シンディ・ローパーのラストツアーが2025年4月に東京と大阪で開催される。すでに完売が相次いでおり、追加公演、再追加公演の開催も決まった。そんな話題のライブに向けてシンディ・ローパーというアーティストがどんな表現をしてきたのか、特にフェミニズムや現代的な観点からライター萩原麻理に綴ってもらった。 *Mikiki編集部
〈イズム〉ではない40年間保ってきた姿勢
シンディ・ローパーが前回来日した2019年、ツアー直前に電話取材をしたことがある。その時の彼女はすぐに私の名前を覚えると、ずっとファーストネームで呼びかけながら、自分の話をする前に「いま日本はどうなの?」と次々質問を投げてきた。そんなアーティストはあまりいない。話はどんどん気候危機や環境問題、フェミニズムといったトピックに広がったが、不思議なほど〈イズム〉を感じなかったのも覚えている。たぶん、どの話もシンディ・ローパーという人の体験から語られていたからだろう。
長年の間にフェミニストアイコン、LGBTQ+アイコンとなった彼女だが、それは主張というより、本当にシンプルに他者とつながり、元気を与えてくれる存在だから。〈自分のストーリー〉を持つ人は〈相手のストーリー〉も尊重し、ひとりひとりを認める。そんな姿勢を40年間保ちつづけることだけでもすごいことだと思う。
自分を見失いそうなすべての人に語りかける歌
そんなシンディがフェアウェルツアーで日本にやってくる。いまも現役でパワフルなライブをやる80年代ポップスターが他にどれだけいるだろう。しかもレコード契約を結んだ時、シンディ・ローパーはすでに30代だった。下積みをしてきて、自分の意見やスタイルを持っていた。よく知られた話だが、ファーストシングル“Girls Just Want To Have Fun”は、フィラデルフィアのパンクバンドの曲“Girls Just Wanna Have Fun”(タイトルに小さな違いがある)のカバーとして生まれた。男性視線で〈女の子は(セックスを)楽しみたがってるだけだぜ〉と歌われていたのを、ソングライターの許可を得て〈女の子は楽しみたいだけなの!〉と変えた曲。シンディのあの声で歌われ、カラフルで賑やかなビデオになると、元の曲のシニカルさはすっかり消えて、女の子たちみんなの賛歌となった。
シンディ自身子どもの頃から女性デモに参加し、60〜70年代に感じていたそのパワーが80年代、やや停滞したのを見て歌った、と語っている。だが彼女の他の曲もそうだが、そこに説教臭さはない。“True Colors”は、心の暗さに呑み込まれそうになっている人にこう語りかける。〈私には本当のあなたが見える/その色が光り輝くのが/本当の色を見せるのを恐れないで/虹のように美しいものだから〉。もちろん、虹のワードが出てくることからLGBTQ+アンセムとなった曲で、彼女自身エイズで亡くした友人を思って歌ったという。でもそれ以上に、自分を見失いそうになっているすべての人に語りかける歌でもあるのだ。
人と人はどんな時も支え合える
2025年の世界では、シンディが歌い、語り、活動してきたことが次々破壊されているように感じる人がいるかもしれない。でも彼女はどの時代でもずっと闘ってきたし、いまインスピレーションとなるのはその一貫性だ。恐怖や不安に呑み込まれそうになることはいつでも、誰にでもある。最初にナンバーワンとなったバラッド“Time After Time”は、心が挫けた人に〈私はここにいる〉と呼びかける。〈私が助ける〉ではなく。人と人はどんな時も支え合うことができるのだ。
シンディ・ローパーもこれで活動を終えるわけではない。1988年の映画「ワーキング・ガール」のミュージカル化も控えているし(80年代女性像の新たな解釈に期待!)、一生アーティスト/アクティビストでありつづけるだろう。ただ、彼女のライブパフォーマーとしての表現力と共感力を体感するのは、これが最後のチャンスになるかもしれない。
LIVE INFORMATION
Cyndi Lauper Girls Just Wanna Have Fun Farewell Tour
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■大阪
2025年4月19日(土)大阪・Asueアリーナ大阪
■東京公演
2025年4月22日(火)東京・日本武道館 ※SOLD OUT
■東京追加公演
2025年4月23日(水)東京・日本武道館 ※SOLD OUT
■東京再追加公演
2025年4月25日(金)東京・日本武道館