©Beyond TNC Ltd and BMG Rights Management (UK) Ltd, 2023. All Rights Reserved.

ニック・ケイヴが在籍した伝説のバンド
その波乱に活動を追った初のドキュメンタリー

 近年は映画音楽の作曲や俳優として映画に出演するなど多彩な才能を発揮している孤高のシンガー・ソングライター、ニック・ケイヴ。彼のキャリアの出発点となったバンド、バースディ・パーティの初めてのドキュメンタリー映画「バースディ・パーティ/天国の暴動」が公開される。監督はオーストラリアの映像作家で、様々なミュージシャンのアートワークも手掛けてきたイアン・ホワイト。映画ではメンバーのインタヴューを交えながら、波乱に満ちたバンドの軌跡を追いかけていく。

 70年代前半にハイスクールで知り合ったニック・ケイヴ、ミック・ハーヴェイ、フィル・カルヴァートの3人はロック・バンドを結成。そこにニックの友人、トレイシー・ピューが加わった頃からバンドはボーイズ・ネクスト・ドアと名乗るようになる。そして、ローランド・S・ハワードが加入してラインナップが固まった。インディー・レーベルからデビューした彼らは、イギリスで一旗揚げようと80年に渡英。旅の途中でバンド名はバースデイ・パーティに変わった。イギリスではなかなか芽が出ず、メンバー全員が狭いアパートの一室に同居する極貧生活。しかも、イギリスでは彼らに影響を与えたパンク・シーンは衰退していた。そういった逆境に対する怒りが過激なライヴとなって炸裂する。

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 プリミティヴなビート。ノイジーなギター。野蛮なベース。そして、歌うというより、腹の底から感情を吐き出すようなヴォーカルがぶつかる凄まじいステージが次第に話題を呼んで、バンドはイギリスのインディ・レーベル、4ADと契約を交わして注目を集めた。本作で紹介される映像のほとんどが当時のライヴ映像というところからも、バースデイ・パーティの魅力はライヴにあったことが伝わってくる。ドラッグまみれの日々のなかでメンバーが窃盗で捕まったり、かなり混沌とした状況のなかでの音楽活動だったが、その混沌こそ彼らの音楽の原動力だった。やがてバンドはベルリンに流れ着き、そこでアインシュテュルツェンデ・ノイバウテンをはじめベルリンのアンダーグラウンド・シーンと交流するが、メンバーの脱退や対立の果てに空中分解してしまう。

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 本作はメンバーのローランド・S・ハワードが発案したプロジェクトだったが、ハワードが09年に癌で急逝。メンバーがプロジェクトを受け継いで映画化にこぎつけたという。そんな彼らに手を貸して製作総指揮を務めたのはヴィム・ヴェンダーズ。「ベルリン/天使の詩」や「アランフエスの麗しき日々」にニック・ケイヴが出演するなどバースディ・パーティのメンバーとは長い付き合いだった。バンド・メンバーや仲間たちがスクラムを組んで作り上げた本作は、メンバー以外は登場せず、当時の様子を再現するアニメのパートが入るくらいのシンプルな構成だが、感情が剥き出しになったバンドの音楽性にはぴったりだ。そして、音楽監修をミック・ハーヴェイが担当していて、バンドの体温が伝わってくるような生々しさがある。今聴き直しても強烈なインパクトを持った音楽、そして、ライヴのエネルギーを最大限に味わうために映画館に足を運びたい作品だ。

 


FILM INFORMATION
映画「バースデイ・パーティ/天国の暴動」

監督:イアン・ホワイト
製作総指揮:ヴィム・ヴェンダース
出演:ニック・ケイヴ/ローランド・S・ハワード/ミック・ハーヴェイ/トレイシー・ピュー/フィル・カルヴァート
配給:フリークスムービー
(2023年|オーストラリア|98分)
提供キングレコード
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https://thebirthdayparty.jp/
2025年4月25日(金)よりシネマート新宿にて、ほか全国順次公開