピアノをはじめとした生楽器を導入し、サウンドにさらなるヴァリエーションを持たせた充実作だった。そして、このたびリリースされる新作『Fluctor』では、そのアコースティックな部分をさらに全面で展開。クラシック~現代音楽的なサウンドを電子音響やエレクトロニカ以降の感性でブラッシュアップした、いわゆるポスト・クラシカル的な要素が強い作品になった。

 「前作をオーラヴル・アルナルズに聴いてもらったとき、ポスト・クラシカルな側面に注目してくれて、この方向性で作ってみようという気持ちが強くなったんです。『Fluctor』の収録曲はすべて、映像に音を付ける仕事を依頼された際に作った楽曲がベースになっているので、ゼロから作った『Everis』よりもスムースに作曲が進みました」(aus:以下同)。

 『Fluctor』では前作と同様に、aus自身がほぼすべてのピアノを演奏しており、本作におけるメロディーの中心となっている。前作よりもサウンド面でピアノの比重が増していて、そのことが作品全体の方向性にも大きな影響を与えているそうだ。また、その音色も工夫を重ねて作り込まれている。

 「ピアノが弾きたかったというよりは〈作品をシンプルなものにしたかった〉というのが大きかったかもしれません。本作でアコースティック楽器はピアノとストリングスを中心に使っていますが、ストリングスをロングトーンのサウンドにしているぶん、ピアノはメロディアスなアプローチを取っています。あと、ピアノは録った生音をそのまま使用しているだけではなくエディットしていて、同じフレーズを2回録って重ねたり、周波数に分けて自分が気持ち良いと思える部分を繋げたり。そういう工夫をしながら、サウンドを完成させていきました」。

 元エスパーズのメグ・ベアードやジュリアナ・バーウィックといった客演陣が素晴らしい歌声を披露していることも『Fluctor』の特徴だ。

 「メグ・ベアードによるトラディショナル・フォーク“Dear Companion”のカヴァーがあって、そのアカペラ・ヴァージョンを使い、同名の曲を作りました。彼女に聴かせたら喜んでもらえて、歌の使用を快諾してくれて。僕は2000年代のインディー・フォークが音楽的なルーツのひとつなんですけど、今回、それを自分のサウンドとして形にすることができました。ジュリアナ・バーウィックは、彼女の初来日公演を手掛けていて、そこから個人的な親交がずっと続いているんです。ジュリアナの“Circles”では自分が作ったメロディーをそのまま歌ってもらいましたが、送られてきた音源がすでに彼女のサウンドとして完成されていて驚きました」。

 ausはキャリアを重ねることで変化していった音楽に対する自身の姿勢を、『Fluctor』の中に見い出す。

 「他のアーティストに参加してもらうようになったのが自分にとっては大きな変化です。いい意味で、自分でコントロールできないものを受け入れられるようになりました。昔は全部をコントロールしたかったんです。いまは自分のサウンドに自信を持っているので、ゲストを招いて音楽を作ることに違和感がない。どんどんオープンマインドになっているし、それがメロディーにも出ていると実感しています。昔だったら恥ずかしくて使わなかったようなメロディーも本作では抵抗なく奏でていますね」。  

ausの近年の作品。
左から、2023年のシングル“Until Then”(FLAU)、2023年作『Everis』(Lo/FLAU)、長岡亮介との2023年のコラボ作『LAYLAND』(ENNDISC/FLAU)