柔らかなシンセ・サウンドと優美なメロディーに彩られた新作。現行のモードやフォーマットに囚われず、6人の歌い手と共に作り上げた水鏡に映るものは──
この機材だからこその音
パソコン音楽クラブの3枚目となるフル・アルバム『See-Voice』。彼らは本作にデビュー以来のスタイルとは一線を画する大胆な変化を刻み付けた。これまでの楽曲を貫いていたクラブ・ミュージック由来のダンサブルなビートを抑制し、柔らかなシンセ・サウンドと優美なメロディーを前面に押し出してきたのだ。
「ファーストもセカンドも、限定された時間帯の中での情景の変化を表現したアルバムだったんですけど、今回は実際の情景ではなくて、心理や精神的なものを音楽で表現したんです。過去作との一番の違いはそこだと思います」(西山)。
全編を通じて〈水〉を主題にした内省的な音と言葉をコンセプチュアルに紡いでいるのだが、そこにはコロナ禍以降の状況も少なからず影響を与えたようだ。
「コロナの問題が起きて家から出なくなったタイミングで作っていたので、外部の何かに触発されることがなくて。本当に二人だけでお互いの顔を見て作ったので、内面と向き合うような感じにならざるを得なかったと思います」(西山)。
「外に行く機会もライヴを行う機会もかなり減ってしまったので、ダンス・ミュージックを作るテンションにはなれなかったということもありますね。いまの心境にフィットした曲を自然と作っていた結果として、ゆったりしていて、掴みどころのない曲調のものが多くなったのかなあ、と」(柴田)。
そうして自分たちの内面と向き合いながらアルバムを制作することは、おのずと自分たちが好きな音と改めて向き合い、掘り下げるプロセスでもあったという。
「今回リファレンスした音楽は、シーケンシャルな音楽というよりは宅録にシンセサイザーが入ってるみたいなもので。具体的に挙げると、鈴木慶一さんの水族館レーベルからリリースされた、若手の音源を集めた2枚のコンピとか」(西山)。
「あとは初期のGONTITIの、アコースティック・ギターの後ろで打ち込みが鳴っていたりするバランス感がいま新鮮に聴こえてきて」(柴田)。
「そういうすごく好きな空気感の音楽を聴きながら、いろんなジャンルに点在している自分たちの好きな要素をくっ付けてみました」(西山)。
そうしたアコースティックな響きを採り込んだ音楽にインスパイアされながら、生の楽器をフィーチャーせず、あくまでシンセによるギター調などの音色で全編を構成しているところに彼らの(当人いわく「アクの強い」)個性が見い出せる。ここでは、アンビエントやニューエイジと共通する質感を湛えつつ、独自のフィルターを通して表現されたオリジナルなサウンドが鳴らされているのだ。
「〈アンビエントというジャンル〉が土台にあるというよりも、アンビエントで使われているようなシンセサイザーの音色のキラキラした成分に惹かれていて、そういう音をたくさん入れた結果としてアンビエント的に聴こえるのかもしれません。そもそも、なぜ自分たちがこだわりを持って、音源モジュールとかの古い機材を使っているのかを考えると、そういう音色が好きだからなんですよね。今回はこの機材だからこそできる、自分たちの好きな音を積極的に使いました」(西山)。