久しぶりに開けた部屋の扉、子供の頃に使っていた部屋の扉。そっと開けて足を踏み入れ、時間が停泊したままの書棚から今の自分にとって光る宝物を探すように、TOMOOはメジャー2作目となるフルアルバム『DEAR MYSTERIES』で豊かな過去の記憶を手繰り寄せた。
思えば2023年のメジャー1stアルバム『TWO MOON』から約2年、TOMOOは、まさに快進撃と言う他ない活躍で歩を進めてきた。今年5月に開催した自身最大規模となる日本武道館公演の成功、さらに〈FUJI ROCK FESTIVAL ’25〉やMrs. GREEN APPLE主催の〈CEREMONY〉など大型ライブイベントへ多数出演。タイアップ曲を制作する機会も増え、その度に深い洞察力と色彩豊かなソングライティングで新たなリスナーと出会い続けてきた。
『DEAR MYSTERIES』では、この2年間で発表したタイアップ曲に加え、メジャーデビュー以前から披露していたものの未だ音源化されていなかった楽曲、そして現在のTOMOOがありのままを書き連ねた新曲とおよそ3つの時間軸を持つ作品が交錯している。そこでは、「日陰の豊かさを見に行きたくなった」という動機によってTOMOOが向き合った10代の記憶も顔を覗かせている。ファンキーに彩られた『TWO MOON』とは異なる、J-POPのマナーに即したバラードが存在感を放つ本作は、TOMOOというシンガーソングライターにとっての原点と到達点を同時に指し示している。
今回はアルバムの発表に合わせTOMOOにインタビュー。まずは『DEAR MYSTERIES』というタイトルに込められた真意から、心境の変化や彼女の考える〈J-POPらしさ〉に至るまで、奥へ奥へと探求していく。『DEAR MYSTERIES』のサブテキストとして、共に楽曲の表情を見つめながらご一読いただきたい。
※このインタビューは2025年11月25日(火)に発行予定の「bounce vol.504」に掲載される記事の拡大版です

さりげなくて身近なものの中に宝があったりする
──まず最初に驚いたのがタイトルです。『DEAR MYSTERIES』ということで、何か確固たるコンセプトがあるのではないかと。
「タイトルは……締切の日に決めました(笑)。というのも、音源制作がギリギリだったので、曲目が出揃ったのも遅かったんですよ。個人的には曲を眺めてタイトルを決めたかったんですよね、なので『DEAR MYSTERIES』というのは名付けたばかりなんです」
──なるほど。
「曲のキャラクターから共通項を考えた時、何か掴めそうで掴めないものというか、秘密めいているものを追求している曲が並んでいると思ったんですよ。それに、このアルバムには〈つつむ〉ようなニュアンスが何度も表れていることに気づいたんです。例えば“Present”は包み紙で中が見えない状態になっていますし、“雨粒をつけたまま”という曲には〈でもかばんの中は/コーヒーのいい匂い/だれかがさがすわけもないけど/わたしだけの秘密さ〉という歌詞もあります。私の鞄の中にはコーヒー豆の袋が入っていて、それが雨降りの日にも濡れないような自分の心のワクワクみたいなものを表している。でもそれが他の人から見えることはない、みたいな。そういう〈外からは見えない宝〉みたいなイメージをひっくるめた時に、〈MYSTERY〉っていう単語は合うかもしれないなぁって、ふと浮かんだんですよね。
最初はそのまま『MYSTERY』に決まりそうだったんです。けど、いざタイトルを提出する時に〈もう一声ないかな?〉みたいな雰囲気になって。〈MYSTERY〉っていう言葉だと流石に意味が広すぎると思ったんですよね。そうしたら突発的に〈親愛なる〉という意味での〈DEAR〉が浮かんできて。 それによって曲の対象がクリアになるというか、私の作曲のあり方と重なる部分を表現できたような気がしたんです。誰かに手紙を書いたり、吐露したり、時に呼びかけてみたり。そういう切実さを出したかったんですよね。
そして最後に、個人的な思い出が個々の曲にあることも踏まえて、それを尊重するために複数形の〈S〉を付けて『DEAR MYSTERIES』というタイトルになりました」
──隠されたものを隠された状態のまま出すというアイデアはジャケットにも表現されているように感じました。昔読んだ「ミッケ!」を思い出すようなアートワークというか。
「わかります、『ミッケ!』みたいですよね(笑)。『ミッケ!』ってその先に見たいものがあるっていう、奥の方まで探したいっていうワクワクが重要な要素としてあると思うんですよ。作品の奥まり感、みたいな。
しかも、そこにある全てが財宝とかいうわけではなくて、重厚感のあるアイテムからプラスチック製の軽やかなものまで、雑多なものが集まっていることが重要なんじゃないかと。自分が音楽を作るときに足がかりにするモチーフも、さりげなくて身近なものだったりするんですよね。その中に宝があったりするんですけど」
