独自のコラージュ感覚を羅針盤に、未知なる場所への旅が進行中!!

 2016年、鮮烈なファーストEP『Pain Pain Pain』でパンク・シーンに登場したteto。メンバーは20代後半と決して若くなく、にもかかわらず初心者同然のヘタクソなステージ。遅れてきた青春を取り戻すように七転八倒する姿は、切実すぎる痛みを伴いながら観客を魅了した。ただし、痛みの表現はやがて本人たちをも傷つけていく。2021年に小池貞利(ヴォーカル/ギター)と佐藤健一郎(ベース)以外のメンバーが突然脱退し、tetoは解散も休止も明言しないまま、半年後にサポート・ドラマーのyucco(元2)を正式メンバーに迎え、バンド名をthe dadadadysへと改めることを発表した。

 「同じ形でやり直す気にはなれなくて。ダメになったなら変えるしかないし、ふざけた名前にしたのも自然な流れだった。自分のエゴじゃなくて、入ってくれたメンバーをメインにしていくことを最初は考えたかな。時間はかかると思っていたから、すぐにCDを作るつもりはなかったんです」(小池貞利:以下同)

 この企みに次いで加わったのが、同じくサポートとしてギターを弾いていた山岡錬(元ギリシャラブ)。さらに、以前からの顔馴染みだった儀間陽柄(元ヤングオオハラ)も加わり、2023年以降のthe dadadadysはロックンロール、GS、オルタナ、ニューウェイヴまでを守備範囲とする、実に賑やかで姦しいロック・バンドへと発展していく。

 「もう〈持ってるもの全部使おう〉みたいな感じ。俺が弾けない2人のギターのフレーズもそうだし、オマージュとして引用するネタもそう。昔から勉強してきたカルチャー――音楽に限らず、漫画やアニメ、映画やドラマ、小説やオタク要素も全部使うことにした。だから、自分のなかで〈無敵感〉がむっちゃある」。

 そんな5人組が、結成後初となるCD作品にしてファースト・アルバム『+天竺』をついにリリースした。

the dadadadys 『+天竺』 UK.PROJECT(2025)

 〈I can be anything. So at least make a fool of me until the end〉――何にだってなれる。だから少なくとも最後までバカになっていよう――アルバム収録曲“しゃらら”のこの一節には、バンドの性格が端的に言い表されている。yuccoとの3人で再出発した頃は、ファッションも含めて正統派ロックンロールを継承するような佇まいだったが、曲が増えるごとに異なる表情や技量が加わっていき、途中からはteto時代の名曲もアッパーにリアレンジ。禁じ手はないように見えるが、強いて挙げるなら、シリアス一辺倒の表現は極力避けている。〈最後までバカになって〉いることが、小池にとっては大切なことなのだろう。

 「家で寝転がってる自分とか、友達の前でしか見せない自分も表現したくて。以前は、一生消えないようなわだかまりを抱えながら、かといって〈不幸になれ〉って言いたいわけじゃない、〈お互いなんとか生きてりゃいいよね……〉って仲直りできる音楽を作ってたつもりなんです。でも俯瞰で見たとき、〈俺はいつまでそんな回りくどいことをしてるんだ?〉と思えてきて。いまある感覚をもっとそのまま表現したいし、そのほうが楽だった」。

 言い換えるなら、〈下世話になった〉とも言える。地べたに落ちているような言葉を早口で拾っては投げまくり、メンバーの持ち味を全力で使うその音楽は、繰り返しになるが実に賑やかで姦しい。当然、ガチャガチャしているが、1曲のなかでアレンジや背景がおもしろいほど変化していく展開は、セッションの勢いだけでは絶対に生まれない。

 「いま、曲作りがいちばん楽しくて。より音楽として緻密になってる。たとえば“ホオリィ・嫉妬”はファストコアから始まり、ベンチャーズみたいなリフが出てきて、早口でラップっぽいことをしつつ、最後のアウトロはワルツで終わる。そのイメージは最初からありましたね」。

 FRUITYやIdol Punchといったパンクの先輩たち、さらにはブレイクコアのサンプリング感覚にも影響を受けている小池の、知られざる細密な作曲センス。そして、それを具現化できるメンバーの経験値が、the dadadadysを独自のポジションへと導いている。ファースト・アルバム『+天竺』が完成したいま、5人は飛ぶべくして全国へと飛翔する。

メンバーが参加した作品を一部紹介。
左から、tetoの2021年作『愛と例話』(UK.PROJECT)、ヤングオオハラの2019年作『YOUNG☆TONE』(MUNCHKeeN)、2の2019年作『生と詩』(1994)、ギリシャラブの2021年作『ヘヴン』(都市国家レコード)