柔らかなシンセ・サウンドと優美なメロディーに彩られた新作。現行のモードやフォーマットに囚われず、6人の歌い手と共に作り上げた水鏡に映るものは──

この機材だからこその音

 パソコン音楽クラブの3枚目となるフル・アルバム『See-Voice』。彼らは本作にデビュー以来のスタイルとは一線を画する大胆な変化を刻み付けた。これまでの楽曲を貫いていたクラブ・ミュージック由来のダンサブルなビートを抑制し、柔らかなシンセ・サウンドと優美なメロディーを前面に押し出してきたのだ。

パソコン音楽クラブ 『See-Voice』 パソコン音楽クラブ(2021)

 「ファーストもセカンドも、限定された時間帯の中での情景の変化を表現したアルバムだったんですけど、今回は実際の情景ではなくて、心理や精神的なものを音楽で表現したんです。過去作との一番の違いはそこだと思います」(西山)。

 全編を通じて〈水〉を主題にした内省的な音と言葉をコンセプチュアルに紡いでいるのだが、そこにはコロナ禍以降の状況も少なからず影響を与えたようだ。

 「コロナの問題が起きて家から出なくなったタイミングで作っていたので、外部の何かに触発されることがなくて。本当に二人だけでお互いの顔を見て作ったので、内面と向き合うような感じにならざるを得なかったと思います」(西山)。

 「外に行く機会もライヴを行う機会もかなり減ってしまったので、ダンス・ミュージックを作るテンションにはなれなかったということもありますね。いまの心境にフィットした曲を自然と作っていた結果として、ゆったりしていて、掴みどころのない曲調のものが多くなったのかなあ、と」(柴田)。

 そうして自分たちの内面と向き合いながらアルバムを制作することは、おのずと自分たちが好きな音と改めて向き合い、掘り下げるプロセスでもあったという。

 「今回リファレンスした音楽は、シーケンシャルな音楽というよりは宅録にシンセサイザーが入ってるみたいなもので。具体的に挙げると、鈴木慶一さんの水族館レーベルからリリースされた、若手の音源を集めた2枚のコンピとか」(西山)。

 「あとは初期のGONTITIの、アコースティック・ギターの後ろで打ち込みが鳴っていたりするバランス感がいま新鮮に聴こえてきて」(柴田)。

 「そういうすごく好きな空気感の音楽を聴きながら、いろんなジャンルに点在している自分たちの好きな要素をくっ付けてみました」(西山)。

 そうしたアコースティックな響きを採り込んだ音楽にインスパイアされながら、生の楽器をフィーチャーせず、あくまでシンセによるギター調などの音色で全編を構成しているところに彼らの(当人いわく「アクの強い」)個性が見い出せる。ここでは、アンビエントやニューエイジと共通する質感を湛えつつ、独自のフィルターを通して表現されたオリジナルなサウンドが鳴らされているのだ。

 「〈アンビエントというジャンル〉が土台にあるというよりも、アンビエントで使われているようなシンセサイザーの音色のキラキラした成分に惹かれていて、そういう音をたくさん入れた結果としてアンビエント的に聴こえるのかもしれません。そもそも、なぜ自分たちがこだわりを持って、音源モジュールとかの古い機材を使っているのかを考えると、そういう音色が好きだからなんですよね。今回はこの機材だからこそできる、自分たちの好きな音を積極的に使いました」(西山)。

 

自分たちの内面が剥き出しに

 また今回は、過去作にも参加したunmoやTokiyo Ooto(And Summer Club)、トラックメイカーとして活躍するSagesaka Tomoyuki(isagen)など、これまで以上に多くのヴォーカリストをフィーチャーしているのも大きなトピックだろう。洒脱でドラマティックな展開を見せる“Listen”では猪爪東風(ayU tokiO)がナチュラルな歌唱を寄与している。

 「猪爪さんはまったく面識がなかったんですけど、ayU tokiOのヴォーカルの感じが曲のイメージとピッタリだった。メロディーとかワクワクする感じにフィットすると思ったので、まったくの飛び込みでお願いしたら、ぜひやりましょうと言ってくださったんです」(西山)。

 “Panorama”に迎えたのは弓木英梨乃。アコースティック・ギター風のサウンドと、透明感と凛とした表情を併せ持つ彼女の歌とが心地良く寄り添う。

 「歌っていただいた“Panorama”は、自分の好きなものをまっすぐやる青さを表現したかったんです。弓木さんの声は大人っぽさと若々しさと両面があって、歌詞に合うなと」(西山)。

 浮遊感のあるシンセ・ポップ“潜水”には川辺素(ミツメ)をフィーチャー。どこかミツメにも通じるメランコリックな響きが美しいナンバーだ。

 「ミツメは僕らふたりとも昔から大好きなバンドで。他の楽曲は、イメージに合ったヴォーカルの方を探してお声掛けしたんですけど、この楽曲に関しては初めから川辺さんが歌う前提で作りました」(西山)。

 そしてアルバムの締め括りには川辺素とunmoのダブル・ヴォーカルによる“海鳴り”が配されているのだが、この楽曲を含めた終盤の2曲で、それまで抑制されていた強力なダンス・ビートが立ち現れる点に耳を惹かれる。

 「水を鏡に見立てて自分の内面と向き合うというアルバムのコンセプトは、11曲目の“透明な青”でいったん終わっていて。そこからはコンセプトから抜け出して、その先を描きたいなと考えたんです。心の内側から外の世界へ進もうと。その推進力をとして強いビートが出てきました」(柴田)。

