〈落語界の太陽〉と称された名人の高座がシリーズ化――落語の魅力を再発見する絶好のチャンス!

 大好評シリーズ第10巻は、昭和の大名人と並び称される五代目古今亭志ん生さんと八代目桂文楽さんがともに得意演目としていた「船徳」と「厩火事」の2席で幕を開ける。

古今亭志ん朝 『落語研究会 古今亭志ん朝10』 来福(2025)

 この両名人を間近で見てきた志ん朝さんの高座が悪いはずがない。若旦那を演らせたらダントツの志ん朝さんが演じる元若旦那の船頭徳兵衛。「船徳」演者は数あれど、これ以上の高座にはなかなか遭遇できないでしょう。この「船徳」は必見。さらに演じる女性の素晴らしさにも定評があった志ん朝さんによるお崎が可愛すぎる「厩火事」も見事。

 そして3席目が多くの落語ファンに人気の「芝浜」。志ん朝さんのこの噺は、たとえば七代目立川談志さんのものと比べると、芝浜で財布を拾うシーンがない。芝へ出かけた魚熊(魚勝で語る演者も多い)が、いきなり革財布を懐に駆け込んでくる。

 五代目志ん生さんもそうだが、古今亭一門の「芝浜」は、この型で演じられる。そして、後半のおかみさんもそれほど湿っぽくない。聞く側の好みもあろうが、あの極上のサゲの瞬間、思わず画面に拍手をしていた。

 同時発売の第11巻。

古今亭志ん朝 『落語研究会 古今亭志ん朝11』 来福(2025)

 最初の演目はあの「黄金餅」。落語ファンなら「黄金餅」と聞いて思い浮かべるのは五代目古今亭志ん生さん。そして、下谷山崎町から麻布絶口釜無村木蓮寺までの約12〜13kmに及ぶ葬列の道中付け(街道の道筋や地名を一気に語りきる)でしょう。志ん生さんはこの段を語ったあと最後に、「みんなもずいぶんくたびれた、そしてあたしもくたびれた」と客席の大爆笑を誘った。

 一方、志ん朝さんは、「みんなもずいぶんくたびれた」で締めている。「そしてあたしも……」は一度もやったことがないらしい。語りのスピードも持ち味だった志ん朝さん、志ん生さんが約60秒で語り切ったこの道のりを、約40秒で駆け抜けている。
残りは、廓噺の名作「三枚起請」と、あまり演じられることがない、もともとは講釈ネタだった「宗珉の滝」の2席。どちらも名演。