ディープ・パープル『Made In Japan (Super Deluxe Edition)』がリリースされた。ロック史上屈指の名ライブ盤に最新リミックスなどを加えた、5枚組の拡大版にして決定版だ。今回は、本作が録音された1972年8月15日の大阪フェスティバルホール公演を目撃している音楽ライター近藤正義に、アルバムについて綴ってもらった。なおディープ・パープルは2026年4月に来日公演を開催することを発表したばかり。〈ライヴ・イン・ジャパン〉を控える今こそ、本作を振り返りたい。 *Mikiki編集部

ロック界最強の奇跡的ライブ盤
1968年のデビューから、途中に8年ばかりの解散期間があったとはいえ、現在も精力的に活動を続けているブリティッシュロックの巨星、ディープ・パープル。ここに紹介するのは彼らの1972年8月の初来日公演を収録した『ライヴ・イン・ジャパン』。本作は2枚組アナログLPとしてリリースされたのが1972年の12月。以来、ロック界最強ライブアルバムの一枚として賞賛され続けること、なんと53年。恐ろしく息の長いロングセラーゆえに、このアルバムはロックギターを嗜む者であれば知らない者はいないという奇跡的なアイテムとなった。
1993年に中途半端な完全版がリリースされたこともあったが、2013年には正真正銘の完全版『ライヴ・イン・ジャパン SUPER DELUXE BOX』もリリースされている。そしてこの度、新たな〈スーパー・デラックス・エディション〉として再びリリースされたのが本作である。
絶対的な個性で疾走し、スリルとクオリティを併せ持った演奏
時代は60年代後期のホワイトブルースがハードロックを生み、その牽引役だったブリティッシュハードロックが一番旬だった70年代の前期。パープルはちょうど1970年の『Deep Purple In Rock』でハードロック宣言を行い、『Fireball』を経て『Machine Head』をリリースしたのが72年の春で、初来日公演が同じ年の夏。その数カ月後の12月には、この『ライヴ・イン・ジャパン』が2枚組LPでリリースされた。
どの曲も凄まじい。聴いてすぐにマネしたくなるようなシンプルさと、ハードロックなのにしっかりとしたメロディー。それに全員が中音域で一丸となって疾走するドライブ感はこの第2期のメンバーによる絶対的な個性だ。バンドに一番勢いがあって、しかもメンバー間の仲が微妙になり始めた1972年というタイミングだったからこそ、これほどスリルとクオリティを併せ持つ演奏ができたのだろう。後に第2期パープルのいろんなライブがリリースされて聴けるようになったが、やはりこのアルバムの時期が一番良い演奏だと思う。
『ライヴ・イン・ジャパン』収録現場で起こったこと
当時、僕は中学3年生で大阪初日の8月15日を観た。今と違って、最初から最後まで皆んなおとなしく座って観ている。それがアンコールになったとたんステージに向かって走り出す。一番前には警備員が待ちかまえていて、それをくい止めるというお決まりの図式。今となっては笑い話なのだが、それが現実だった。コンサートの感想としては、僕はスタジオ盤をかなり聴き込んでいたのでライブはけっこう荒っぽい演奏だと思った。ところが、後から発売されたライブアルバムで聴くと断然ライブバージョンの方が好きになったのだから、勝手なものである。僕にとっては、実際に観たコンサートがライブアルバムになったことで、スタジオ盤とは違う魅力に目覚めた初めての体験だったのだ。
ただ、オリジナル盤にはアンコールが入っていなかったのが残念だった。実際には演奏されていた曲が収録されていないという寸止め状態でファンを悶々とさせるのだから、誠に高度な営業戦略といえよう。そこへ後になってアンコールで演奏された壮絶な“Black Night”をベストアルバム『24 Carat Purple』(1975年)で発表したものだから、もしかしてもっと強烈なテイクがあるのではないか?とファンはヤキモキする。そして、その思いが全曲を網羅した『ライヴ・イン・ジャパン SUPER DELUXE BOX』(2013年版)のリリースへとつながった。