©Eric Ryan Anderson

人と人、生と死、過去と未来……パンデミックを入口にその先の普遍的なクリエイションへ踏み込んだ5年ぶりのオリジナル・アルバム。スティングは何に橋を架けるのか?

何かと何かの間

 「これらの曲は、ある場所と別の場所、ある精神状態と別の精神状態、生と死、人と人の関係、 そういったすべての間にあるものだ。 このパンデミックと時代の間に挟まれ、政治的にも社会的にも心理的にも、僕らは、何かの真ん中で立ち往生している。 架け橋が必要なんだ」 。

 ソロ名義では『57th & 9th』(2016年)以来5年ぶりとなるスティングのオリジナル・アルバム。とはいえシャギーとのタッグ作『44/876』(2018年)やセルフ・カヴァー集『My Songs』(2019年)といった新録作はあったわけだし、今年の3月にはコラボ曲集『Duets』も出ていて、そこにコンパイルされたメロディ・ガルドーやズッケロ、ガシ、シラジーらとの共演も含めて不在感がさほどなかったのは確かだろう。そもそもレジェンド中のレジェンドとしてタイムレスな存在になっているスティングだけに、単純に年数をカウントしてどうこうするようなものではない。ただ、今回のニュー・アルバムが〈現状〉に対して強く感じたことを表現した作品になっているのは冒頭の発言からも明らかだ。アルバムのタイトルはズバリ『The Bridge』。タイムレスというよりはタイムリーに、時代の動きからさまざまなインスピレーションを得て彼は本作を作り上げたということだ。

STING 『The Bridge』 A&M/ユニバーサル(2021)

 今回のニュー・アルバムは、世界がパンデミックによる混乱に見舞われた一年の間に書かれた曲で構成されているという。その間には人と人との物理的な距離がまず重要視され、そこから心理的な距離が生まれ、また立場や社会意識、政治的主張の違いに伴う対立や混乱からも距離が生まれ、分断が生まれた。もっとも、スティングが考える〈ギャップ〉とはそうしたロックダウン期に露見してきた諸事情だけには止まらない。純粋な性別の違いや恋愛の際に生じる考え方の違い、歴史上の出来事や国境、音楽ジャンルの違い……そうしたさまざまな橋を架けるべきテーマのことを彼はそれぞれの楽曲たちで表現しているということだ。

 アルバムからのファースト・シングルとして先行カットされたのは“If It’s Love”。もはやスティングのものでしかないメロディーと歌唱、人懐っこい音色と往年の“All This Time”を連想させる爽快な開放感を伴って広がっていく、極めて親しみやすいアップビートに仕立てられたこのポップ・チューンについて本人はこう説明している。

 「恋をし、恋に破れながらも、恋につける薬がないと歌うソングライターは、決して僕が初めてではないし、最後でもない。“If It’s Love”は、僕がその仲間入りをした1曲であり、恋における比喩的な症状や診断、そして恋を前にしたどうにもならない無能力さは、弱々しく微笑まずにはいられないほど、誰にとっても身に覚えのあることだ」。

 ストレートなラヴソングとは異なるアプローチで描かれたこの逸曲だけでも今作のスティングの気合いぶりは十分に想像できるし、アルバムをプレイすればその予想は確信に変わることだろう。アルバムのオープニングに装填された“Rushing Water”には近年の彼には珍しいほどのロックなスティングが漲っている。