「重タール漬けガイ」のショック
この歌でもちろん注目すべきなのは、中村一義の歌詞でいちばん有名だともいえる「そうだ。スヌーピー大好きな奴が、重タール漬けガイでもいい。」というフレーズだと思う。これは曲のいちばんの盛り上がりのところで言われる。
これは2025年としては当たり前のことを言っているんだけど、おそらく「めちゃくちゃタール度数が強いタバコのヘビースモーカーの男」=「ムキムキでコワモテのでかい男」みたいなニュアンスを「重タール漬けガイ」というすこし聞いただけではわからない言葉に落とし込んでいるセンスがすごい。
「重タール漬けガイ」ですよ。これどうやって思いついたんだろう。普段から「重タール漬けガイ」という単語を仲間内とかで使っていたのか、メロディに乗せるために開発されたものなのか、わからないけど、やばいですよね。とくに「ガイ」がすごい。Guyなわけですけど、この流れで出てくる創作された単語にしては馴染み過ぎている。「重タール漬けガイ」を見たときショックでした。一見全然わからない単語なのに、すこし間を置いたら、スッとわかる。重タールも、それの漬けなのも、それがガイなのも、すべて強引なのにわかる。
すべての争いがなくなるための祈り
「重タール漬けガイ」が出てきてすこしあとに、「全ては、みこころのままに。全てはあの、“なすがまま”に…」「全ての人達に足りないのは、/ほんの少しの博愛なる、気持ちなんじゃないかなぁ。」と歌われるんですが、「重タール漬けガイ」は生活の中で少しだけバカにされている優しい気持ちの持ち主のことだったとわかります。
“永遠なるもの”は「愛が、全ての人達へ…。/あぁ、全てが人並みに…。/あぁ、全てが幸せに…。/あぁ、この幼稚な気持ちが、どうか、永遠でありますように。」で締められるんですが、こんなに切実な祈りがあるだろうか。
やっぱり中村一義のテクニカルなところは、「歌い方がなぜかはわからないが洋楽っぽく聞こえる」と「内容が悟りと祈り」と「声が高い」の馴染み方なんじゃないでしょうか。不思議な人だ。
知人が長崎の爆心地でこの曲を聴いて涙を流したという話を聞いたんですが、本当にわかります。すべての争いがなくなるための祈りの曲なんですよ。
小さな優しさが集まれば
中村一義の『金字塔』の歌詞に通底するのは「人生はなすがままに、すでに書かれていることには喜びも苦しみもあるのは当たり前だ」という精神だ。
中村一義が言う通りに、みんなが少しずつ優しくなることができれば、それは小さなことでも集まれば大きいことになれて、いつかはどんな戦争や虐殺もなくなるんじゃないか? そんな祈りなんじゃないだろうか。
RELEASE INFORMATION

リリース日:2025年11月26日(水)
品番:PROT-7358/9
フォーマット:クリアブルーヴァイナル/2枚組アナログレコード
価格:6,600円
TRACKLIST
Side A
1. 始まりとは
2. 犬と猫
3. 街の灯
4. 天才とは
5. 瞬間で
6. 魔法を信じ続けるかい?
Side B
1. どこにいる
2. ここにいる
3. まる・さんかく・しかく
4. 天才たち
5. いっせーのーせっ!
6. 謎
7. いつか
Side C
1. 永遠なるもの
2. 犬と猫 再び
3. 最果てにて
4. 主題歌 *
5. 金字塔 *
Side D
1. ホッパーとポッパー *
2. いっせーのせっ!(山登り編)*
3. 天才とは(孤高の天才編)*
4. 永遠なるもの(管弦楽器編)*
5. おまけ
*ボーナストラック
PROFILE: 奥野紗世子
1992年生まれ。小説家。「逃げ水は街の血潮」で第124界文學界新人賞受賞。近作に「享年十九」(「文學界」2023年11月号)。
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