(左から)須川崇志、栗林すみれ、藤本一馬

「この組み合わせ以外では絶対に生まれない音楽を作ってくれるだろうと思ったんです。3人とも常に自分のことより音楽全体を考えている。〈技術プレゼン〉に熱中することもなければ、自分ひとりが高みに登れればいいとも考えない。今回のサウンドを聴いてまず感じるのは、音楽的にはとても高度なことをやっているのに、とてもリラックスして楽しく演奏しているように聞こえることです。実際のレコーディング現場を見ているぼくは決してそうではなかったことを知っているのだけれど(笑)、出来上がった音楽はとても優しくて温かい。だから聴く者の中にすーっと気持ちよく入ってくる。これって、自分のことより〈みんなで良い音楽を作りたい〉〈リスナーにきちんと届く音楽でありたい〉ということを真っ先に考えるミュージシャンじゃないとできないんですよね」。

日本ジャズの現在をドキュメントするレーベル、Days of Delightのオーナープロデューサーである平野暁臣が、熱を込めてこう語る。同レーベルから54作目の作品として2025年2月26日(水)にリリースされるのは、栗林すみれ(ピアノ)・藤本一馬(ギター)・須川崇志(ベース)のトリオによる『Tides of Blue』。

2023年6月、渋谷BODY&SOULで行われた3人の初ライブを聴きに行った平野氏が「音楽が発展していく予感」を強く覚えたことからアルバム制作をオファー。以来、トリオはライブを通して音楽性を磨きあげ、2024年8月のレコーディング当日を迎えた。静の美、静の力が輝く同作は、音楽面でもDays of Delightの新境地といえる内容となっている。ではさっそく栗林すみれ・藤本一馬・須川崇志の話に耳を傾けてみよう。

栗林すみれ, 藤本一馬, 須川崇志 『Tides of Blue』 Days of Delight(2025)

 

念願のトリオで演奏する楽しみ

――栗林さんと藤本さん、藤本さんと須川さん、須川さんと栗林さんと、それぞれでは何度も演奏経験があるのに、3人の共演は今回がはじめてとのことですが、トリオで活動するようになったきっかけを教えていただけますか?

栗林すみれ「ふたりが共演していることをSNSで知って〈一体どんな音楽をやるんだろう〉と興味津々だったのですが、なかなかライブを見に行くことができなくて。そんなときにBODY&SOULの関京子ママから〈好きなこと(ライブ)をやっていいわよ〉と言われたので、真っ先にふたりに声をかけたんです。何か具体的なビジョンがあったわけではなくて、単純に〈このメンバーでやってみたい!〉と思っただけですけど」

――最初のライブが行われたのは、2023年の6月ですね。

栗林「ファーストセットが終わったときに京子ママが〈このバンドでぜひ次もやりましょう!〉と言ってくれたし、お客さんとしていらしていた平野さんも〈あーいいなあ、オレ、こういうの好きだなあ〉と言ってくれて。早くも2回目のライブでレコーディングのオファーをいただいたんです。あれよあれよという間に話がどんどん進んでいって……(笑)」

藤本一馬「初めて3人で演奏したときはカバーも織り交ぜていたんですが、その段階で〈すごくいいものになる〉という予感はありました。どんな作品にたどり着くかまではわからなかったけれど、3人で演奏することをシンプルに楽しんでいました」

――そのときのレポートを拝見したら、藤本さんはエレクトリックギターも演奏なさっています。

藤本「初めの段階では、まだどういうサウンドに育っていくかわからない。そこでいろんな楽器を持ち込みましたが、途中からアコースティック楽器のサウンドにフォーカスした方が良いなと思い、アコースティックギター1本で演奏するようになったんです」