スクラッチやジャグリングを想わせる、技神の奔放噺を五夜分!

立川談志 『伝説の談志五夜』 コロムビア(2022)

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 立川談志(たてかわ だんし、1936年1月2日 - 2011年11月21日)は、落語家、政治家及び、DJ、ターンテーブリスト、トラックメイカーであり、落語立川流の家元。本名は松岡克由。出囃子は「木賊刈」、「耳無し芳一Style」。師匠とDJ松永(Creepy Nuts)の履歴をWiki風にミクスチャーしてみた。DMC WORLD DJ CHAMPIONSHIPS 2019で世界一に輝いた松永邦彦がもし、この4枚組を一聴したら一体どんなコメントを寄せるだろうか……落語という名の円盤を自在に操り、古今東西の伝統も人物も芸風も声色も淀みなく紡いでは繋いでゆく天才噺家の〈トラックメイク〉をどう評すだろう……勝手な想像を膨らませつつ、書き出しを思いあぐねていたら、冒頭の偽作履歴に漕ぎ付いた迄の戯れ事だ。

 談志の口調を借りれば「悪かったな」の一行めだが、この掛け合わせが〈聖徳太子スタイル〉のR-指定ではなくDJの松永である点がミソ。「上手い・不味いというのはどこで決めるかっていうと、分かりやすくいうとメロディーとリズムの良い奴を〈巧い〉っていうんですよ、とりあえず」(DISC 4「世相巷談」から)と語る談志、あるいは大好きな雑俳の〈船底をガリガリ齧る春の鮫〉も盛った演目「桑名船」に出てくる講釈師が、鮫の犠牲となる遺言替わりに読む件(二度目の清書~三方原軍記~清水次郎長伝~源平盛衰記~堀部安兵衛……等々)の絶品で、ないまぜなトラックメイキングをDJ松永ならばどうレビューするだろうか!? ぜひ、聴かせて感想を引き出したいもの (それこそ、鮫も待ってます)。『立川談志五夜』(国立演芸場)開催時の本人は59歳、加齢に伴う落語観/人間観/世界観の変化を辿り、いわゆる〈人間の業の肯定〉から〈イリュージョン〉の描写に重点が移行し、パーソナリティを前面に出しながら、微妙なバランスの共犯関係さながらに観客を巻き込みつつ演じていた時期。色川武大の弁「六十歳ぐらいになったら、間違いなく大成する落語家だと思う」が的中する直前の、貴重な伝説口演を蔵出し。これは一つの事件である。