(左から)藤井武、平野暁臣

2018年10月にスタートし、〈日本ジャズの新たなプラットフォーム〉を標榜しながら独自の美学を貫いてきたDays of Delight(以下、DoD)。大ベテランから新進気鋭の演奏家まで多岐にわたるラインナップによる優れた作品を届けてきたレーベルが、設立から7周年を迎える。2025年10月23日(木)にリリースされるコンピレーション『Spirit of “Days of Delight” vol.5』で通算59作に至り、その歴史は早くも厚みをもってきた。

今回はそんなDoDの7周年を記念して、DoDの平野暁臣と、1970年創立の伝説的レーベルThree Blind Mice(以下、TBM)の藤井武の対談を特別にお届けしよう。時代も世代も異なるなかで深い友情を育んできた両者、オーナープロデューサーとして芯の部分で共鳴し合う二人。彼らの2時間以上に及んだ対話をぜひ堪能してほしい。

VARIOUS ARTISTS 『Spirit of “Days of Delight” vol.5』 Days of Delight(2025)

 

時代を超えて出会った〈同じ考え〉の二人

――お二人はどのようにして出会ったのでしょうか?

平野暁臣「ある日突然、藤井さんから〈スリー・ブラインド・マイスの藤井です〉と事務所に電話が掛かってきたんです。頭が真っ白になりました。なにしろ藤井さんはぼくにとって半世紀前から憧れていた〈天井人〉ですからね。もはや〈神話の登場人物〉に近い存在なんです(笑)。だから〈すげー、『藤井武』がしゃべってる!〉って」

藤井武「(笑)」

平野「〈一度あなたとお話したい〉と言っていただいて、何度かお会いするうちに親しくお付き合いさせていただくようになりました」

藤井「ウェブマガジンのARBANで平野さんのインタビュー記事を読んだんです。〈えっ、今どきこの時代にこんな人がいるの!? 考えていることがぼくと同じじゃないか〉と嬉しくなっちゃってね(笑)。ぜひ直接会って話してみたかったし、ぼくで役に立つことがあれば応援したいと思ったんです」

平野「TBMの理念やその奥にある藤井さんの思想についてお聞きしているうちにわかったのは、ぼくの思い描いていたイメージがズレていなかったということ。レーベルを始めるときに目標にしたTBMのメカニズムや藤井さんの人物像がイメージどおりだったことを知って、とても嬉しかったし、自信になりました」

――2022年にTBMの秘蔵音源だった日野元彦さんと鈴木勲さんのライブ録音が、Days of Delightから『Flying Clouds』『Blue Road』としてリリースされました。あれは、お二人の友情から実現したプロジェクトなのでしょうか?

平野「藤井さんと雑談しているうちに〈そういえば、こういうのがあるんだ〉と見せていただいたのが、お蔵入り音源のリストだったんです。いろんな理由で埋もれてしまった音源なのですが、いうまでもなくお宝ばかり。かたやトコさん(日野元彦)の名盤『流氷』(1976年)の頃のライブ音源だし、かたやオマさん(鈴木勲)の……」

藤井「『オランウータン』(1975年)の頃のライブ録音ね」

平野「TBMの音源だから、演奏が素晴らしいのは疑いないけれど、2インチのアナログテープ、それも半世紀の間眠っていたものなので、聴くことさえままならない。そこで〈窯焼き〉と言われる熱処理をして、デジタル化して……という工程を経て、やっとラフミックスを聴いたところ、やっぱりすごい演奏なんですよ。〈これは絶対に残さなきゃダメだ〉との思いから、〈ぜひリリースさせてください〉とお願いしました」