
音楽人生の現在地を確認する〈交響詩〉
静香のシンフォニックな翼は第2章へ
シンフォニックな翼をまとった工藤静香が1年ぶりに帰ってきた。2025年2月15日に兵庫県立芸術文化センター大ホールで開かれたフルオーケストラ公演〈PREMIUM SYMPHONIC CONCERT 2025〉(柳澤寿男指揮、日本センチュリー交響楽団)を聴いた。
第1部は、ドヴォルザークの“スラブ舞曲 第15番”で開幕。東欧で活躍する柳澤寿男らしいセルビアの民族舞踊がテーマだ。大勢の人が楽しむ軽快なリズムは、柳澤の平和への願いと、この日の舞台への思いが重なって聴こえた。ヒット曲をモチーフにした序曲が荘厳に奏でられると、純白のロングドレスに身を包んだ工藤が登場した。まずは“激情”。昨年はしきりにオケを振り返りながら歌っていたが、今回は落ち着いて、気持ちよさそうに歌う姿が印象的だ。続く“慟哭”を歌い終わると、この日の舞台に立てた喜びを口にした。「普段はバンドメンバーと汽車で線路を走っている感じ。でもきょうは豪華客船の気分。オーケストラの演奏に包まれてエンジョイできているの」。
“霙”(みぞれ)は、長年のバンド仲間である渡辺剛のシンプルな音で切なさを刻むピアノに乗って、もどかしい思いを、しっとりと歌い上げた。“くちびるから媚薬”は、編曲が楽しかった。タンゴ調のリズムに乗って言葉を畳みかける。リリース時の恋人同士の歌が、大人の恋の駆け引きの歌になっていた。前半最後は“恋一夜”。オーボエの郷愁に満ちたメロディに誘われるように、工藤の歌声が優しく甘く、艶やかさを増していく。アコースティックな音色に包まれて、聴衆に語りかけるように染み込んできた

第2部は、チャイコフスキーのバレエ組曲“くるみ割り人形”と、工藤の“in the Sky”の演奏から。管楽器のファンファーレと荘厳な鐘の音が響き渡る。ハープのアルペジオ演奏に導かれるように工藤が登場し、スローテンポで“きらら”を披露した。“Blue Rose”はビッグバンド風のアレンジでエンタメ感たっぷりの編曲。青一色の照明の明滅と打楽器の音に呼応しながら、舞台せましと踊り、歌った。
弦楽の美しい前奏で、自身の作詞曲“Ice Rain”が始まると、曲中、感極まって言葉に詰まった。何度も目元に手を当てながら歌い切る。一呼吸おくと、「本番でこんなことになるなんて!」と、少し恥ずかしそうに言った。「私って、いつも歌いながら感情を抑え込むのが大変で。リハーサルでも、ぐっぐっと来てたんですけど、あまりにもアレンジと演奏が美しすぎて」と、素直な気持ちを吐露した。巧みなオーケストレーションによって、作品に新たな魅力が生まれ、メッセージ性が増すのはシンフォニックコンサートの真骨頂。それは聴衆だけでなく、歌い手自身の心をも激しく揺さぶるようだ。
終曲は、19歳の時のアルバムのタイトル曲“カレリア”を披露した。フィンランドで、ヘルシンキ・フィルハーモニー管弦楽団とともに録音した思い出の作品。過去のコンサートでもクラシック調を大切にしながら歌ってきた、工藤にとってはシンフォニックコンサートの原点のような曲だ。「けれど、当時の私は本当のすばらしさに気づいていなかったの」と振り返り、こう続けた。「久しぶりにオーケストラで聴いていただきたい、歌いたいと思いました」。その言葉通り、当時の自分に語りかけるように、ワルツに乗って優雅に歌い上げた。
鳴りやまない拍手に応えたアンコール曲は、渡辺のジャジーなピアノ演奏で“声を聴かせて”を歌った。コロナ禍で人々の言葉がくぐもってしまった世の中に呼び掛けるように、声量たっぷりに歌い切った。「いろんな経験をして、蓄えて、歌を届けられるよう努力していきたい」と、感謝と決意を口にして、何度も両手で手を振り、投げキッスをしながら充実感あふれる笑顔で舞台を後にした。
ヒット曲で構成された昨年のコンサートから装いを変え、工藤自身が今、歌いたい歌を選んで臨んだ進化と深化のステージだった。それは、2年後のソロデビュー40周年に向けて、音楽人生の現在地を確認する〈2025年の交響詩〉だったと言えるかもしれない。
続く名古屋公演(4月26日)、東京公演(5月17日)は完売。6月7日に追加公演が決定した。同公演では、工藤自身が作詞を手掛けた“勇者の旗”(作詞:愛絵里、作詞・作曲:村松崇継)を横浜少年少女合唱団との共演で披露する予定。静香のシンフォニックな翼は、さらに大きく羽ばたこうとしている。
SETLIST
PREMIUM SYMPHONIC CONCERT 2025
2025年2月15日(土)兵庫県立芸術文化センターKOBELCO大ホール
指揮:柳澤寿男
管弦楽:日本センチュリー交響楽団
<第1部>
1. ドヴォルザーク“スラブ舞曲 第15番”(オーケストラ演奏)
2. Overture(オーケストラ演奏)
3. 激情
4. 慟哭
5. 霙
6. くちびるから媚薬」
7. 恋一夜
<第2部>
8. チャイコフスキー“くるみ割り人形”より“行進曲”(オーケストラ演奏)
9. in the Sky(インストゥルメンタル、オーケストラ演奏)
10. きらら
11. Blue Rose
12. Ice Rain
13. カレリア
ENCORE
14. 声を聴かせて
LIVE INFORMATION
PREMIUM SYMPHONIC CONCERT 2025
2025年4月26日(土)愛知県芸術劇場コンサートホール ※一般席・完売
開演:14:00
2025年5月17日(土)昭和女子大学人見記念講堂 ※完売
開演:15:00
2025年6月7日(土)昭和女子大学人見記念講堂
開演:15:00
指揮:柳澤寿男
管弦楽団:京都フィルハーモニー室内合奏団特別交響楽団(名古屋・6月東京)/バルカン室内管弦楽団(東京)
公演オフィシャルサイト:https://classics-festival.com/rc/performance/shizuka-kudo_premium-symphonic-concert-2025/