シンフォニックな翼まとい
新たな魅力を披露

 J-POPシーンのアイコンとして数々のヒット曲で時代を彩ってきた工藤静香が、自身初となるフルオーケストラ公演〈工藤静香 PREMIUM SYMPHONIC CONCERT 2024〉のステージに立った。昨年、ソロデビューから35年を迎えた工藤が、東欧で音楽による世界平和の実現へタクトを振り続けるマエストロ栁澤寿男率いる兵庫芸術文化センター管弦楽団のシンフォニックサウンドを身にまとい、壮大な作品世界をエレガントに歌い上げ、新たな魅力を披露してみせた。

 コンサートはチャイコフスキーのオペラ「エフネギー・オネーギン」からの“ポロネーズ”でクラシカルに幕開け。続いて、鐘の音を合図に“嵐の素顔”の印象的なテーマが荘厳にリフレインされる序曲が、工藤登場への高揚感を増していく。そこへ、純白の翼を思わせるデザインが施されたベージュのワンピース姿で、工藤は颯爽と現れた。

 1曲目は“黄砂に吹かれて”。まずはオーケストラとの相性を確かめるかのように歌い始めたが、曲の後半には身振り手振りが優雅に、大きくなり、時折演奏を全身で浴びるようにオケを振り返って手を広げた。スケールの大きな工藤の楽曲の世界観は、オーケストラ演奏にぴったりだ。

 MCでは「初めてのシンフォニックコンサートです。一度やってみたかったの」と、やや照れたように笑顔を見せ、信頼を寄せるピアノの澤近泰輔をはじめ、指揮者栁澤らと固く、熱く握手した。「迫力あるオーケストラの音が大好き。心の中にビビッと伝わってくる。普段歌うポップスとはちがう目線で、聴いたり感じたりできる。今日は特別な日になるといいな」と、膨らむ期待感を口にした。

 2曲目の“激情”では、大きな振りで、感情をぶつけるように歌う熱さが増していく。続く“香雪蘭~好きより愛してる~”はスローテンポな曲調。スキマスイッチとのコラボによる配信楽曲で、優雅な演奏に身をゆだねるように声を乗せた。そして、行進曲を思わせる編曲で勇壮に“慟哭”を歌ったかと思えば、“Ice Rain”は再びスローバラードで切なさあふれる歌唱が印象的だった。楽曲ごとにメリハリのあるプログラムでMCはなく、歌い終わると工藤は何度もオケにお辞儀をして前半の舞台を終えた。

 後半はハチャトゥリアンの組曲“仮面舞踏会”のワルツ。民族調の幻想的な旋律が後半ステージへの期待感を高め、澤近はピアノソロで、人気ドラマの挿入歌“きらら”をオケとともに透明感たっぷりに奏でた。

 最初の歌は“Blue Rose”。神秘的なイントロで始まる中、工藤は登場するや踊り始め、ステージを歩きだす。しゃがんだり、座ったり、ジェスチャーもどんどん大きくなった。続く“嵐の素顔”では、パンチの効いた演奏を気持ちよさそうに全身で浴びながら、ステージの端々まで歩き、踊り、歌う。最後のポーズを決めると、笑顔が弾けた。シンフォニックな宇宙を泳ぐように、“めちゃくちゃに泣いてしまいたい”は、しっとりとしたワルツで聴衆を酔わせた。

 残り一曲となったところで、後半初のMCでは「オーケストラの豊潤で素晴らしい、深い深い音を聴いていると、直に音色が心に伝わってくる。自分の曲をアレンジしてくださり、歌わせていただくのは感無量です」と初のフルオケ公演実現の喜びを語った。何を届けようか迷ったという最後の曲は“恋一夜”。心の内を吐露するようなオーボエのイントロから始まり、壮大なオーケストレーションの中で歌い上げた。

 鳴りやまぬ拍手の中、アンコールはマイクを立てて“勇者の旗”を披露した。テレ朝系人気ドラマ「科捜研の女 season23」の主題歌。工藤自身の作詞だ。「恐れずに突き進め……信じた道を進めばいいさ……」。コロナ禍、世界で絶えない戦争や紛争……。混沌と混迷の中にある世界をどう歩んで行けばいいのか、すべての人への応援歌は、荘厳な叙事詩となってホールいっぱいに響き、聴衆を包み込んだ。精一杯両腕を左右に広げ、最後に力強く右手を高く掲げた。管弦楽の色彩豊かな音をまとった工藤が、シンフォニックな翼を得た瞬間。この日のための曲、この曲のためのこの日―と思えるフィナーレだった。

 ポップスのオーケストレーションに定評のある編曲陣が、工藤の楽曲の世界観に新たな可能性を提示した。彼女自身にも新しい風景が見えたのだろう。終演後、舞台裏で工藤は何度も「感動!」を口にした。

 


LIVE INFORMATION
世界遺産・薬師寺東塔落慶記念奉納「工藤静香 SYMPHONIC CONCERT in 薬師寺」

2024年6月16日(日)奈良・薬師寺東塔前特設会場
開演:18:15
出演:工藤静香
指揮:栁澤寿男
管弦楽:京都フィルハーモニー室内合奏団特別交響楽団
https://classics-festival.com/rc/performance/yakushiji2024-kudoshizuka/