 現行のモードやダンス・ミュージックのフォーマットに囚われず、描くべきモチーフを表現することと、自身の好きなサウンドとをひたすら追求した『See-Voice』は、それゆえの無二の響きを成立させている。言ってみれば〈やりたいようにやる〉という、ある意味でシンプルな方向性へと振り切ったわけで、だからこその明快な訴求力を備えているように思う。そして、彼らが内面と向き合いながら紡いだこの美しい音の数々は、誰もの日常の感情にフィットするはずだ。

 「いまの自分たちはダンス・ミュージック的なビートにあまり重きを置いていないですし、いわゆるトラックメイカー的な音楽の作り方とは違うなと、今回のアルバムを作って改めて思いました。“ぬけて”という曲なんかは、ほとんどフルートのソロだけで構成していますけど〈これでいいじゃん、ビートを入れる必要もないし〉って。今回はそういう感じが強いですし、いましか作れないものになったかなと思います」(柴田)。

 「ダンス・ミュージック的なビートって社会性が表れるのかなと思っていて。踊りたくなるようなビートを入れることって、他の人に対しての社会性なんじゃないかと。今回は、〈わかってほしい〉とか〈共感してほしい〉という気持ちが希薄になっていて、自分たちの内面が剥き出しになったような作品になりましたね。こうして出来上がった後になって、そのことが不安になってきたりもしているんですけど(笑)、でもそこが自分たちの作品のおもしろいところだと思っているんです」(西山)。

『See-Voice』に参加したアーティストの関連作を紹介。
左から、ミツメの2021年作『VI』(mitsume)、And Summer Clubの2021年作『Dreaming Galaxy』(こんがりおんがく/TETRA)、ayU tokiO/SaToAの2020年作『みらべる』(なりす・コンパクトディスク)、isagenの2021年作『sh』(TREKKIE TRAX)、弓木トイの2019年作『みんなおもちゃになりたいのさ』(ヤマハ)

 

パソコン音楽クラブの活動記録とワークスのごく一部を紹介!!

パソコン音楽クラブ 『DREAM WALK』 パソコン音楽クラブ(2018)

Maltineからの配信作『PARK CITY』に続く初のフル・アルバムは、80~90年代のシンセやハード音源を用いたダンサブルな音作りで広くその名を知らしめた佳作。都会的な“OLDNEWTOWN”や軽快にスウィングする“Inner Blue”などの歌モノも交えた架空のノスタルジーが新鮮だ。

 

パソコン音楽クラブ 『Night Flow』 パソコン音楽クラブ(2019)

長谷川白紙やunmoらゲスト・ヴォーカルも交えてさらに親しみやすさを増した2作目。ジャケにリンクしたようなサウンドメイクのセンスも相変わらず抜群で、持ち前のシンセ使いが光る“Air Waves”や、イノウエワラビをフィーチャーした感傷的な歌モノ“reiji no machi”がとりわけ素晴らしい!

 

パソコン音楽クラブ 『Ambience』 パソコン音楽クラブ(2020)

翌年LP化もされている本作は、ステイホーム期間に制作されたミニ・アルバム。まさにタイトル通りに自粛中の自分たちの生活を取り巻く空気を表現したという全6曲のインスト集で、絶妙なKankyo Ongaku感は今回の新作『See-Voice』にも繋がっていくものだろう。

 

 自作で脚光を浴びるのに前後して、tofubeats“ふめつのこころ”(2018年)のリミックスで名を広めたパソコン音楽クラブは、多彩なフィールドからの注目を集めて一気に外部での制作仕事を増やしてきた。近年は〈ポケモン〉曲まで手掛ける彼らだが、ここではフィジカルで入手できる作品の一部を紹介しておこう。

 まず、名作ゲーム「パックマン」の生誕40周年記念コンピに提供した彼ら名義の“EAT & RUN”は本編の音源を豪快に積み上げた中毒性たっぷりなダンス・トラックだ。他アーティストとの仕事でも、ましのみの水星ライクな“NOW LOADING”を編曲したり、詞曲も丸ごと手掛けたRYUTistの瑞々しいシンセ・ポップ“春にゆびきり”などの好曲がたくさん。藤井隆が率いるSLENDERIE RECORDのコンピにおける藤井の80sダンサブルな“14時まえにアレー”、電音部・港白金女学院の灰島銀華(CV:澁谷梓希)による都会的な佳曲“Haiiro no kokoro”、ここなつ2.0のテクノ・ポップ“メモリーズ”など多彩なフィールドでの仕事も要チェックだ。

 数多いリミックス・ワークでは、フィロソフィーのダンスやsora tob sakana、YMCK、Ghost like girlfriend、For Tracy Hydeなど引っ張りだこだが、近年でデカいのはリミックス参加のお返しに手掛けたCHERRYBOY FUNCTIONのアンセム“The Endless Lovers”のリミックスだろうか。他にも女性声優ユニットであるサンドリオンの“キラーチューン”、アーバンギャルド“傷だらけのマリア”などのリミックスも一聴すべき仕上がりとなっている。 *阿蘭済士

左から、2020年のコンピ『JOIN THE PAC -PAC-MAN 40th ANNIVERSARY ALBUM-』(U/M/A/A)、ましのみの2020年作『つらなってODORIVA』(ポニーキャニオン)、RYUTistの2020年作『ファルセット』(PENGUIN DISC)、2020年のコンピ『SLENDERIE ideal』(SLENDERIE RECORD/よしもとミュージック)、電音部(港白金女学院)の2020年作『New Palace』(ASOBINOTES)、ここなつ2.0の2021年作『ホシノメモリー』(コナミ)、フィロソフィーのダンスのリミックス集『SAPIOSEXUAL』(PHILOSOPHY OF THE WORLD)、CHERRYBOY FUNCTIONの2020年のEP『suggested function EP#5』(ExT)、サンドリオンのベスト盤『SOUND OF BEST』(スターダスト)、アーバンギャルドの2021年作『TOKYOPOP 2』(前衛都市)