(左から)片倉真由子、山口真文

芳醇な音色と尽きせぬインスピレーションの持ち主。半世紀以上にわたってコクのある音楽を届け続けるサックス界のマエストロ・山口真文が2025年3月27日(木)に新作を発表する。

日本ジャズの現在をドキュメントするレーベル、Days of Delight(ファウンダー&プロデューサー:平野暁臣)からの通算3作目となる『Next Standards』は、ピアニスト・片倉真由子とのデュオアルバム。ウェイン・ショーター、ハービー・ハンコックら〈新主流派〉と呼ばれるミュージシャンのオリジナル曲に、独自の解釈でスポットライトを当てている。

ベース~ドラムスとのコードレストリオでスタンダードナンバーに取り組んだ『Trinity』、カルテット編成・全編ソプラノサックス・全曲自作の『VIENTO』に続くこの意欲作について、山口真文と片倉真由子のふたりに話を聞いた。まずはMikiki初インタビューとなった山口真文のバイオグラフィからきいてみよう。

山口真文, 片倉真由子 『Next Standards』 Days of Delight(2025)

 

日本ジャズサックスのマエストロ山口真文の半世紀に及ぶキャリア

――山口さんが最初に夢中になったジャズは何ですか?

山口真文「ディキシーランドです。トロンボーンの音色に惹かれたし、スライドを操作して演奏する姿が面白いなと思って、中学生のときにトロンボーンを始めました。その後グレン・ミラーなどのスウィングを聴き、大学に入ってからはビッグバンドでカウント・ベイシーの楽曲などを演奏していました」

――モダンジャズのソリストとして活動を始めたのは?

山口「大学の後半からです。当時は60年代の最後で、ロックっぽいジャズやフリージャズなんかも盛んな頃でした。卒業後はヤマハで働き始めたんですが、半年ほどでミュージシャンの道に進もうと決めました。すぐにギターの川崎燎さんに誘ってもらい、彼のバンドで新宿のピットインやタローで演奏するようになったのがスタートです」

――最初のレコーディングは1971年録音の山下洋輔トリオとブラス12『イントロデューシング・タケオ・モリヤマ』ですね。アルトサックスでの参加です。

山口「管楽器がたくさん入っているアルバムで、自分と同じくらいの年代のジャズプレイヤーが集まってギャンギャン音を出して……(笑)。(当時の山下トリオのサックス奏者)中村誠一さんと知り合いだったから呼ばれたんじゃないかな」

――しかし、山口さんは別にフリージャズ志向というわけではなく……。

山口「そうですね。全くフリー志向ではなかったです。なにしろ僕はチャーリー・マリアーノが好きだったので。彼は完全なビバップじゃないし、ちょっとユニークな、情念の人という感じですよね」

――アルトサックスからテナーサックスに転向したきっかけは何ですか?

山口「特別な思いがあったわけじゃなく、単純にバンドの事情です。ジョージ大塚さんのバンドに入ったら、トランペットの大野俊三さんがいて、最初はアルトで演奏していたんですが、テナーの方がハーモニーを取りやすかったんですよ。一緒に演奏するにはその方がいいだろうということでテナーに持ち替えました」

――峰厚介さんも1971年頃にアルトからテナーに替わっています。

山口「そう、同じ頃かもしれませんね」

――山口さんは1976年に『アフター・ザ・レイン』、1978年に『リーワード』というリーダーアルバムを発表なさっていますが、この時代の日本のジャズに対する注目が今、イギリスやアジアで高まっています。ヨーロッパでは山口さんの楽曲をカバーする若手バンドもいます。このあたりの実感はお持ちですか?

山口「いや、全然知らなかったし、今も実感はありませんが、最近、ベースの水橋孝さんと話していたら、上海でスリー・ブラインド・マイスのレコードがすごい人気だと言うんですよ。日本人ジャズミュージシャンのコンサートも盛況みたいですね」