
粉々になった鏡を拾い集めても完全に元通りにはできない。ただ、その破片からは新たな形で美しく完全なものを創り出せる――ダーク・ポップに回帰した待望の新作『MAYHEM』は何を歌いかける?
自身の王道への回帰
レディー・ガガが約5年ぶりにニュー・アルバム『MAYHEM』をリリースする。いや、ガガ様ってあちこち出まくってるし、5年ぶりとか絶対違うでしょ、と訝るかもしれないけれど、サイド・プロジェクトを除く自身名義のオリジナル・スタジオ・アルバムとなると2020年の『Chromatica』以来、実に5年も経っている。本来ならカムバックと呼んでもいいところだが、まったくブランクを感じさせないのは、常に最前線でさまざまなプロジェクトに取り組んできたがゆえだろう。
主なところではトニー・ベネットとの2度目のコラボ作『Love For Sale』、自身も出演した映画「ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ」のサントラ参加、その役柄にインスパイアされた派生アルバム『Harlequin』などなど。楽曲単位でも映画「トップガン マーヴェリック」に提供したパワー・バラード“Hold My Hand”、ローリング・ストーンズと共演した“Sweet Sounds Of Heaven”など、ポップやダンスのみならず、ロックからジャズ、はたまたショウ・チューンに至るまで、ジャンルを飛び越え神出鬼没。溢れ出す才能を惜しみなく投下し続けてきた。加えてセカンド・アルバム『Born This Way』の10周年記念アルバム、前作『Chromatica』をさらに進化させたリミックス・アルバム『Dawn Of Chromatica』などのリリースもあり、2022年には8年ぶりの来日公演〈Chromatica Ball〉も実現している。いずれもちょっと横道といった中途半端なものではなく、すべてにおいて全力投球で、自身のプロジェクトを最大限に押し広げてきた。
そして今回7作目のニュー・アルバム『MAYHEM』で久方ぶりに本来のレディー・ガガとしてのスタジオ・アルバムへと軸足を戻し、ニュー・チャプターを切り拓く。その理由が、昨年婚約したIT実業家のマイケル・ポランスキーの「そろそろポップ・ミュージックをまた作ったほうが良いのでは?」という一言だったというから、みんなが求めるレディー・ガガに戻ってきてほしい、との思いはファンのみならず、パートナー氏も抱いていたのだろう。彼は新作からのファースト・シングル“Disease”のソングライターの一人としてもクレジットされており、アルバム全体にも多大な影響を与えている。