セカンド・アルバムにして代表作『イーライと13番目の懺悔』が、7インチ紙ジャケット仕様SACDマルチ・ハイブリッド・エディションでリリース!
赤く染まった足元の枯れ葉が風に舞う肌寒い日に、ローラ・ニーロの『イーライと13番目の懺悔』を聴いた。『ニューヨーク・テンダベリー』と並び、彼女の初期の代表作だけあって何度か再発されてきたが、今回は、貴重な4chサラウンドミックスを収録したSACDマルチハイブリッド盤での再発となる。ジャケットも、1968年の発売当時の米国のレコードを可能な限り再現した紙ジャケット仕様になっている。フィフス・ディメンションがヒットさせた“ストーンド・ソウル・ピクニック”に“スウィート・ブラインドネス”、そしてスリー・ドッグ・ナイトが取り上げた“イーライがやってくる”などもあって、懐かしいはずだが、むしろ、みずみずしく楽しませてもらった。
窓ガラスにニューヨークの夜景が映るのを想像し、劇場でオペラでも見ているような気分に浸り、深夜の遊園地にピクニックにでも誘われるような、いろんな絵が浮かんでは消えていく。都会に住む若い女性が、恋の喜びを知り、裏切られ、絶望や孤独に襲われる。ドラッグやアルコールに溺れ、生まれてきたことを嘆き、死にたいと叫ぶ。若さゆえの残酷な様々な感情を、熱を含みながらソプラノの美しい歌声で夜の都会に放つ。それも、ジャズ、ロック、ソウル、フォーク、クラシック、ゴスペルとありとあらゆる垣根をいとも簡単に飛び越える大胆にして奔放な音楽で、とまあ、そういうアルバムだ。手練れの大人たちが彼女のしもべのように楽器を奏で、彼女は、テンポを自在に支配し、複雑に交錯させながら、ぼくのような聴き手に息をのむ瞬間を幾度となく経験させてくれた。
若いころは、感情の起伏と激しさに戸惑い、鋭い表現力に圧倒され、ヒリヒリと皮膚を震わせながら聴いていた。掌を微かに広げ、指の隙間から、怖いけれども誘惑に勝てずに覗き込むように接することもあったが、こちらの神経がずうずうしくなったせいか、彼女の歌声が活き活きとしていて、表現する喜びさえも感じられるのが意外だった。今回収録されている4ch音源では、楽器たちの細部の表情が聴き取れるのも嬉しい驚きだった。
それになによりも驚いたのは、当時21才という若い女性が、生きることに対してこれほどまで強く向き合っていたことだ。だからなのかわからないけれど、ジャケットを飾る写真、暗闇に浮かぶ物憂げな彼女が、なんとまあ、美しいことか。神や魂のやどすところへ導かれてるような美しさだ。また、裏ジャケットでの、10代の自分に別れのキスをする大人のローラの姿がアルバムを物語り、13番目の曲“懺悔”でアルバムを閉じ、タイトルと結びつけているところなども含めて、彼女の気高い創意にも、改めて敬意を覚える。