日本ジャズの現在をドキュメントするレーベル、Days of Delight(ファウンダー&プロデューサー:平野暁臣)から飛び切りの意欲作が登場する。要注目のトロンボーン奏者/作編曲家、池本茂貴によるニューアルバム『Flip the Switch』だ。

この作品には、いくつもの〈初めて〉がある。Days of Delightから登場する初のトロンボーン奏者によるリーダー作であること、池本茂貴にとっては、これまで発表してきたラージアンサンブル〈isles/Ikemoto Shigetaka Large Ensemble〉の諸作とは異なるコンボジャズにおけるデビュー作であること、そして同レーベルにとって初の2枚組であること。〈初めてが重なり合うことほどスリリングな現象は、ジャズ界にはない〉と考えるリスナー(私もそのひとりだ)にとっては快楽がこみあげてくる内容といえよう。しかもディスク1は〈acoustic side〉、ディスク2は〈electric side〉と題されており、池本はもちろんのこと、西口明宏、武本和大、中林薫平、小田桐和寛というメンバー全員が持つヴァーサティリティも浮かび上がってくる。

そんな池本茂貴の音楽歴について、新作について、演奏について、作曲について、たっぷりと話をきいた。

池本茂貴 『Flip the Switch』 Days of Delight(2025)

 

トロンボーンとバイオリンは似ている

――最初の音楽体験について教えていただけますか?

「母親が元タカラジェンヌなので、幼少期からすごいペースで宝塚や劇団四季のミュージカルを観に行っていましたし、家にはいつも音楽が流れていました。もちろん当時は〈これはジャズだ〉とか〈ポップスだ〉とかを意識せずに聴いていたので、そのおかげか、おのずといろんなジャンルの音楽を好きになりました」

――いつ頃からトロンボーンを始めたのでしょうか?

「小学生の時にバイオリンを3、4年続け、甲南学園の中学でブラスアンサンブルに入りました。そこでトロンボーンと出会ったんですが、特別な理由があったわけではなくて、たまたまトロンボーンの人数が足りなかっただけです(笑)」

――甲南高等学校・中学校のブラスアンサンブルといえば、黒田卓也、西口明宏、中林薫平、広瀬未来といった第一線のジャズマンを輩出している名門ですね。トロンボーンにはどんな印象を?

「弦楽器と管楽器は全然違うと思われるかもしれませんが、僕には似た感覚があって、バイオリンからスムーズにスイッチできました。トロンボーンはバイオリンと同じで、ピアノのように〈ここを押したら必ずこの音が鳴る〉という楽器ではありません。ピッチを耳で探していく楽器であり、音と音の中間のニュアンスを出せる。それもあって気がついたらこの楽器にすごく熱を入れてしまい、今に至るという感じです。

中学1年から高校3年までは、アロージャズオーケストラの宗清洋さんに基礎から教えていただきました。今、宗清さんの音色の良さ、トロンボーンならではのフレージングを思い出して、本当にすごい方だったんだなと改めて思います」