まだ見ぬ人々が、かけがえのない日々を続けていくために――
東京・横浜を中心に活動する5人組バンド、yubioriがセカンド・アルバム『yubiori2』を完成させた。神奈川大学・軽音サークルのメンバーを中心に結成され、エモやハードコアを軸とした音楽性で日々の生活や暮らしについて歌い、ライヴハウスで大合唱を巻き起こしている。
「吉祥寺WARPやRinky Dink Studioのパンク・シーンで青春ど真ん中を過ごして、I have a hurt、SUMMERMAN、SLEEPLESSとか、メインストリームからは外れるけれど、海外の影響を受けてカッコいいことをやってる日本のアンダーグラウンドなバンドが好きでした。yubiori自体は大学で僕と阿左美(倫平、ギター)がやっていたbloodthirsty butchersのコピバンが原型です」(田村喜朗、ヴォーカル/ギター)。
2022年に横浜のレーベル、RAFTからファースト・アルバム『yubiori』をリリース。阿左美もメンバーであるkurayamisakaをはじめ、現在盛り上がりを見せる新たなオルタナ・シーンの中核を成すバンドへと成長した。昨年10月にはもともとyubioriのファンだったという大野莉奈(トランペット)が加入している。
「中高大と吹奏楽一筋だったんですけど、仕事を始めてからふらっと立ち寄った下北沢のお店でインディーズのバンドを知って、沼にハマりました(笑)。まず好きになったのがSEVENTEEN AGAiNで、yubioriを知ったのも2023年に彼らが主催した〈リプレイスメンツ〉」(大野)。
『yubiori2』は、地元・横浜の大先輩でもある後藤正文(ASIAN KUNG-FU GENERATION)が主宰するonly in dreamsからのリリース。喜びも苛立ちもひっくるめて〈大人になること〉を雄大なサウンドで描く1曲目の“Maxとき”、疾走感のある曲調が別れの切なさを引き立てる2曲目の“いつか”は、田村が弾き語りで心象風景をメンバーに共有し、その景色をバンドで描き出したという、会心の仕上がりだ。
「ゴッチさんに〈バンドを代表するような曲があるといいよね〉と言われて、追い込まれながら最後に出来たのが冒頭の2曲です。有給をとって一日中部屋に引きこもってギターを弾いたり、サンボマスターの“できっこないを やらなくちゃ”だけを聴き続けたり、絞り出した曲にみんなのアレンジが加わって、いい仕上がりになりました」(田村)。
「景色を見ながら音楽を聴くことが好きで、音楽を聴くためだけにわざわざ遠いところまで行くこともあったり。自分のなかでは景色と音楽が結び付いていて、そういう感覚がアレンジにも表れてるのかもしれないです」(東條晴輝、ベース)。
フィールド・レコーディングやアンビエントな音像が加えられた“春になれば”、田村がラップのような歌唱を聴かせる“終わらない”など、後藤によって引き出された、バンドの新境地と言える楽曲も数多く収録されている。
「“春になれば”はアルバムの終盤に置いておくイメージで作りつつ、サビの裏で僕が叫ぶところとか、ゴッチさんがいろんなアイデアを出してくれて、めちゃめちゃ良くなりました。“終わらない”は、アジカンの“アネモネの咲く春に”の影響を受けています(笑)」(田村)。
「ドラムテックで入ってくれたビートさとし(skillkills/GuruConnect)さんの存在も大きかった。“すばる”はドラムに布団を被せて、マットな音になりました」(中野慈之、ドラムス)。
そんな作品のラストを締めくくるのは、トランペットが印象的な“rundown”。〈当たり前に日々はつづく〉と歌った前作の“つづく”に対して、“rundown”では〈ただ日々は続く お前が望めばいつまでも〉と歌われる。当たり前には続かなくても、それを強く望む意志さえあれば、かけがえのない日々は続いていく。
「仕事もバンドも僕にとっては同じで、自分の構成要素でしかないし、それは友達も家族もそう。そこに対して、〈いま自分はこういう気持ちだよ〉って伝えてるだけなんだけど、それを聴いて、自分の知らない人が周りの人を思ってくれたら嬉しいですね。僕は京急富岡駅から見える〈こんな坂に建てるの?〉みたいな横浜の住宅街が好きで、電車の車窓からあの風景を見ると胸がギュッとなるんです。それぞれの暮らしに対するそういう気持ちも歌詞に出てる気がします」(田村)。
yubioriの作品。
左から、Acleとの2024年のスプリットEP『under a cloud』(FURTHER PLATONIC)、2022年作『yubiori』(RAFT)
左から、ASIAN KUNG-FU GENERATIONの2025年のシングル『MAKUAKE / Little Lennon』(キューン)、GuruConnectの2023年の7インチ『Heaven feat. Gotch / Affordance feat. Daoko』(only in dreams)