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キース・ジャレットの『ビロンギング』のほぼ完全再演盤! 前代未聞の試みはいかに?

 ブランフォード・マルサリスの久しぶりの新作は、何と1974年のキース・ジャレットの 『ビロンギング』のほぼ完全再演で、まさに前代未聞の企みである。ただ、このほぼの2文字が大問題で、曲も演奏の構成も同じだが、中身は違うじゃないかと不思議に説得力溢れる濃密な別世界が体験できる。

BRANFORD MARSALIS QUARTET 『Belonging』 Blue Note/ユニバーサル(2025)

 ブランフォードは、あるときこのヨーロピアン・カルテットを耳にして、びっくりし、それから1年半ほど毎日のように聴き続けたそうだ。ヤン・ガルバレクのサックスの上手さに驚嘆し、このグループの濃密なアンサンブルに驚愕したようだ。このアルバムは、彼らの第1作で、幾分荒っぽさもブランフォードを夢中にしたようにも思う。

 しかし、アルバム丸ごと再演というのは、リーダーの判断では決められない。このほぼ固定したメンバーで様々なことを決めていくブランフォードのグループは、協議を経ることが大切なようだ。しかし、この重要なアイデアを口にしたのはベース奏者だった。前作で1曲だけ取り上げたのが面白くて、これをアルバム全体に広げたらどうかとベースのエリック・リーバイが提案し、全員が賛成したという。このブランフォード・グループは、かつてジョン・コルトレーンの『至上の愛』を再現し、アルバム化だけではなく、恒常的にライヴ・ナンバーとして取り上げ、熱気あふれる演奏を生み出してきた。それをまたやればいい、やりたいというのが彼らの結論となった。

 キースのオリジナルの『ビロンギング』と今回のブランフォードたちの演奏を聴き比べるとジャズという音楽の面白さが、もっとリアルに感じ取れる気がする。曲もテンポもソロの構成も同じでも、ここはR&Bのジェームス・ギャドソンのノリで行こうとなれば、熱気の質も高さも違う世界が出現する。むろん、重要なのはギャドソンではない。彼らの中にある演奏を焚きつける何かなのだ。