新鋭・やまもとはるとがプロデューサーの川辺素と初アルバムを語る!!
小山田壮平、小西遼、川辺素――才気溢れた音楽家にいま愛されている若きシンガー・ソングライターが、やまもとはるとだ。福岡出身、現在は東京を拠点に活動している彼が、ファースト・アルバム『流れる雲のゆくえ』をリリース。小西が手掛けた1曲を除いて川辺のプロデュースによる同作は、ときにキラキラと眩く、ときに感傷的なフォーク・ロックの傑作になった。完成を記念して、やまもと&川辺の対談を行いました!
――やまもとさんは福岡で元andymoriの小山田壮平さんにお世話になったそうですね。
やまもとはると「はい。壮平さんは自分にとって心の師匠みたいな存在です(笑)。ソロの作品から壮平さんを知ったのですが、たまたま地元で出会って〈すごい音楽家だ〉と衝撃を受けて。いろいろなことを教えてもらったし、壮平さんとの出会いが上京も後押ししてくれました」
――〈やまもとはると〉としてはいつ頃から活動しているんですか?
やまもと「2020年の年末くらいからですね。その時期はスピッツとかエレファントカシマシを聴き込んでいました。でも、歌うことが好きになったきっかけは氷室京介さん。父親がファンだったんですけど、彼を観て〈人前で歌うのってカッコいいな〉と感じたんです」
――川辺さんのバンド、ミツメは聴いていましたか?
やまもと「実はそんなに(笑)。でも、一回ライヴを観たことがあったし、“クラゲ”という曲が好きでした」
――川辺さんもプロデュース依頼が来て、やまもとさんを知った?
川辺素「そうですね。ただ、曲を聴いてやりたいなって思いました。着飾ってない感じが魅力的だったし、自分が手伝うことで上手くバンド・サウンドにできそうだなと。だけど、そのあとに小西(遼)くんが編曲した“君の暮らす街”を聴いて、全然イメージが変わってて(笑)」
――今回のアルバムにも収録された“君の暮らす街”は小西さんならではのジャジーで華やかなポップソングに仕上げられていましたね。
やまもと「僕が弾き語りで作ったデモに、サックスや低音を入れてくれて、現在の形に。アレンジャーさんとやってみて、自分の曲が想像を超えていくことに感動したんです。他に誰とやるのがおもしろいんだろう?と考えて、川辺さんに辿り着きました」
――川辺さんが関わった曲は、弾き語り版の“散歩道”以外の8曲はバンド・メンバーを固定していますね。ギターにDYGLの下中洋介さんかPunPun Circleさん、ベースは井上真也さん、ドラムスはBROTHER SUN SISTER MOONの岡田優佑さん。
川辺「下中くん以外の面々で最初に制作した“フィルムの中”の完成後に、やまもとくんサイドから〈ずっとこのメンバーがいい〉と言われて」
やまもと「自分にとって初めてのバンドでの録音で、すごく楽しかったんです。雰囲気も良くて、〈こんな時間をずっと求めていたんだな〉と感じました」
――川辺さんは、どうしてこのメンバーを集めたんですか?
川辺「その場で何か言っても臨機応変に対応できるミュージシャンだというのはありつつ、はるとくんがセンターでギターを弾いているイメージがあったので、それを損なうことなく細かいグルーヴの変化やニュアンスで曲に差異を付けていくことのできる人に声を掛けました」

――アルバムを貫くコンセプトなどはありましたか?
やまもと「いえ、毎月レコーディングがあって、そのために1曲ずつ作っていく感じでした」
川辺「マンネリになったらどうしようと心配だったんですけど、意外にヴァリエーションが出せましたね」
やまもと「特に“初恋の約束”は川辺さんのアレンジに助けられました」
川辺「〈リード曲にしたい〉という話があったので、テンポを少し早くするなど積極的な介入をしました(笑)。あと、少しノリをベースとドラムで強調するアレンジにしたり。僕はアコギが入っているものでも、若干ソウル味のある曲が好きなので、そのニュアンスを足して開かれた曲にしたかったんです」
――まろやかなグルーヴはアルバム全体に貫かれていますよね。アルバム収録曲で他にアレンジが印象的だったものは?
やまもと「全曲〈ご褒美〉みたいな制作だったんですが、なかでも“散歩道”のバンド版は、川辺さんっぽいところがあって、嬉しかったですね。あと“みちしるべ”はPunPunさんのスライド・ギターが最高で、アレンジで聴かせられる曲という印象です」
――川辺さんが作曲かつヴォーカリストとしてもクレジットされている“ラブレター”も聴きどころですよね。
川辺「ある程度、アルバムの全体像が見えてきた段階で曲をお願いされたので、パーティー・ソングを作ろうと思ったんです。男2人でのダブル・ヴォーカルってあまりないじゃないですか? 井上陽水さんと奥田民生さんのものくらいしか思いつかなかったので(笑)、彼らのように肩の力が抜けて聴こえる曲があったらいいなと思って作りました」
――やまもとさんの歌詞がバンド讃歌になっているのも良くて。
やまもと「この曲の下中さんのギター・ソロが凄すぎて、そういう歌詞を呼んだのかも(笑)。音の楽しさを消さないように、メンバーのことを考えながら書きました」
――川辺さんはやまもとさんの歌詞にはどんな印象を持たれていますか?
川辺「衒いがないのがいいなと思います。素直に人柄が出ているし、思ったことを思ったまま歌うというのが、すごく良い状態だと思う。本人の魅力が屈折せずにちゃんと出ていますよね。スコーンと自分を出せるソングライターって簡単にはなれないんですよ」
やまもと「それは周りが優しかったからだと思います。いつも周囲の人が自分を受け入れ続けてくれていました。考えると、音楽においてもそうですね」
川辺素の参加作を一部紹介。
左から、ミツメの2023年の12インチ『ドライブ EP』(SPACE SHOWER)、Kaedeの2024年のシングル“いけない”(Fall Wait)