喬太郎のアナザー、落語のアナザー??

 〈キョンキョン〉の愛称で親しまれ、東西で約1000人にも及ぶと言われる落語家の中でもトップランナーの1人として熱狂的な人気を集める柳家喬太郎。古典や新作の垣根を越えた変幻自在、縦横無尽な〈喬太郎ワールド〉は圧倒的な面白さだ。またドラマや映画、演劇などにも出演してフィールドを広げ、さらに存在感を増している。

 大学の落研時代にも名を馳せていた喬太郎は、社会人を経て1989年に古典の名手、柳家さん喬に入門。若手の頃から自在な巧さを見せ、2000年に抜擢で真打に昇進した。これまでNHK新人演芸大賞、国立演芸場花形演芸大賞など数多の賞を受賞。昨年7月に上野の鈴本演芸場の特別企画として行ったリクエスト落語〈喬太郎企画ネタ尽きました、お客様決めてください〉の成果で、今年3月に芸術選奨文部科学大臣賞に選ばれた。

 古典、新作、古典の掘り起こしなど喬太郎の芸域の広さは当代随一だ。アレンジを加えることも多いが、直球ど真ん中の古典落語は確かな腕で滑稽噺や人情噺などを幅広く手掛け、「牡丹灯籠」などの三遊亭円朝作品では迫真の語りを見せる。「柳家喬太郎名演集」に収められた「寿限無」「子ほめ」「松竹梅」(1)、「金明竹」「錦木検校」(2)を聞くと、芸歴20年に満たない時に収録されたとは思えない巧さと奥の深さを感じる。また、「擬宝珠(ぎぼし)」や「綿医者」「にゅう」「仏馬」など演じ手がいなくなった演目を蘇らせる作業も後世に宝を残す大きな功績だ。

 人気を集める新作落語の幅も広い。涙を誘う感動作「ハワイの雪」や爆笑編の「午後の保健室」、落語に歌が入る「歌う井戸の茶碗」など創作力も群を抜いている。2003年には春風亭昇太、三遊亭白鳥、林家彦いちらとSWA(創作話芸アソシエーション・すわっ)を結成。全員で新作落語を創り上げる実験的な形で新しいムーブメントを起こした。それぞれが忙しくなって活動を一時休止していたが、2019年に復活し、公演を重ねている。

 芸歴30年を迎えた2019年11月には東京・下北沢の芝居小屋、ザ・スズナリで1ケ月間にわたる〈落語家生活30周年記念落語会 ザ・きょんスズ30〉を開催し、幅広い演目を口演。その中から選んだ落語を〈古典編〉〈新作編〉に分け、2枚組4セットのCD『柳家喬太郎落語集「ザ・きょんスズ30」』としてリリースした。喬太郎が掘り起こした三遊亭円朝作の長講「熱海土産温泉利書」や新作の「同棲したい」「路地裏の伝説」「純情日記港崎篇」が初めてCD化されている。ジャンル分けされているが、古典新作の枠を超えて、どれもが〈喬太郎の落語〉というジャンルなのだと思う。

 そんな喬太郎が取り組んでいるのが、自作ではない話を落語化し、CDに収録した柳家喬太郎落語集『アナザーサイド』シリーズだ。このシリーズでは江戸川乱歩や紫式部、小泉八雲らの物語を元にした噺や作家の夢枕獏が書き下ろした感動作「鬼背参り(おにのせまいり)」など、古典やオリジナルの新作とは一味違う喬太郎の側面を楽しめる。5月にリリースした7作目には〈改作もある意味、アナザーサイドかな〉と、「極道のつる」と「ウルトラ仲蔵」の改作2席を収録。古典落語の「つる」を織り込みながら、キャラの立った極道たちが大暴れして予想外の展開を見せる「極道のつる」は爆笑必至の異色作。「ウルトラ仲蔵」は「ウルトラマン」好きが高じて、〈ウルトラマン落語〉にも取り組んでいる喬太郎の人気作。歌舞伎役者の出世譚として落語だけでなく、講談や芝居でも知られる名作「中村仲蔵」をウルトラマン版に仕立てたマニア愛炸裂の一席だ。独自の世界観で繰り広げる斬新な発想と展開は喬太郎ならでは。オンリーワンの仕上がりとなっている。

柳家喬太郎 『柳家喬太郎落語集 アナザーサイド 極道のつる/ウルトラ仲蔵』 コロムビア(2025)

 喬太郎の落語はCDでもその躍動感がダイレクトに伝わってくる。喬太郎は4日をのぞく7月1日から10日までの鈴本演芸場の上席・夜の部で芸術選奨の受賞理由となったリクエスト落語の企画に再度チャレンジする。CDを楽しみ、日々進化する生の喬太郎ワールドにもぜひ出会ってほしい。