
2002年(日本では2003年)に公開され、当時社会現象にまでなったディズニーによるアニメーション映画「リロ&スティッチ」。本日6月6日、同作の実写映画が日本で劇場公開された。
陽気な性格だが人知れず悲しみを抱えるリロ、トラブルばかりを起こすもリロたちとの出会いによって変化していくエイリアンのスティッチ。20年以上前にリアルタイムでアニメーション版を楽しんだ世代も、そして実写版で初めて触れる観客も、リロとスティッチを巡るストーリーにきっと心を動かされるはずだ。
映画の公開に先駆けて、6月4日には実写版「リロ&スティッチ」のオリジナル・サウンドトラックが発売された。アニメーション版とは違う、実写版ならではのアプローチも見られる本作について、ライターの服部のり子に解説してもらった。 *Mikiki編集部
劇伴にも影響を与える「リロ&スティッチ」のユニークな作品設定
ディズニー作品「リロ&スティッチ」の実写版映画が全米で5月末のメモリアルデー直前に公開され、予想を超える記録的な大ヒットとなっている。オリジナルのアニメーション映画が全米公開されたのは2002年のこと。オハナ(ハワイ語で家族)をひとつのテーマにした映画のストーリーと共に、当時スティッチに夢中になった人たちが懐かしんで再び映画館に足を運んだことが主なヒットの要因と分析されている。
実際に本作の日本版でデイヴィッド役の声を担当しているTravis Japanの中村海人も、オフィシャルコメントで「子供のころからスティッチはすごく好きで、はじめて買ったぬいぐるみがスティッチだった」と自身の思い出を寄せている。
彼が言うように、日本でも当時アニメーション版の映画は大いに話題となり、各キャラクターも人気となったけれど、あらためて向き合うと、作品の設定自体がとてもユニークだったと思う。
物語の舞台は、ハワイでも手つかずの大自然が残るカウアイ島。ここに住む6歳のリロが主人公で、両親を亡くした彼女には唯一のオハナであるナニというお姉さんがいる。前述のデイヴィッドは、ナニが好きなこともあって、なにかと姉妹を気にかけてくれている存在だ。
そんな強い絆で結ばれたハワイの姉妹に対して、スティッチは銀河連邦の天才科学者が作り出したモンスター。処分される前に逃げてきたスティッチは地球にたどり着き、カウアイ島でリロと仲良くなる。

このSFとハワイという対極にあるようなふたつの組み合わせが実は、音楽にもユニークな化学反応をもたらしている。どこがユニークなのか、そこに触れる前に、まずはハワイ音楽の視点から実写版「リロ&スティッチ」のサントラの魅力を紹介していきたい。

Travis Japan、ナイジャ・ミュージック&ザイヤ・リズムがエルヴィス・プレスリーを歌う
ハワイでは詠唱を中心とする伝統音楽と、讃美歌など西洋の影響を受けたハワイアンと呼ばれる音楽が今も誇るべき文化として愛され続けている。劇中でもナニがウクレレを弾きながらリロと名曲“Aloha ’Oe”を歌うシーンが登場。2人の愛らしい歌声はサントラにも収録されているけれど、この優美な曲は、ハワイ最後の女王リリウオカラニが作曲したハワイ語の歌だ。
ハワイ語の歌は、他にもある。マーク・ケアリイ・ホオマルとカメハメハスクール児童合唱団が歌う“He Lei Pāpahi No Lilo a me Stitch”だ。サントラのオープニングを飾るこの歌は、フラのスタジオを主宰し、伝統文化に造詣が深いホオマルとアニメーション版の音楽を手がけた作曲家アラン・シルヴェストリが共作したもの。
続く2曲目の“Hawaiian Roller Coaster Ride”もこの2人が共作。アニメーション版では“He Lei Pāpahi No Lilo a me Stitch”と同様にホオマルとカメハメハスクール児童合唱団が歌っていたが、今回の実写版ではホオマルの代わりに人気オーディション番組「アメリカン・アイドル」で優勝したハワイ出身のイアム・トンギが児童合唱団と共演している。イアムは、まだ20歳の今注目されている若手シンガーだ。
アニメーション版の劇中では、リロがファンであるエルヴィス・プレスリーの曲が随所でフィーチャーされていた。たしかにエルヴィスは、映画「ブルー・ハワイ」に主演したり、ホノルルで大規模な慈善コンサートを行ったりとハワイと縁のあるアーティストだ。そのため彼の曲が選ばれたのだろうと思ったが、アニメーション版の共同脚本・監督のクリス・サンダースが大ファンだったとか。実写版でも変わらずエルヴィスの曲がいくつか登場するが、その中で今回のハイライトと言うべき曲が“Burning Love”で、とにかくゴージャスなのだ。
“Burning Love”はハワイ出身のブルーノ・マーズがプロデュースし、彼の甥っ子である兄弟デュオ、ナイジャ・ミュージック&ザイヤ・リズムが歌っている。新進気鋭のデュオなので、この映画をきっかけに世界でさらに注目を集めていくことになるだろう。
そして、日本版のエンドソングとして、この“Burning Love”を歌っているのがTravis Japanだ。Travis Japanも、ナイジャ・ミュージック&ザイヤ・リズムも、1972年のヒット曲を若さあふれるフレッシュな魅力でカバーしているのがすごくいい。